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第351話 クソ魔女

「師匠を……殺す……? 」


 そうミュルサリーナの言葉を復唱したグレインを、ナタリアは固唾を飲んで見つめている。


「なあミュルサリーナ、お前の言う師匠ってのは……その……アウロラの事……だよな?」


「えぇ、そうねぇ」


「そもそも、アドニアスと戦った時──ヘルディム城を潰したあの時、この世界に掛けられたジョブの呪いをお前が解いたことで、ナタリアは最強になった。それは間違いないよな?」


「えぇ、間違ってないわぁ」


「つまり、ナタリアの、ちょっと触っただけで人を殺しかねない馬鹿力が解放されているってことは、今は呪いが解けているって事だよな? そしてこの呪いを解くために、もう生きてないアウロラを殺すって?」


 そう言って首を捻るグレインの頭にナタリアの掌が置かれる。


「誰が馬鹿力よ! あんたのこの首……引き千切ってやろうかしら」


「冗談になってないからやめてくれ」


「……確かに、呪いを掛けるか解くか……その状態しか考えていないとすれば、理解できないかも知れないわぁ」


「ん? それ以外の状態があるのか?」


「呪いって案外曖昧なものなのよぉ。この世界に掛けられたジョブの呪いって、ジョブに拘束されて不自由で窮屈な人生を何世代も送ってきた世界中の人々を代償に、膨大な力が蓄えられていた訳よねぇ?」


「あぁ、だからこうして馬鹿力女が……ナンデモナイ、ヤメテ……ヤメテ……」


 ナタリアの右手がゆっくりとグレインの頭頂部を鷲掴みにする。


「そうねぇ……。たとえば、川があったとするじゃない? その川に堰を作って充分に水が貯まった状態で、その堰に穴を開ける……そんな状況に近いのかも知れないわねぇ。 今、ナタリアさんにはその貯まっていた水がどんどん流れ込んでいる状態なのよぉ。……寿命を……削りながらね」


 ナタリアはグレインの頭から手を離し、顔を青くする。


「あ、あたしはこの欲しくもない馬鹿力のせいで寿命が短くなっていってるってこと?」


「師匠が選んだのはそういう事になるわねぇ。ヘルディム城でアドニアスと対峙した貴女をどうしても護りたかった。だから、あそこでアドニアスに殺される事よりも、あの状況を生き延びて早死する方を選んだ。そうせざるを得なかった……のかも知れないわねぇ」


「何で……何でナタリアがそんな目に……。俺だって良かった筈だろう!?」


「……これは私の推測なのだけど……師匠の意地だったんじゃないかしら……。師匠はアドニアスに家族を殺されて、これ以上大切な人を奪われたくなかった。だから、あの時ヘルディム城にいた中で一番大事な友人を……ナタリアさんをどうしても護りたかった」


「そんな……そんな下らない理由でナタリアを!」


 憤るグレインに対し、ミュルサリーナは瞑目して静かに語る。


「師匠の受けた苦しみは、師匠にしか分からないわぁ。だから世界を犠牲にしてでもナタリアさんを守ろうとした試みが下らないか下らなくないか、それは師匠にしか分からない。何度も言うようだけれど、師匠の呪いの力がなければ、あの時あの場で全員アドニアスに殺されていたわよぉ」


「だからって、……全員生き延びて、でもナタリアだけ死ぬって、それでいいと思ってるのか!? そんな──」


「思ってないわよ!! それでいいと思っていないから、だからここに来たんじゃない!」


 グレインの言葉を遮るように机に手を叩きつけ、半ば叫ぶような声を上げてミュルサリーナが立ち上がる。


「……師匠はエルフ族の襲撃で殺されたわ。術者を殺せば、呪いは消える筈。でも、世界に掛けられたジョブの呪いが消えることはなかった」


「じゃあ、アウロラが実はどこかで生きてましたって話か」


「……生きているかは分からないわぁ。たぶん死んでいると思うの、おそらくね。でも、何らかの方法で、この時代まで呪いが継続するような仕組みが用意されているはずよぉ。だからそれを探し出しましょう。……ナタリアさんの寿命が尽きる前に」


「理解したわ。グレイン、今から毎日徹夜してでもアーちゃんの行方か呪いの痕跡を探しなさい! これはヒーラーギルドサブマスター命令よ!」


「いや、俺ギルドマスターだから立場は上──」


「分かったの? 分からなかったらその耳引き千切って分かるまで聞かせてあげるわ!」


「冗談になってないだろ……。じゃあ夜寝ない代わりに昼寝しても……?」


「そうね、徹夜する代わりに昼はずっと起きてていいわよ」


「代わりじゃない! 俺死んじゃう」


「あ、少しばかりの寿命を代償にして、数日間眠くならない呪いならあるわよぉ」


「このクソ魔女が! 余計な呪い知ってんじゃねぇよ! そんな力があったら目的の場所を特定してくれよ!」


「大まかな場所は特定してるわぁ。ここの近くなのよぉ」


「「え?」」


「だったら最初からそう言えよクソ魔女」

「さっさとそれ言いなさいよクソ魔女が! こっちは刻々と寿命削れてんのよ」


 顔を見合わせ、そしてミュルサリーナに詰め寄るグレインとナタリア。

 二人の迫力に気圧されたミュルサリーナは、後退りしながら顔の前で両手を振る。


「ふ、二人とも落ち着いてよぉ。……師匠に由来する魔力の流れを辿っていったら、この近くみたいなのよぉ。でも、正確な場所は分からないし、そこに何があるかも分からないわぁ」


「よし、不眠の呪いでも受けようじゃないか。死ぬ気で探すぞ」


「グレイン……あたしのために……ありがとう。じゃああたしは少しでも寿命が削れないように昼寝でもして待ってるわ」


「いやお前も探せよ」


「寿命削れたらどうすんのよ」


「あ、なるべく力を使った方が、身体への負担は小さいと思うわぁ。溜め込むと良くないのよぉ。……それじゃ、二人とも頑張ってねぇ」


「「は?」」


「何他人事みたいに言ってんだクソ魔女。お前も探すんだぞ? 何ならお前の寿命削って俺を不眠にしてくれよ」

「ふざけたこと言ってんじゃないわよクソ魔女。あんたも必死こいて探すのよ。見つからなかったらあんたの寿命をあたしに分け与えなさいよ?」


「二人とも、貴重な情報源に対する感謝が全く無いのねぇ……。まぁそこが二人らしいんだけど」


 そう言いながら苦笑するミュルサリーナなのであった。




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