第51話 正式加入
一回書き直したのもあってちょっと遅くなっちゃいました。
「じゃあ今夜、ギルドの酒場で決起集会しよーか。貸し切りにして、費用は全部ギルドで持つからみんな来てねー。さぁトーラスさん、一緒にリリーちゃんにサランの町を案内してあげよ! ナーちゃんあとよろしく〜」
言うが早いかアウロラは、トーラスとリリーの手を引いて脱兎の如く執務室から逃げ出していく。
「アウロラさま、トーラスさま! お待ちください! わたくしも一緒に参りますわ!」
三人の後を追うように、慌てて飛び出していくセシル。
「アーちゃん、待てコラァッ! ……チッ、逃げられたか……。なんであたしが手配しなきゃなんないのよ!」
ブツブツと文句を言いながら、執務室を出ていくナタリア。
「まだ夜までは時間があるわね……。わたしは宿で休ませてもらうわ」
ラミアがぽつりと漏らす。
彼女の顔色は蒼白く、体調が悪いであろうことがありありと見て取れる。
「おいラミア、大丈夫か? ……グレイン、ラミアは俺が宿まで送っていくよ」
「グレインさま、ラミアさんの体調が心配なので、私もラミアさんにお供させていただいても良いでしょうか?」
「じゃあ夜に酒場で落ち合おう。……ラミアは、体調が悪かったら来なくていいぞ」
ハルナは治癒師として、具合が悪い人を放っておく事ができないという様子であったため、グレインは快諾する。
ダラスとハルナは、ラミアに肩を貸しながら執務室を出ていく。
そうして執務室に残されたのは、グレインただ一人であった。
グレインは、執務室の窓から、住み慣れたサランの町並みを見下ろす。
よく見れば、広場のベンチにアウロラ達が腰掛けて何かを談笑している。
ダラス達は広場の手前の道を宿屋側に曲がって行く。
彼は、一人ぽつんと執務室に佇んでいることで、取り残されたような、一抹の寂寥感を覚えるが、それは裏を返すと、普段から自分の周囲に絶えず仲間が居てくれた事の証なのだと悟り、自然と顔が綻ぶ。
「あら、残ってるのあんただけなの?」
グレインは声のする方向、執務室の入口に立っているナタリアに振り返る。
「みんなあちこち行っちまったよ」
肩を竦めるグレイン。
「そう……」
ナタリアはゆっくりと窓辺に歩み寄り、グレインの隣で同じように窓の外をあてもなく眺める。
「なんか久しぶりね。こうやって二人で話すの」
「あぁ、そうだな。ギルドのカウンターに寄るときも、常に誰かパーティメンバーが一緒にいたからな。……そう考えると、もしかしてお前の勤務初日以来か?」
「やめてよ、変な事思い出さないでよ?」
「確かあの日、俺は冒険者になる為に初めてギルドに入って、そしたらカウンターに緊張で全身ガッチガチのナタリアが──」
「思い出さないでったら!」
悪戯な笑顔を浮かべるグレインに、戯れるようなグーパンチを繰り出す、はにかんだ笑顔のナタリア。
そんな恋人同士のするような他愛のないやり取りを、執務室に設置してある映像記録水晶を通じて、広場のベンチに座りながら覗き見ていたアウロラ達は、思わずニヤけてしまう。
「この二人、ホントにまだ付き合ってないの?」
とトーラスが疑問を口にする。
「見ているこっちが恥ずかしくなるぐらいですわ……」
セシルは顔を真っ赤にしている。
「さて、覗きはそろそろ終わりにしよっかー。後は若い二人で……ムフフ……」
「アウロラ様の事ですから、水晶の映像を記録しておいて後で見るつもりですわね?」
「むむーっ……ウチにはこの二人がうまくいくように見守る役目が……」
「アウロラ様、覗きはあまり良い趣味とは言えませんわよ……」
いとも簡単に目論見を看破され、少し悔しそうな表情を浮かべるアウロラをよそに、トーラスは飄々とした様子でセシルに話し掛ける。
「セシル、そういえばリリーを正式に『災難治癒師』に入れて欲しいと思ってるんだけど、これからも仲良くしてくれるかな?」
「えっ?」
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「えっ?」
その夜、ギルドの酒場で開かれた決起集会の席で、トーラスは同じ話をグレインにもしてみたが、その反応はセシルと同じものであった。
決起集会には、アウロラとナタリア、それに体調が回復したのか酒のせいか、少しだけ血色の良くなったラミアとダラスも参加していたが、彼女たちもみなトーラスの提案に驚いていた。
「確かリリーは、ソロでCランクだったよな? それに引き替え俺達はDランクになりたてのパーティなんだ。リリーにとっては迷惑な話じゃないのか?」
トーラスは目を瞑り、かぶりを振る。
「リリーは……ずっとソロだった訳じゃないんだよ。これまでいくつかのパーティを転々としながら実績を積み上げて、やっとCランクにまで上がったんだ。だが、彼女は人付き合いが苦手な所があってね。それに……闇ギルドに狙われているだろう? だから最近では、王都の冒険者パーティに彼女を入れてくれる所がなくなってしまった。それで仕方なくソロを名乗っているだけなのさ」
「それで、なんで俺のパーティなんだ?」
「君は信用できる人間だ。それにリリーが馴染めそうだし、聞いてる限りでは戦力バランスも良さそうだ。他にも理由は……色々さ。彼女の武器は短剣、特技は暗殺術、十五歳の天才美少女! どうだろう、リリーをパーティに入れてくれないかな? ……これはリリーの意思でもあるんだ」
トーラスは必死にグレインに頭を下げている。
「……本当に良いのか? そんな優秀な人材、こっちからお願いしたいぐらいなんだが……どうにもうまい話過ぎてな……。何か裏がないか?」
グレイン達『災難治癒師』の面々は、トーラスに疑いの眼差しを向ける。
「流石に何もないよ。……彼女の、リリーのジョブがヒーラーってだけさ」
「「「ほらあった」」」
「ヒーラーだけど短剣で暗殺術使えるのか……。 本来は暗殺術に向いていないはずだから、相当努力したんだな。ひょっとして普通のヒールが使えたりするのか?」
「いえ……使えません……。暗殺術は……兄様を守るため……必死に……」
感心した様子のグレインに、リリーは恐る恐る答える。
「大丈夫だ。ヒールが使えるかなんて、たったそれだけの事で加入を断ったりはしないよ。ただ俺の強化能力が、君の助けにはならなそうだなってだけさ」
「……! それじゃあ……」
「リリー、これからよろしくお願いします!」
右手を差し出すグレインに、おずおずとその手を握るリリー。
「こちらこそ……よろしくお願い……します」
こうして暗殺ヒーラー、リリーが『災難治癒師』に加入したのであった。




