第099話 公開プロポーズ
グレイン達はアウロラの心配をしながら雑談していると、応接室にラミアとダラスを連れたトーラスが戻ってくる。
「お久しぶり……です、グレイン」
「あぁ、ラミアか。元気だったか?」
「はい……。弟様は私のようなゴミ虫であっても、人間様と同等に扱ってくださいますので」
ラミアは顔を引き攣らせていたが、どうやら笑おうとしているようであった。
「……とりあえず先に目的を伝えるが、リーナスが指名手配された。俺達が奴の捜索と逮捕を依頼された。しかし、うちのパーティは俺しかあいつの顔を知らないんだ。そこで、リーナスの人相を知っている二人にも協力してもらいたい」
「リー……ナスッ!!」
突如、ラミアがぎりぎりと奥歯を軋ませ、両の握り拳は血が流れるほどの力が込められていた。
「あの男……絶対に……許さないィィィィ!!」
「何なんだ? リーナスに余程恨みを募らせてるみたいなんだが……」
グレインが、怒りで顔を歪め、人相まで変わってしまったラミアを見て、ダラスに尋ねる。
「あぁ、ニビリムで捨て置いていかれたことを恨んでいるようでな。『街に襲われる』のがよほど怖かったんだろう。あの日のことは今でも夢に見るんだそうだ」
ダラスは致し方無い、といった様子で、怒りに打ち震えるラミアを只々眺めている。
グレインはそんなダラスの様子を見て、ラミアを放っておく事にした。
「ラミアが少し心配だが、話を続けるぞ。全体を四つに分けて捜索に当たろうと思う。まず、捜査本部をここに設置する事にして、トーラスはここで待機をお願いする」
「あぁ、分かったよ。お茶を用意して待っていよう」
「いつも済まないな。……あとは実働部隊で、三つに分かれよう。俺とラミア、ダラス班だ」
「妾はダーリンと一緒がいいのじゃ!」
サブリナが突然そんな宣言をする。
「わ、私もグレインさまと一緒がいいですっ!」
「……私も……グレインさんがいい……」
サブリナにつられるように、ハルナとリリーも希望を言い出す。
「わ、わたくしは……トーラス様に添い遂げたいですわ!」
皆が驚愕の表情でセシルに振り返る。
「セシル、別に結婚相手を宣言しろとは言ってないぞ」
グレインが茶化し気味にそう言うと、セシルは口元に手を当ててあわわわ……と震えている。
「言い間違えましたわ……。ほ、本心が……あ……」
何故か公開プロポーズされたトーラスは、突然の事に驚きながらも顔を真っ赤にしていく。
「セシルちゃん……。困ったな……」
「兄様、どうするの? ……セシルちゃんに……答えてあげて。……そんなに……アウロラ様がいいの?」
セシルは、リリーの口からアウロラの名が出ると、慌てて大声を上げる。
「いいいいえ、たっ、ただの言い間違いですわよ! 構わないで聞き流してください!! 班! そうですわ、班分けをいたしましょうっ!」
「まぁ、セシルがそう言うなら……。じゃあ、ラミアとセシル、ダラスとハルナが組んでくれ。俺はサブリナと行動する。リリーはここでトーラスの護衛を頼みたい」
「「「はいっ!」」」
「じゃあ出発し──」
「その前にっ! トーラスさん、例の通信魔法をお願いします」
「あぁ、それがいいね」
トーラスは指先ほどの魔力の玉を次々と生み出し、『災難治癒師』のメンバーに手渡していく。
「よし、それじゃ気を取り直して、しゅっぱ──」
「その前に、チーム名が必要ですわ!」
何度も話の腰を折られたグレインは、ジト目でセシルを見る。
「チーム名は適当に頼むよ。セシルが決めちゃっていいからさ。早く行こうぜ」
グレインは既に疲れて、若干投げやりになっていたため、この判断が間違いだった事には気が付かなかったのである。
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グレインとサブリナは並んで王都の中を歩いている。
「ダーリン、次はあの屋台のものが食べたいのじゃ! むふふふ……食べ歩きデートじゃの」
サブリナは蕩けそうな目でグレインと腕を組んで歩く。
「──チーム『熟年夫婦』! 今サブリナさんの声が聞こえましたわ! これはデートではありませんわよ! 繰り返します。これはデートではありませんわ!」
グレインの左耳にセシルの小言が響く。
「分かってるよ、チーム『痴情のもつれ』……だったか」
「──そうですねっ! セシルちゃんが『痴情のもつれ』、トーラスさんが『禁断の愛』、私が『若気の至り』ですっ!」
ハルナのフォローが入るが、そもそも王都の街中でそんな単語を口に出したくはないグレインなのであった。
「セシルに一任しなけりゃよかったな……」
後の祭りであった。




