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第087話 執事長

「グレイン、どういうことだい?」


「詳しくは後で話すからさ。とりあえずその通りにしてくれないか?」


 グレインとトーラスは、ギルドの訓練場でトーラスが開いた転移魔法の渦の前に立ったまま相談をしている。

 グレイン以外のパーティメンバーは、既に転移渦の繋がった先──トーラスの家の応接室に転移済みであり、最後にグレインとトーラスが残ったところを見計らい、グレインが声を掛けたのだ。


「……あぁ、分かった」


 トーラスの承諾を受けて、グレインは転移する。


 応接室では、使用人たちが淹れた紅茶と茶菓子に舌鼓を打つセシル達の姿があった。

 この紅茶はベリーの香りがする、どのお菓子が美味しい、などとキャッキャとはしゃいでいる。

 グレインは使用人の目を気にする素振りをしながら、使用人に指示を出している男性に声を掛ける。


「すみませんが、トーラスが来たら大事な話をするので、人払いをお願いできますか?」


「おぉ、これはグレイン様。かしこまりました。……それと、今お茶をお持ちします」


「俺の名前をご存知なのですか」


「……申し遅れました。私、執事帳のリックと申します。この屋敷にいらっしゃったお客様の事は全て頭に入れておりますよ。そうでないとこの仕事は務まりませんので」


 グレインが声を掛けた人物は、偶然にも『誘拐犯のリーダー』と言われた執事長、リックであった。

 リックは、五十過ぎぐらいの男性で、ところどころブラウンが混ざった白髪に同じ色の口髭をたくわえ、優しい目をした、いかにも紳士、といった感じの印象を与える人物である。

 あのヘレニアでの事情聴取がなければ、とてもじゃないが犯罪者とは思えないほどであった。


「あなたが……執事長ですか。初めまして、グレインと申します。これからちょくちょく顔を合わせる事になるかも知れませんので、よろしくお願いします」


 リックは恭しく礼をして、グレインの紅茶を準備する。



********************


 その後しばらくしてからトーラスが転移してきて、リック達使用人は応接室から次々と出ていく。


「トーラス、随分遅かったな。ギルドで何かあったのか?」


 トーラスは何故かグレインにジト目を向けている。


「あの後、ちょうどアウロラさんが通り掛かってね。少しばかり別れの挨拶をしていたんだ。そしたら……君の鬼嫁が、『いつまでやってんのよ! 転移魔法で一瞬で来られるんでしょうが! さっさと行けやぁ!!』って、転移渦に蹴り落とされたんだ」


「鬼嫁って……ナタリアの事か? まだ俺はあいつの婚約者だって認めてないからな」


「僕はただ、アウロラさんをお茶に誘って、そのあと夕食でも、って言っただけなのに」


「「「「夕食はないだろ」」」」


「リリー、言っちゃ悪いが君の兄さ──」


「兄様……頭おかしい……お茶に誘う時点で……どうかしてる」


 グレインの言葉に対して食い気味に答えるリリー。


「あぁ、やっぱそうだよな……。俺の仲間にはまともな奴がいないのかな……」


 グレインは少し落胆気味に呟くのであったが、気を取り直して行動にうつる。


「みんな、聞いてくれ!」


 グレインは手を叩き、一同の注目を集めながら言った。


「さっきギルドから新しい情報が手に入った。次の目的地は……ニビリムに変更だ。王都の騎士団と連携して、一気に闇ギルドの本拠地を攻め落とすぞ」


「い、いよいよ決戦ですねっ! 緊張してきました……」


 ハルナはグレインに目配せする。


「ダーリン、それはどういうことじゃ? 妾たちは……むぐ……」


 何かを言おうとしたサブリナだったが、ハルナに口を塞がれる。


「サブリナ、大丈夫だ。お前の心配事もすぐに解決する。トーラス、『さっき伝えた通り』転移魔法を頼む。いきなり街中だとまずいから、こないだみたいに街の外に転移してくれ」


「分かった。その前に……リック!」


 応接室のドアが開き、リックが一礼をしてから入ってくる。


「僕たちはこれからニビリムへ向かう。ダラスと姉さんには、僕の留守中も変わらず屋敷の警護をお願いすると伝えておいてくれ」


「かしこまりました」


 そう言うと、リックは部屋からいそいそと退出する。


「『闇転移(ポータル)』」


 トーラスが転移渦を生み出し、続々と入っていくメンバー。

 最後にトーラスが転移渦を抜けた先は……かつてグレインとトーラスが密談した、あの洞窟の中である。

 当然ニビリムに転移すると思っていたメンバー達は首を傾げてざわついている。

 唯一勘付いたハルナだけはグレインに頭を撫でられているが。


「グレイン、本当にここでいいのかい?」


 トーラスはグレインから、『俺が何を言っても、転移渦はあの洞窟につないでくれ』と言われていたのだ。


「あぁ、ニビリムはフェイクだ。俺たちの目的は最初から王都だからな。それとトーラス、内通者は……おそらくリックだ。彼は誘拐犯のリーダーらしいからな」


「……なんでもっと早く教えてくれなかったんだい?」


「トーラスは……なんか芝居が下手そうな気がしてな」


 ただ一人、リリーだけが吹き出す。


「兄様……子どもの頃……劇で草木の役しかやらせてもらえなかった」


 それを聞いて笑い出す一同と、顔を真っ赤にするトーラスであった。




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