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第080話 教育

おかげさまで30,000PV超えました。

ありがとうございます。

元気とやる気をいただいております!

「だぁ〜かぁ〜らぁ〜、早く出せ! 腹が減って死んじまうだろうが! 早くここから出せぇ! このクソババア!」


 ナタリアの案内でギルド裏の小屋に案内されたグレイン達が見たのは、獣のように喚き散らすミスティであった。


「ぐっ……! だ、誰が、クソババアよっ! ほんとにいつまでも口が汚い女ね」


「そうじゃな……ほれ、ナタリア殿はこのように、まだ子どものような体つきではないか。これを掴まえてババアとは聞き捨てならんな」


 そう言いながらサブリナは、ナタリアの控えめな胸を、自身の豊かなそれと比べるように触っていた。


「ひっ! サブリナ、やめなさいよ!」


 突如、牢屋の外で巻き起こる破廉恥騒ぎに、唖然としているミスティ。


「なんだこの女は……。って! その翼に尻尾! お前も魔族なのかよ!」


 その言葉を聞いて、ナタリアの身体をベタベタと触っていたサブリナの動きが止まる。


「お前……『も』……じゃと?」


 突如鋭い視線をミスティに向けるサブリナ。


「え……ミスティちゃん、なんかマズイ事言っちゃった感じ? てへっ、何でもないよぉ〜」


「「「何でもない訳あるか!!」」」


「ミスティとやら、妾以外の魔族を見たのか? いつ、どこで見たのじゃ?」


 突如そっぽを向いてぴーぴーと口笛を吹くミスティ。

 それを見てグレインは、ハルナに声をかける。


「なぁ、教えてくれないのか?」


「教えたって何も良いことないしねー」


「しょうがない……。ハルナ、ちょっとミスティを『教育』してやってくれないか?」


「え……いいのですか?」


「あぁ、別にミスティにとっては、タダでヒールをかけてもらえるんだからありがたいんじゃないのか」


「承知しました、お任せくださいっ!」


 ハルナはレイピアを抜き、牢へと近付く。


「ちょっと待ってハルナ! 収監している者へ危害を加えるのは禁止されているのよ!」


 ナタリアがハルナを止めに入ろうとするが、そのナタリアをさらにグレインが止める。


「正直に話そうとしないミスティは、おそらくどこか身体の具合が悪いに違いない。だからハルナにヒールをお願いしようと思ってな……。『危害』じゃなきゃいいんだろ?」


 そう言ってグレインは意地悪そうに口角をつり上げる。


「うきゃあ……。ダーリンの凛々しいお顔が……」


 ひとり色めき立つサブリナ。


「身体の具合が悪いって……赤ん坊じゃあるまいし」


 ぶつぶつと文句を漏らすナタリアを他所に、ハルナは牢の前に立ち、目を閉じてレイピアに治癒魔力を集中させる。

 同時に、グレインもハルナを強化する。

 ミスティはこれから何が起こるのかと、牢の中で立ち尽くしていた。

 ハルナの眼が見開かれた次の瞬間、レイピアは檻の隙間から、棒立ちしていたミスティの腹部を貫く。


「あががが……うあああっ! いた、いたいぃぃ!」


 ハルナがレイピアをゆっくりと引き抜くと、ミスティはあまりの痛みでその場に倒れ、のたうち回るが、彼女の身体からは一滴の血も流れていない。


「死ぬ! 死んじゃうううう!」


 牢の床藁を撒き散らしながら痛みに悶えるミスティを見て、グレインは言葉を掛ける。


「どうだ、話す気になったか? これは激痛を伴うヒールだから、身体に一切ダメージはないんだ。つまり、ハルナの魔力が尽きるまで続くぞ? さーて、ハルナは次にどこを刺すのかな?」


「うぅ……ふぅー……ふー……誰が、言うもんかぁ……」


 ある程度転げ回った後に、痛みが落ち着いたミスティは、獣のような唸り声を上げてグレインを睨みつけている。


「これって……確かに危害は加えてないけど、ただの拷問って事よね……。まぁ、この娘も少し痛い目に遭わなきゃ分からないかもね」


 ナタリアは目の前で行われている『教育』の様子を見て、戦慄しながらそう呟いていた。



********************


「痛たぁっ!……うぐぅ……。分かった分かった! 全部喋るから!」


 結局、ミスティが観念したのは五度目の治癒剣術を受けた直後であった。


「でもさ、何回も繰り返してると、この痛みが少し快感って言うか、癖になってくるね。終わった後にはヒールのおかげで少し元気になってるしさ」


 ミスティの言葉は聞こえなかった振りをして、グレインは質問する。


「魔族を見たのは、いつ、どこでだ?」


「んーっと、一ヶ月ぐらい前かな? 行くあてがなくて、あの墓地に住み始めた時に、その魔族の人がやって来てね、『シェアハウスをしよう』って言う訳よ。墓地で野宿なんだからハウスも何もないんだけどね」


「つまり魔族はあの墓地に住んでたのか」


「……ううん、本当のところはどうなのか分からない。シェアハウスの意図は、ミスティが地上に住んで、その人は地下に住むって事で住み分けをしようって話だったから。それで……」


「それで、自分の為にも、その魔族の為にも、幽霊騒ぎを起こして墓地から人を追い払っていた訳か」


「……っ! どうしてそれを……。まぁ、そういう訳でーす……」


 ミスティはグレインに話のオチを言われて、すっかり拍子抜けしてしまったようで、やる気なく話を終える。


「でも、ミスティ。墓地から人を追い払うことで、お前にはどんなメリットがあったんだ?」


 ミスティは俯いて答える。


「……お金……くれたんだよね。食料を買うにも必要だろうって。その代わり自分の存在は誰にも喋らないで欲しい、って」


「なるほど……それであんな頑なに口を閉ざしていたのか」


「待て! お主、その時に『もし喋ったら……』みたいな話はされなんだか?」


 ふと、サブリナがミスティに問い質す。


「あ……されたよ。確か『このお金とあなたの命は無くなりま──』……う……ぐ……」


 突如、ミスティが顔を真っ青にして口から泡を吹く。

 突然の緊急事態に、グレイン達は呆然としている。


「まずい、『契約』じゃ! 第一夫人、はよ牢の鍵を開けるのじゃ! リリー殿は急いでミスティを殺してくれ!」


 サブリナが声を張り上げ、ナタリアとミスティは言われた通りに動く。


 ミスティはリリーに喉笛を掻き切られ、噴水のように血を吹き出しながら、胸にナイフを突き立てられ、牢の床へと倒れ込む。


「何とか……間に合ったようじゃの。『契約』は魔族だけが使える能力……。やはりミスティが接触したのは本物の魔族のようじゃな」


 額の汗を拭いながら、サブリナは複雑な感情を抱かずにはいられなかった。


「(もし同胞の生き残りとダーリンが対立したら……妾はどちらを選べばよいのじゃ……)」


「なぁ、サブリナ」


 いつまでもまとまらない考えを巡らすサブリナに、グレインが声をかける。


「ナタリアを『第一夫人』って呼んでたが、ありゃどういう意味だい?」


 慌ててそっぽを向き、ぴーぴー口笛を吹き出すサブリナであった。


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