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第093話 罪状

「リーナスが……指名手配だって!?」


 ナタリアから伝えられた依頼の内容に一番驚いたのは、当然のようにグレインである。


「なぁ、あいつ何やらかしたんだ? ……もしかして俺への暴行が原因か?」


 ナタリアは首を振る。


「残念だけど、あんたへの暴行はただの冒険者同士のいざこざってことで処理されているから、今更何のお咎めもないわよ。……悔しいけどね」


 ナタリアは下唇を噛み締め、握り拳に力を込めている。


「じゃあ、一体……。あ、道具屋で毒消し草と薬草の本数を誤魔化した事か? それとも武器屋で店主の親父を脅して武器を格安に値下げさせた事? 公衆浴場で女湯を覗いた事か?」


「窃盗に恐喝に覗き!? あんた一体どんだけ犯罪犯してるのよ……。せめてあたしのこの手であんたを騎士団に突き出してあげるわ」


 そう言ってナタリアは何処からともなくロープを取り出し、グレインを縛り上げる。


「違う違う、俺じゃないぞ! 全部リーナスの単独犯で、俺達はあとでそれを知ってあいつを叱る役目だったんだ。女湯覗きがバレた時なんて、ラミアにビンタ喰らってたぞ」


「……まぁ良いわ。じゃああんたの事を騎士団に突き出すのは一旦保留するわね。疑わしきは罰せずよ」


「お前、まだ俺の事疑ってるだろ。……ロープ解いてくれよ!」


「……リーナスの罪状説明に戻るわね。こないだ闇ギルドが『新ヘルディム共和国』って勝手に名乗り始めたじゃない? あの時、当然ながら王宮騎士団が、闇ギルドに占領された街を奪回しようと動いて、武力衝突が起こったの。でも結局、領地の奪回には失敗、闇ギルドは新共和国の設立を宣言した……その戦いで、闇ギルド側の部隊を率いて王宮騎士団を退けたのがリーナスだということが判明したのよ」


「はー……。ギルド職員相手に強請り集りをしてたあいつが部隊長か。偉くなったもんだな」


 グレインは鼻の頭を掻きながら、どこか他人事のような感想を述べる。


「その話も初耳ね……。でも、そんな呑気なこと言ってられないのよ。聞いた話だと、彼はおよそ人間らしからぬ怪力を持っていて、その剣一振りで騎士団員を数人まとめて鎧ごと叩き斬ったらしいわよ」


「あいつにそんな力があったとはなぁ」


 グレインはどうにかロープを解こうと身を捩っていてそれどころではないため、どうしても生返事になる。


「いや、どう考えてもおかしいでしょ!? 闇ギルドに身体を改造されたとか、リーナスの姿形を真似ただけのバケモノとか、はたまた地底人が……」


「ナタリアはそういう創作話の本を読み過ぎなんじゃないのか? とりあえず事実だけを教えてくれよ」


 グレインは、次第に話の方向がずれてきているのを感じた為、軌道修正を試みる。


「お姉ちゃんの机にはそういう創作小説みたいな本はありませんでしたよっ! あるのは『つま先立ちダイエット』とか、『寝ながら出来る美容体操』とか、あとは結婚情報誌が山積みにな……って……」


 突如ドヤ顔で会話に参入してきたハルナであったが、グレインの意図を全く理解せず話を迷走させただけである。

 おまけに、顔を真っ赤にして睨むナタリアの目を見て竦み上がってしまう。


「ハルナ、あとで少し話があるから……ね?」


 その場にいた全員に悪寒が走るほどの笑顔でナタリアが告げた。



********************


「結局あまり情報なかったよな……」


 グレイン達はサランの広場でベンチに腰掛けて、ナタリアとの『話がある』ハルナを待っている。


「仕方ありませんわ。騎士団の怪我人から得られた証言ですもの。多少話が大きくなることもありますわよ」


 セシルはそう言って何かを思索している。


「リーナスが王都にいるというのも、ヘレニアで捕まえた者どもの証言じゃしな」


 溜息交じりにサブリナが言う。


「あぁ、元仲間のアイシャとセフィストな。あと闇ギルドの奴」


「あのクズどもはたとえ『元』であっても、もう仲間と呼ぶでない。ダーリンの格が落ちるわ! 真の仲間は……妾達じゃ。あ、でも妾はダーリンの妻……そうするとこの場合、仲間と言うより夫婦……ダーリン、新婚旅行は何処がいいのじゃ?」


 そう言いながらサブリナはグレインのロープを一生懸命解こうとしているが、途中でデレデレして全く解ける兆しがない。


「ねぇ、僕達は何を見せられてるのかな……」


「……甘い甘い……バカップルの会話……」


 トーラス兄妹がベンチでイチャつく二人を冷めた目で見ている。


「そもそも、俺はまだ誰とも結婚してないだろ……。でもさ、リーナスが王都にいるっておかしいよな?」


「あぁ……そうだね。闇ギルドにとって王都は敵地真っ只中だ。しかも王都にあった闇ギルド本部も、さきのクーデターの折に騎士団によって制圧されているはずだよ。もう王都に闇ギルド関係者の隠れ場所は無いんじゃないかな」


「お前の屋敷にいるだろう」


「あ、そういえばそうだったね。すっかり忘れてたよ。『これ』」


 トーラスは右手を突き出し、その先に小さな霧を生み出すと、その霧の中に手を差し入れる。

 トーラスが手を引き出すと、生きたままのリックの頭部だけが霧の中から姿を現す。


「お、お坊っちゃま、いえトーラス様、おやめください! 私は闇ギルドにも、ましてや誘拐などにも関わっておりません!」


 トーラスはリックの頭部の隣に、同じように霧を生み出すと今度はリックの右手だけを引き出した。

 同様に左手、右足を引き出すが、どれも頭部と並んでバラバラに空中から生えており、人間には到底不可能な体勢である。


「グレイン、闇空間は次元の狭間って説明したよね。それはこういうことさ。この空間の中では、すべての物理法則は成り立たない」


 そう言うとトーラスは、自分の足元にも霧を生み出し、そこからリックの左足を引っ張り出す。


「ほらね」


 グレイン達はむしろ、トーラスがこのリックの頭部と四肢を、これからどのようにするのかが気になってしょうがない。

 何故ならここは、サランの街中の広場なのだ。


「さぁ、それじゃあリックが本当のことを言うまで、一本ずつ手足を切断していこうか」


「「だめーーーーっ!」」


 必死でトーラスを止めるグレインとセシルであった。


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