2 おばあちゃんの家へ
「おねえちゃんジュース買ってもいい?」
プラットホームの電光掲示板を見上げていると、尚がスカートの裾を引っ張った。
「何飲みたいの?」
「ファンタ!」
「ファンタは無いわよ。スプライトでいい?」
「うん」
自販機の前でボタンを押してやる。いくら、ひかりの組で一番ののっぽでも、5歳の子供には届かない高さだ。あたしも何か買おうかと思って止めた。尚はいつも最後まで飲みきれないことは分かってる。
「11時20分発だって」
言っても尚には分からないけど、確認するために声に出す。
尚がジュースを自販機から取り出して、あたしを見上げた。その目が、半分開いた口が、あたしを落ち着かせる。『おねえちゃん』であることを確認させる。
「終点の駅だもん。ずっと乗っていればつくわよ」
「電車に乗るの」
尚が満足そうに頷いた。尚にとって見れば、今までの事も、ちょっとしたお祭りみたいな物なのかも知れない。尚にはまだ解らないのだ。
もうあの家には帰れないこと。
あたし達の両親が、離婚したこと。
褪せたオレンジ色の車両が、ホームに滑り込んでくる。
「この電車に乗るの?」
「うん」
気の抜けた空気音を響かせて、ドアが開いた。
危な気な足取りで、尚が電車に駆け込む。
「尚、走らない!」
あたしはその背中に声をかけた。