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第065話 焚き火を囲んで語らい

「やっぱ、こっちからだよな」


 グレイン達は、ギルドに三日月ダケを届けた翌日、またもや墓地を訪れている。

 当然、残る二つの依頼のうち『墓場の幽霊調査』の依頼を解決するためだ。


 当初はギルドに三日月ダケを届けて、そのまま墓地へとんぼ返りするつもりであったが、前日には竜巻盗賊団の見張りを夜通し続けていたことなどから、特にグレインは疲労困憊で動けなくなってしまったのだった。


『あんたももう歳ね……。あたしも最近あちこち身体が痛くなっててね……』


 そう発言したのは、疲れて動けなくなったグレインの様子を見ていたナタリアであった。

 二人ともまだ二十代前半なのであるが。

 結局その日はそのままサランで休み、墓場へ戻るのは翌日になったのである。



「一昨日、竜巻盗賊団と遭遇したときには幽霊なんていませんでしたよね」


「あぁ、だから今夜も幽霊が出ないことを確認すれば、竜巻盗賊団の松明が幽霊の正体だって話にできるだろ? それでこの時間を選んだんだ」


 時刻は夕暮れ時、辺りの木々は夕日で真っ赤に染め上げられていた。



********************


 夜もすっかり更けた頃、『災難治癒師カラミティ・ヒーラーズ』は墓地の中央付近で焚き火をおこし、輪になって座っていた。


「暇……ですねぇ」


 頬杖をついてハルナが言う。


「暇……ですわねぇ」


 セシルが続く。


「セシルさん……死ぬ練習でも……する?」


 とんでもないことを言っているのはリリーである。


「えっ、いえ、そ、それはまた別の機会に致しませんこと? 今は敵襲があるかも知れないので、わたくしが迂闊に死ぬことなどはとても……」


 リリーに気を遣ってはっきりと断れないセシル。

 そんな様子を見て気の毒になったのか、リリーがセシルに告げる。


「冗談です……死ぬ練習は……どこか敵のいない、人目に付かない場所で」


 ニコリと笑うリリーであったが、その会話内容に恐れ戦くセシルの顔は若干引き攣っていた。


「ちなみにハルナ、一度死んだ先輩としてセシルにアドバイスはあるかい?」


 グレインがハルナに話を振る。


「そうですね……死ぬときはめちゃくちゃ痛くて怖くて……。でも次の瞬間、生まれ変わったみたいに元気になっているんですっ! ……そう考えると、たまには死んでみるのも悪くはないかも知れませんねっ!」


「でも、やはり死ねと言われると少し抵抗がありますわね……。楽に死ねる方法があれば良いのですが」


「客観的に見ると、この状況色々とまずいよな」


 焚き火にあたって語り合う、うら若き乙女達。

 ただし話題は『楽な死に方』。

 グレインは今更ながら、自らのパーティが世間一般からずれているであろう事を認識した。


「まぁ、それぐらいリリーのヒールが並外れてるって事なんだな」


 その時、グレインの背後の茂みから不意に物音がする。

 グレインはリリーと目を合わせ、互いに頷く。


 次の瞬間、焚き火がふっと消え、空中に青白い光の珠が現れる。

 青い光珠はふわりふわりと一同の周りを舞う。


「カエレ……カエレ……ノロイ……コロスゾ……」


 不気味な声も響き渡る。


「なるほど、これが幽霊ですわね」


「なんだ、本当に幽霊みたいな現象はあったんだな」


 青い光珠を冷静に見ているセシルとグレイン。


「はっ、はっ、はひぇーーー!」


 ハルナだけは腰を抜かさんばかりに驚愕していた。

 そしてハルナは涙目でガタガタと全身を震わせながらグレインにしがみつく。


「グレインさま! おたっ、お助けくださいぃ!」


「おい落ち着け、ハルナ! どこ触ってるんだ! ……お前……」


「ハルナさん、お化けとか幽霊が苦手だったのですね……」


 ハルナの意外な一面を垣間見た二人であった。


「が、我慢してたんですぅ……。焚き火も明るかったし……」


「今度お化け屋敷の探索依頼でも探してみるか」


 少し意地悪そうな顔で言うグレイン。


「ひどいっ! グレインさまひどいですぅ!」


 ハルナは今にも泣きそうな声でグレインの腕にしがみついている。


「いや、ハルナ? その……俺の手が……胸に当たっててな?」


 ハルナが胸元を見ると、確かに自分がグレインにしがみついたせいで、グレインの手がハルナのふくよかな部分に触れている。

 とはいえ、ハルナも革の胸当てを装備しているため、ゴツゴツとした感触ではあるのだが、やはり気まずいものだ。


「あ……失礼……しました」


 光珠に怯えながら、恐る恐るグレインから離れるハルナ。


「ノロイ……コロスゾ……三人トモ……ミナゴロシダ……」


 相変わらず不気味な声が響き渡るが、ハルナがあることに気付く。


「三人……?」


 確かに、青白い光に照らされているのは、グレイン、ハルナ、セシルの三人である。


「リリーちゃんは?」


「ノロイ……コロ──うわぁぁぁっ! ひ、ひぃぃぃ! や、止めてくれ、ください、い、命だけは!」


 その声を聞いて、グレインは火炎魔法のスクロールを広げ、焚き火に火を再点火する。


「魔法のスクロールもタダじゃないんだから、無駄遣いさせないでくれよ。なぁ、『幽霊』さん?」


 グレインが振り返ると、墓地の茂みの中で、リリーが一人の女性の背後から首筋にナイフを付きつけ、腕を後ろ手に拘束していた。


「平和的に話を聞こうか。あ、リリーはそのままで頼むな」


「グレインさま、あれじゃ全然『平和的』じゃ無さそうですよ」



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