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第071話 言い換えただけ

「知るか知らぬか、と問われれば、知ると答えるであろうの。まぁ貴様等に教えるかどうかは、妾の心持ち一つじゃが」


 魔族の女はグレインにそう告げる。


「なるほど分かった。それじゃ、教えてくれ」


「それ絶対に分かってないやつじゃろ? 妾も魔族の端くれじゃ。魔族たる者、多少は捻くれておらんとな。教えてと言われて素直に教えてやるもんか」


 魔族の女はそう言ってそっぽを向く。


「じゃあしょうがないか。セシル、他を当たろう」


 そう言うとグレインは魔族の女に背を向けて、足早に歩き出す。


「グレインさん、あの方から情報を聞き出さなくても良かったのですか?」


「本人が話したくないって言ってるんだから、これ以上粘っても時間の無駄だろ? それに……話したくない事を無理矢理言わせるのもなんか悪いし」


「なるほど……それもそうですわね。では行きましょう」


 グレインの説明にセシルはあっさりと納得し、改めて二人で歩き始める。


「待て待て待て! 貴様等本当にそれで良いのか? ここに誘拐された者達の行方を知っている者が居るんじゃぞ?」


 魔族の女はグレイン達の前に回り込み、両手を広げて立つ。


「だって話したくないんだろ?」


 グレインは溜息をつきながらそう答えた。


「ぐむむ……話したくない……訳でもない事も無いかも知れないような気がしなくもない」


「「どっち」」


「分かった! 話す! 話すが……その……──」


 その瞬間、魔族の女の腹の虫が鳴き出した。


「まさか……」


「……っ! そうじゃそうじゃ! 妾は空腹で死にそうなのじゃっ! しかし『食べ物を恵んで下さい』などと他人に、しかも人間族ごときに言えるわけがなかろうっ! ……はぁ、はぁ……あぁ……もうダメ……なのじゃ……」


 魔族の女は顔を真っ赤に染め上げて一気にまくし立てた後、目を回して倒れ込む。

 グレイン達は慌てて女を支えると、女は既に気を失っていた。


「とりあえず……お持ち帰りするか」


「そうですわね……。魔族って何を食べるのでしょうか」


「虫とかモンスターとか? ……まさか」


「「人間じゃ……」」



********************


「うむ、この料理は大変美味であるな!」


「……普通にわたくし達と同じものを食べていますわね」


 魔族の女は町長の家の食堂で一心不乱に食事をとっていた。

 町長夫妻とグレイン達はただ唖然とその様子を見ているだけであった。


「ふぃーっ、おかげで満腹じゃ。食事を提供いただき、大変感謝する。それと、このように取り計らってくれたお主……おぉ、そう言えばまだ名乗ってすら居らなんだわ。大変失礼をした。妾はサブリナと申す。……見ての通り魔族じゃ」


「こちらが町長のドノバン夫妻でございますわ。わたくし達は『災難治癒師カラミティ・ヒーラーズ』という冒険者パーティで、この町の神隠しについて調査に来たんですの。わたくしがリーダーのセシル、あとはメンバーのハルナ、リリー、そしてボンクラですわ」


「いや名前あんだろ! 俺はボンクラじゃなくてグレイン! ……それでサブリナ、情報を話す気になったか?」


「当たり前じゃ。魔族たるもの、捻くれてはいるが義理堅く生きねばならんのじゃ。……攫われた者達の行方じゃが、王都に連れて行かれたようじゃ。王都のどこかまでは分からぬが……」


「……具体的な場所を知らないんじゃないか。サブリナ、それは詐欺って言うんだぞ」


 グレインはジト目でサブリナを睨む。


「ちっ、違うのじゃ! 妾は、この町で誘拐を働く実行犯を懲らしめてやろうとして……」


「実行犯の顔を見たのか?」


「……見ておる。目の前で幼気な子どもがさらわれていったのを……な。しかし、妾には武力がない故どうする事も出来なかったのじゃ。……それが……口惜しゅうて……。それで夜の闇に紛れて、実行犯の者たちを脅かしてやろうとしたのじゃ」


 そう言うと、サブリナの目から涙がぽろりと零れる。

 一同は、サブリナの無念を感じ、言葉が出ないまま、食堂に暫しの沈黙が訪れる。


「……じゃあ、実行犯の奴らに王都の何処に居るのかを教えてもらおうぜ。サブリナなら、誰が実行犯か分かるんだろ?」


 沈黙を破ったのはグレインであった。


「あ、あぁ、分かるが、どうやって聞き出すんじゃ? 拷問にでも掛けるか?」


 拷問という言葉に、ハルナがぴくりと反応する。


「いや、そこはハルナに『教育』してもらおう。ハルナ、そいつらが素直に喋るように、治癒剣術で『教育』してくれないかな?」


 それを聞いて首を傾げるサブリナ。


「『教育』って事はハルナ殿は教師なのかの? 一体何をするんじゃ?」


 そんなサブリナにセシルが耳打ちする。


「(『拷問』を『教育』に言い換えただけですわ)」


「グレインさま、お任せ下さい! 何としても子どもたちの行方を吐かせてみせますっ!」


 胸を張るハルナであった。



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