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第056話 あの時、応接室で

「ナタリア、あの時、応接室で何があったんだ?」


 落ち着きを取り戻した一同は会議室の椅子に着席しているが、アウロラだけは意識を取り戻していないため、椅子を三脚並べてその上に寝かされている。

 ナタリアは斬られた服がはだけてしまうため、毛布をかぶって座っている。


「王都の使者に、握手を求められたのよ。それで何気なく握手したら……次の瞬間、目の前にあたしを押さえてるアーちゃんがいて。あたしは使者の剣を持っていて、使者は血塗れになってて。……それで……剣を、アーちゃんが剣を渡してって言うから渡したら……アーちゃんに……斬りつけられたの」


 ナタリアは椅子に寝ているアウロラの方をちらちら見ながら、たどたどしく説明する。

 トーラスから『アウロラが操られていた』という話を聞いても、それが幼馴染だとしても、やはり自分を斬りつけた相手なので落ち着かないのだろう。


「ナタリアさん、アウロラさんが起きても、僕達全員で貴女を守りますよ。安心して、落ち着いて考えて下さい。使者の人と握手してから、アウロラさんが目の前に立っている迄の記憶は無いですか?」


 トーラスは落ち着いた口調で、ゆっくりとナタリアに話し掛ける。


「はい……ありません。一瞬で時間が飛んだような、そんな感じです。なので、使者がどういう用件で来たのか不明です。ただ、書状も持っていないようだったので、使者は偽者かも知れません」


 ナタリアもトーラスの言葉を聞いたからなのか、少し冷静に話が出来ているようだった。


「次はミレーヌさんから事情を伺いましょう」


 会議室に眼鏡の受付嬢ミレーヌが呼ばれる。

 会議室に入ってきた彼女は、人相が変わるほど憔悴しきっており、グレイン達はそれを見るなりぎょっとする。


「すみません……私、血とかそういうものに弱いのですが、今は応接室の清掃作業を取りまとめてまして……」


「大変でしたら後で僕がお手伝いしますよ」


 トーラスはそう言ってミレーヌにウインクする。


「は、はい……ありがとうございます。……トーラスさまぁ……」


「(なぁナタリア、ミレーヌってちょろいんだな)」


 グレインは小声でナタリアに話し掛けると、彼女は怒りで肩をわなわな震わせていた。


「(トーラスの奴、あたしにはあんな事しなかったのに……)」


「ざんねーん、聞こえてるよ? ナタリアさんにはグレインという相応しいフィアンセがいるじゃないか」


 魔法でも使っていたのかナタリアの声が大きかったのか、ドヤ顔で語るトーラス。


「兄様……女と見れば片っ端から色目を使わないで」


「弟様、見境が無いのも、はしたないですよ。ソルダム商会の会頭として、もっとちゃんとしていただかなければ」


「ふ、二人とも、容赦ないね……」


 すかさずリリーとラミアに窘められ、肩身の狭くなるトーラスであった。


「あれ? トーラス、そういえば家と商会を潰すって話はなくなったのか?」


「あぁ、グレイン達には言ってなかったね。その計画は中止さ。だって、潰してでも商会を渡したくなかった相手が、今は全く欲しがってないんだからね。ちゃんと財産分与の放棄手続きまでしてもらったし」


 それを聞いてナタリアの目の色が変わる。


「な、何ですって!? それじゃあ潰れる筈の商会は存続するの……? ……トーラスさぁん、あたしはどぉう?」


「ナタリアの脳みそは腐ってんのか」


 ナタリアを見てグレインが呆れる。


「……脳みそ腐ってるのは……兄様だけで充分……」


 リリーのコメントで一斉に吹き出す『災難治癒師カラミティ・ヒーラーズ』であった。



********************


「結局、ミゴールの目的が分からないよな」


「いや、それはなんとなく分かっているよ。……ミゴールの魔法についてもね。ミゴールの魔法は、憑依のようなものだ。そして憑依している間は、その人の記憶まで全てをコントロール出来ると思われる。それでリリーに憑依して、闇魔術奥義の内容を得ることが目的だったんだ。問題はどうやって、愛しのアウロラ様に憑依できたのか、だったが……ナタリアさんからの情報が重要な鍵だった」


 トーラスは椅子から立ち上がる。


「憑依対象を切り換える契機は、おそらく物理的な接触だと思われる。そうすると、今回のシナリオが見えてくるんだ。まず王都で伝令使者がミゴールに操られる。次に、使者がサランに到着、ナタリアさんと握手をした瞬間、憑依対象が使者からナタリアさんに変わる。おそらくこの時点で、ミゴールはナタリアさんの身体を使って、使者を殺害した筈だ。そして応接室に呼ばれた愛しのアウロラ様が、血塗れで倒れる使者と剣を持ったナタリアさんを見て彼女を止めようと──うひゃぁっ!?」


「ウチが見たものは正解! さすがトーラスさん。……助けてくれてありがとねー」


 トーラスの背中に、いつの間にか目覚めたアウロラが抱きついている。


「ウチ……トーラスさんが本気なら……いいよ?」


「ちょっとアーちゃん! 抜け駆けするなぁ!」


「トーラス、このギルド幹部どもはどっちもやべー奴だからな?」


「お姉ちゃんにはグレインさまがいるじゃないですかっ!」


「一人の男を巡って争う幼馴染たち……あぁ、捗りますわぁ!」



「私……もしかして……変なパーティに入っちゃった?」


 苦悩するリリーであった。



********************


「結局だが、ミゴールと闇ギルドのことはどうする?」


「それなんだけどね、とりあえず放置でいこうか。僕は前線の情報収集の為に王都の屋敷に戻るよ。……いつでもここに戻って来られるしね。姉様とダラスは僕と一緒でいいかな? 僕の護衛と、内通者の調査をお願いするよ」


「待てよ。スパイに今度こそ殺されるんじゃないのか?」


 心配するグレインをよそに、涼しい顔で首を振るトーラス。


「奴等の狙いはリリー……いや、『蘇生治癒(リバイブ・ヒール)』だけなんだ。だから以前言ったように、リリーは君達と一緒に行動する事である程度の護衛になると思っている。……これは指名依頼だ。『災難治癒師』に、リリーの護衛をお願いしたい。期間は闇ギルドが滅びるまで。報酬として、『災難治癒師』にはソルダム商会が半永久的に資金をサポートするよ」


 グレインは少し考え込み、ハルナ達に訊く。


「ハルナ、セシル、これは主に二人に負担を強いることになると思うんだが、それでも構わないか? 俺が一緒に居られない場所が多々あるからな」


「お風呂とかベッドぐらいなら、グレインさまも気にせず一緒にいらっしゃったらいいじゃないですかっ」


 とんでもない事を言い出すハルナにセシルが怪訝な表情をしている。

 当のリリーは無表情で感情が読めない。


「あぁ、そうそう。もしリリーに手を出したら……グレインには全身激痛で苦しみながら天寿を全うしてもらうからね」


 一同が笑顔を浮かべている中、ただ一人浮かない顔をするグレインであった。



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