第092話 反省会
「「「申し訳……ありませんでしたぁっ!」」」
ギルドの応接室では、三人の男女が土下座させられている。
まずはグレイン。
「本当に済まなかった……。俺がやられたせいで、多くの命が失われるところだった」
次にサブリナ。
「いや、元はと言えば妾の不注意じゃ。ミクルは……確かに他の子どもの話を聞く限り特別な存在であったからのう。特に注意しておくべきじゃった」
「でも……そういうトラブルがあそこまで大きな騒ぎになったのは、全部ウチの責任よ……。大人数が乗れる馬車が一台しかないから、ウチの判断で、訓練場で人数数えてからヘレニアに運ぶっていう話を反故にして、リリーとセシルを先に行かせてしまった……。ウチが……ウチが全部悪いんよ……」
三人目の土下座はアウロラである。
アウロラは憔悴しきった様子で、弱々しく喉が鳴っているだけのような声を出している。
ヘレニアの子どもたちを救出してから、はや二週間が過ぎていた。
グレインの怪我を肩代わりしたサブリナは、ハルナと傷を分け合う事で、トーラスがリリーを連れ帰るまで、辛うじて命をつなぐことができたのであった。
とは言え、あと一歩遅かったら二人とも帰らぬ人になっていたことは誰の目にも明らかであるため、こうして関係者をギルドに集めて反省会が開かれている。
反省会の前に、救出した子供達のヘレニアへの帰還と、騎士団管轄の治療院による洗脳状態の確認など、諸々の手続きを優先していたため、開催までに二週間もかかってしまったのである。
「はぁ……。あんた達ねぇ、あたしは別に、犯人探しをしたいわけじゃないのよ?」
ナタリアが溜息交じりに言う。
「『誰が悪いか』で言えば、一番悪いのはそのミクルって子を洗脳してた奴でしょうが。『私が悪かった』じゃなくて、今後はどうすればいいか、どういう点に気を付ければいいか、を話し合うのがこの反省会の趣旨よ」
「そうだな。貴様等ゴミクズの鼻毛のような些細な命の為に、我らが女王サブリナ様の御命が危険にさらされたのだぞ! 特にグレイン、アウロラ、貴様等の責任は重大だ! それぞれ何が悪かったのかを反省し──あがっ!」
ナタリアがリッツを殴り飛ばす。
「だ、か、らぁ……それが犯人探しじゃないのよ! そういうのをやめろって言ってんだよォォォ!!」
「ヒィィぃぃぃ!!」
ナタリアの迫力に押されて、リッツが情けない声を出す。
「おぉ……あの魔族一の武闘派魔人、睨み殺しのリッツがビビっておるとは……! なんとも珍しいものが見られたものじゃ」
サブリナはそう言って、ケラケラと笑い出す。
グレインはそれを見て、再び涙ぐむ。
「サブリナ……本当に生きててくれて良かった」
「うふふっ、よかったですねっ!」
ハルナもそんなグレインを見て笑顔になる。
「ハルナもだぞ? まさかあそこで、命懸けでサブリナを助けてくれるとは思わなかった」
「サブリナさんは、グレインさまの大事な人ですから……。大事な人の大事な人は……やっぱり大事な人ですっ」
ハルナはそう言って、一人顔を赤くしてグレインに背を向ける。
「う、ウチ!」
和やかな雰囲気を打ち壊すように、アウロラが叫ぶように声を上げて立ち上がる。
「ギルドマスター辞める!!」
「「「「えぇーーーーっ!」」」」
「何もそこまでの事じゃないだろ? ナーたんが言ってたように、悪いのは洗脳してはやふ……いへぇ」
「誰がナーたんよ……。恥ずかしいからやめなさい」
見ればナタリアが正座しているグレインの頬を抓っている。
「二人きりのときはそのように呼び合っているのですね」
セシルがいつの間にかメモを取っている。
「んな訳あるかぁ! 今が初めてだわ! ……とにかく『ナーたん』禁止で」
「分かりました……ナポリタン」
「……今のどこにナタリア要素あったのよ!? あぁん!?」
ナタリアは巫山戯たグレインを睨みつけると、グレインは蛇に睨まれた蛙のようになってしまう。
「さすがは第一夫人……。隣の妾もちびりそうな迫力じゃ」
「サブリナも黙りなさい」
「はい……なのじゃ……」
「とりあえず、アーちゃんの発言は一時的なものだと思うから気にしないで。それじゃ、自信喪失しているアーちゃんの代わりに通達するわね。グレイン達『災難治癒師』は今回の功績をもってCランクパーティに認定します。所属メンバー全員がCランクよ」
「なんか、ランク上がってもあんまり嬉しくないよな」
グレインの言葉が示すとおり、『災難治癒師』の一同は喜ぶでもなく、悲しむでもなく、ただただ無感情といった様子であった。
ところが、ナタリアの言葉を聞いて態度が一変する。
「Cランクからは、ランクアップ特典があります」
「「「「「お?」」」」」
「ギルドの酒場のメニューが全品一割引」
「「「「「おお!!」」」」」
「宿屋利用料、装備の購入、修理費用の一割をギルドが負担」
「「「「「おおおお!!」」」」」
「ギルドマスターからの超難度依頼の指名」
「「「「「おおおおおお!! ……お?」」」」」
「なぁ、最後のおかしくないか?」
「はい、それじゃあ指名依頼するわね。みんな、そこに立ってちょうだい」
そう言って、ナタリアもグレイン達と向かい合う位置に立つ。
「『災難治癒師』の皆さんには、王都に潜伏していると思われる指名手配犯の捜索を依頼します。その指名手配犯は……元冒険者ギルド所属パーティ……『緑風の漣』リーダーのリーナスです」




