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第077話 悪人ごっこ

「……はぁ……はぁ……こちらヘレニアのサロモンです。応答願います」


 誘拐犯のアジト二階の寝室から、サロモンは通信魔法で闇ギルドに連絡している。


「──サロモンか、どうした?」


「ちょっと地元の奴隷商のグループと小競り合いになりまして……。こないだ雇った冒険者パーティの女騎士とヒーラーがちっとも役に立ちませんでした。あっさり殺されちまいやがって……。名うての冒険者なんて真っ赤な嘘ですよ」


「──何だと!? サロモン、お前は大丈夫なのか?」


「はい、これから奴らと交渉して、なんとか鉾を収めてもらう算段です。なんでも、奴らにはお目当てのガキがいたそうで、ちょうど手元にそいつがいましたんで、そのガキを渡せば見逃してくれるどころか、衛兵にも口を利いてくれるそうです」


 サロモンはグレインが用意したシナリオを読み上げている。


「──そうか、お前さえ無事ならそれでいい。冒険者のリーダーはこっちで始末しておくから心配するな」


「ありがとうございます! ……それじゃまた連絡します」


「──サロモン……考えたくはないが、お前は裏切っていないよな」


「え、えぇ? 何を言ってるんですか。こっちは決死の覚悟で奴隷商と交渉してきたんですよ。……全ては我らギルドの為に」


「──そりゃそうか。疑って済まなかったな。気にしないでくれ」


「いえ、それじゃ」


 そう言って、サロモンは通信魔法を解除する。


「よし、これでいいぞ。闇ギルドがリーナスをどう始末するのかは分からないが、多額の契約金を支払っているんだ。リーナスが返せないと分かっても、すぐには殺さないだろうさ。それに……その金は俺達がいただくからな」


 そう言ってニヤリと嗤うグレインを、サブリナはうっとりした瞳で見つめている。


「お主はほんに、悪巧みをしている時の顔が魅力的じゃの……」


「あとは王都の誘拐した子どもの保管場所を教えろ」


 グレインはサロモンに向き直り、そう告げた。


「分かったよ。それを教えりゃ解放してくれんだな? 王都の西地区の外れにある小屋に集めてるぜ」


「分かった、ありがとう。……ちなみにさっきの通信の相手はギルド本部の奴か?」


 グレインは何気なく、軽い気持ちで訊いてみた。


「ガキの調達班のリーダーだよ。まぁ、表向きはあのソルダム商会のお坊っちゃんの屋敷で執事長やってるらしいぜ」


 思いがけない重要情報に、グレインは少し驚き目を見開きながらも、それを悟られないように淡々とサロモンに告げる。


「なるほどな。お前が敬語使うなんてよっぽど偉いやつなのかと思ったよ。……じゃあ、解放してやろう。リリー」


 グレインがそう言うと、リリーはナイフを抜いてサロモンに向かって歩き出す。

 サロモンは、一体何が起こっているのか分からないという顔をしている。


「え? いや、待ってくれよ! 解放してくれるんじゃないのかよ! 約束が違──」


 リリーがサロモンの身体にナイフを突き刺す。

 それを見てグレインは呟く。


「約束通り、解放してやったじゃないか。……この世からな。ククク……」


 グレインは口元を三日月のようにつり上げながら嗤う。


「きゅうううん! もう抑えきれん! グレイン殿……妾を嫁にもらってくれ!」


 サブリナが我慢できず変な声を出しながらグレインに抱きつく。


「グレインさま……そろそろ悪人ごっこは終わりにしましょう」


 そんなグレインとサブリナを、冷ややかな目で見ていたハルナが声を掛ける。


「あぁ……、そうだな。すまん、ちょっと調子に乗りすぎた」


 グレインはサブリナを押し退けながらそう言う。


「グレイン殿はあのままの方が良いのじゃが……」


 サブリナはなんとも残念そうにグレインから離れる。


「とりあえず、こいつらは明日、騎士団に引き渡そう。もちろん、蘇生してからな。……リリー、何度も生き返らせたり殺したり、ほんとに済まないな」


「ううん、大丈夫……。でも、そろそろ……眠い」


 時刻は既に真夜中である。

 リリーは余程眠たいのか、もにょもにょと両手で目を擦っている。


「あぁ、今日はこのまま休もう。とは言ってもここには血まみれのベッドしかないから、町長の家に帰るぞ。この家は外から張り紙で封印しておいて、明日また来よう。……そう言えばセシルは?」


 グレインはあたりを見回すが、セシルの姿がない。


「セシルさんは……そこ」


 リリーが指差したその先には、血まみれのベッドですやすやと眠るセシルの姿があった。


「このベッドで寝られるってどんだけ異常なんだ」


「どこまでもマイペースなだけじゃないですかねぇ」


 そう言ったハルナも、肩を竦めて苦笑していた。


「じゃあ町長の家に帰ろうか。セシルは……しょうがないから俺が運ぶか」


 こうして一同は、三人の死体を家に残したまま、町長の家へと帰っていくのであった。


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