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魔女の娘  作者: 青木 文
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6 目覚め

 ぱちぱちと、聞き覚えのある音がする。まぶたの向こうが暖かい。そうだ、これは火のはぜる音だ。おばあちゃんちで、たき火してるうちに寝てしまったんだっけ?背中が寒いから、もう夕方かも知れない。

 起きて、夕御飯の支度を手伝わなきゃ。

 起き上がろうとして、出来なかった。手足が動かない。さっと頭が冷えた。目を見開いて、自分の体を確認する。

 手が背中で硬く縛られていた。足もだ。動かそうとすると、痛い。

 口から悲鳴がもれる。何で、こんなことになっているんだろう。訳が解らない。恐い。

「やっと目を覚ましたか」

 上から、人の声が降って来た。頭がガンガンして、良く聞こえない。

 無理矢理顔をあげる。男の子だ。きっとあたしと大して違わない年だ。でも、あたしとは全く違う。

 あたしは、恐かった気持ちも忘れていた。ただ、彼の顔を見つめる。いや、顔とじゃなくて髪だ。彼の髪の毛、夕闇でも輝く金の色を。

 あたしだって、金髪ぐらい見たことある。あたしのすんでる町だって、外人はいるし、髪を染めた大人はもっと沢山いる。でも、彼の髪はそんなものじゃないくらいキラキラしてた。本当に太陽の色。

「アーロはどこだ?お前が、彼女を連れて来たのか?」

 声が、苛立った様に乱れる。ラジオを通して聞こえるような不明瞭な音。

 違う。さっきからずっとだ。あたしの耳は、彼の声を上手く拾うことが出来ない。なんで。耳がおかしくなったのかな。

 それに、彼が話してるのは、何語?日本語じゃない。あたしは、こんな言葉知らないはずだ。

「おい、答えろ」

 そう言って、襟首を掴んでひき起こされる。

「痛い!」

 悲鳴を上げて、首を竦めた。首が苦しい。

「ラセル」

 あたしの後ろで新しい声がした。優しそうな声で、少しだけほっとする。

「だって、こうしてる間にもあいつが・・・」

 男の子が声の方を見て、うったえた。あたしも、誰が喋ったのかが見たくて、首をまわそうとする。でも、男の子に掴まれているので、動かない。彼がそれに気付いて、手を放す。支えを失って、あたしの体はまた地面に転がった。

「いたァ」

「ごめん、」

 男の子の口から、雑音混じりの言葉がもれる。その時あたしは、さっきまで、雑音がしていなかったことに気付いた。いつからだっけ?

「モリビトか・・・!」

 まだ、ラジオの声だ。なおったのは一瞬だったのかな。

「大丈夫ですか?」

 優しい声だ。この人の声も掠れちゃってる。大きな手が後ろからあたしを起こしてくれた。

「ありがとう」

 あたしは首を捩って、あたしを起こしてくれた人の姿を確認した。綺麗な、優しそうな人。声のとおりだ。女の人みたいな長い服を着ているけど、男の人だろう。

 この人の髪は、男の子よりもっと、珍しい色をしている。自毛なのだろうか。そんな訳ない。こんな髪の色ある筈ないもの。でも、その髪の色は彼のブルーの目にによく似合ってる。だって同じ系統の色だから。

 彼の髪は、晴れた日の空と同じ色だった。

「縛ったりしてごめんなさい。あなたもアーロネッサの仲間かと思いまして」

 にこやかな笑顔。学校の先生を思い出した。きっと彼は誰にでも、こんなふうに接するんだろうな。

「ウエンディ、モリビトに言葉は通じないだろ」

 男の子が、声をかける。モリビトって、あたしの事だろうか。言葉が通じない?

「でも、さっきはちゃんと通じてましたよ。今だって、私達の言葉を理解しているみたいですし」

 『ね』とでも言う様に、ウエンディ?があたしの方を見た。あたしは思わず頷く。

 男の子が、息を飲んだ。

「キャクジンか」

「そうではないかと。多分、姫君に関する・・・」

 二人だけでそこまで話して、あたしの方を見ている。訳が判らない。

 不意に、男の子が動いた。あたしの腕を掴む。

「なっ・・・なによ」

「間違いないな」

 男の子が、かすかに微笑んだ。ちょうど、尚が新しい言葉を覚えた時のような時のような得意そうな表情。

「お前は、魔女の何だ?」

「へ?」

 思っても見ない言葉を聞かされて、あたしは間の抜けた声を出してしまう。

「アーロネッサと言う名を知ってるか?」

 一体何が言いたいんだろう、彼は。

「それって、ひとの名前なの?」

 男の子が、ため息を付いた。

「ダメだ。何の役にも立ちそうにない」

 随分失礼なことを言うやつだ。大体、あたしは日本人なんだから、外人の名前なんて知る訳がないじゃないか。

 外国の名前だよね。クラスにもアンナとかマリアとか言う名前の子がいるけど、アーロネッサなんて変な名前聞いたことも・・・ない?違う。

「なお…?」

 そうだ、良く聞き取れなかったけれど、尚が言っていたのはその名じゃなかったっけ?

「知ってるのか!?」

「知らない!」

 急に、いろんなことが蘇ってきて、あたしは叫んだ。

 かわってしまった尚。離れてしまった手。

「何よ!みんなで訳わかんないことばかり言って。あたしが何も知る訳ないじゃない!」

 腹が立って、悔しくて。あたしは彼を睨み付けた。

 口を開けば、泣き出してしまいそうで、何も言えない。

 たき火の熱が、ほおを熱くしている。

 ぱちぱちという火のはぜる音にしゅうしゅうという蒸気音が混ざった。

「お湯が、沸いたみたいですね」

 ゆったりと、ウェンディが動く。

 火のそばから、鈍く光るやかんのようなものをかき出した。

「紅茶は、飲んだことありますか?」

「あるよ」

 ティーバックなら、自分で良くいれる。

 ウェンディは、にっこりと笑った。

「でも、アリーシアのは、あなたの世界のお茶とはちょっと違うと思いますよ」

「ありーしあ?」

 何の事だろう?どっかのメーカーだろうか?

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