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第075話 お金ならいくらでも

「……っ、……わ、私は……ここでどうなって……?」


 仄暗い部屋で目覚めたセフィストの前には、一人の少女が、足元すら覚束ない状態で立っている。

 次の瞬間、少女は倒れそうになるが、すぐさま彼女を抱き止める男が現れる。

 セフィストはその男を見て、心の底から驚愕するのであった。


「なっ……! グレイン君……なのですか? そうか……私達に復讐しに来た、ということなのですね? そもそもですが、あれはリーナスの立てた計画で、私は反対──」


「いや、その話は聞き飽きたからいいや。子どもの居場所、そこの男の素性、リーナスの居場所、子どもを拐う目的と、お前らが何でこんな事をやってるのか話せ。……アイシャのようになりたくなかったらな」


 グレインは、先程アイシャにした質問と全く同じことをセフィストに訊く。

 セフィストはグレインの視線の先を目で追い、傍らに倒れている見知った女騎士の、変わり果てた姿を見つける。

 すると、セフィストからは震える声で答えが返ってきた。


「りょ、『緑風の漣』は、冒険者ギルドと袂を分かち、闇ギルドと契約したのです。任務に必要な最低限の経費と、私達の身の安全の保証が契約金のようなものです。そこの男は、闇ギルドから派遣された監視役のようなもので、リーナスは王都の闇ギルド本部にいます。まぁ、体のいい人質のようなものです」


 セフィストは次々とグレインの質問に答えていく。


「子どもの居場所と、目的は?」


「それは分かりません。ただ、闇ギルドは子どもたちを何かの実験に使っているとか、洗脳している、などという噂は聞いたことがあります」


 セフィストの答えを聞き、考え込むグレイン。

 暫しの後、考えが纏まったのか、彼は口を開く。


「そうか。アイシャの話と合わせて、何となくは分かってきた。それじゃあ、お前にもう用は無い」


 その言葉を聞き、セフィストは豹変する。


「ま、待ってください! お金、お金ならいくらでもありますよ!」


 グレインは首を傾げる。


「闇ギルドからは必要最低限の経費って言ってたし、『緑風の漣』はみんな大して金持ってなかったよな? 俺が抜けて半月経たないぐらいか? そんな短期で一気に金持ちになるとは思えないんだが」


「さっきはそう言いましたが、……実は闇ギルドからは多額の契約金をいただきました! これは契約の事務作業をした私しか知らない話で、他のメンバーには『契約金なし、拒否すると殺される』と伝えてあります。また、それ以前にも、度々冒険者ギルドからの報酬を分配するときに金額を誤魔化していましたので、その蓄えがあるのです! そのお金を差し上げますから、お願いです、命までは勘弁してはいただけないでしょうか」


 グレインが周囲のメンバーを見回すと、誰も彼もが呆れた顔をしている。

 自分も今まで報酬を誤魔化されていたと知ったグレインも、さすがに苦笑するしかなかった。


「その金は今どこにある?」


「わ、私のベッドの下に隠してあります」


「セシル、済まないが探してみてくれ」


 グレインはリリーを抱き止めたまま、セフィストから目を切らずにそう言った。

 セシルは静かに頷き、セフィストの死んでいたベッドの下へと潜り込む。


「鞄がありましたわ。……んっ、おもっ、重いです……」


 セシルが何とか鞄をベッドの下から引きずり出す。


「開けますわよ…………え、えぇぇぇっっ!」


 鞄の中から出てきたのは、様々な宝石、貴金属、そして黄金のインゴットであった。


「金の延べ棒なんて……初めて見ましたわ」


「この宝石は……もしや盗品ではないか? 妾の勘なのじゃが、宝石や貴金属は換金して、全部を金の延べ棒で保管した方が楽ではないか。ここに宝石が入っていること自体おかしいと思わぬか?」


 グレインは何も言わずセフィストを見ると、セフィストは頷いて言う。


「……そうです。依頼主のお宅にお話を聞きに行く際などに、隙を見て家捜ししては懐に入れていました。まぁ、なかなかそういう機会もないので、数としては少ないですが」


 グレインは大きく一つ溜息を吐き、自らの腕の中にいるリリーを見る。

 リリーは何も言わず歩き出し、セフィストの前でアイシャの胸に刺さったままのナイフを抜く。


「ひっ! そ、その鞄の中身を半分差し上げます! それでどうにか──」


 リリーはナイフの刃をセフィストに向ける。


「ヒヒィィィ! ぜんぶっ、鞄全部あげますからそれで──」


 セフィストの言葉は途中で途切れる。

 リリーが彼の首に、アイシャから抜いたナイフを突き刺したのであった。


 仕事を終えたリリーの手に飛び散ったセフィストの返り血を、グレインが懐からハンカチを取り出して拭う。


「グレインさん、……ありがとう」


「いや、リリー、お礼を言うのはこっちだよ。おかげでいい情報が聞けた。……ハルナの『教育』をするまでもなく、な」


 グレインの視線のその先には、すっかり照明係となって出番を失ったハルナが手持ち無沙汰にしていた。

 そんなグレインとリリーのもとへ、サブリナが歩み寄る。


「グレイン……、お主、もう少し仲間を選べ。何じゃあのクズ共は。どいつもこいつも、自分の事しか考えておらんではないか」


「そうは言っても、なかなかいい人材が見つからなかったんだよ。こいつらと組んだ当時は冒険者になりたてで、俺をパーティに誘ってくれるだけでも有り難かったからな。……まぁその分、今は良いメンバーに恵まれてるなって思うよ」


 グレインはそう言って、静かに微笑んでいた。



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