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第349話 この世界を壊そうと思うのよぉ

「お久しぶりねぇ。みんな元気だったかしらぁ?」


 深緑のローブを着た女性が、笑顔でヒーラーギルドの入り口をくぐる。


「お、ミュルサリーナじゃないか! お前こそ元気だったか?」


「えぇ、おかげさまで元気よぉ。……ベル達もね」


「ベル?」


「……ベルクート……前、皇帝陛下よぉ」


「あぁ、あのおっさんか。エルフの里に移り住んだところまでは知ってるが……うまくやれてるのか?」


 グレインの問いに、微笑を浮かべて頷くミュルサリーナ。


「……まぁ、それなりにね。生き残ったエルフ族の皆に謝罪して、今は里の再建の為に力仕事に励んでいるわぁ。戦える男はほとんどバルガ達に殺されちゃったから、エルフの里は手が足りないのよぉ」


 グレインとそんな事を話し込んでいるミュルサリーナを、ナタリアが見つける。


「あーら、これはこれは珍しい魔女じゃないの。いったい何しに来たのかしら? あんたはエルフの森に千年ぐらい籠もってればいいのに。今まで生きてきた時間に比べたら千年ぐらい一瞬でしょ?」


「相変わらず口の減らない小娘ねぇ……。あなたに呪いが効くのなら真っ先に殺してあげるのだけれど……今日はビジネスの話をしに来たのよぉ」


「……ビジネス?」


「そう、お仕事。さっきもグレインさんには言ったけれど、今エルフの里では再建の手が足りないのよぉ」


「……あんた、まさか……」


「あらあら、察しが良いわねぇ。そうよぉ。肉体労働が得意そうなヒーラーを、そうねぇ……十人、いえ、二十人ほど派遣してくれないかしらぁ」


 ナタリアの顔が次第に赤みを帯びていく。


「物理系ヒーラーが良いわねぇ。ただし壊したり吹き飛ばすのは基本的に無しで」


「物理系ヒーラーって何よ……。いや、そんなことよりもね!」


 ナタリアはミュルサリーナの両肩に手を掛けて身体を前後に激しく揺さぶる。


「私達ヒーラーギルドは! 便利屋でも、レストランでも、土建屋でも無いのよ!! ヒーラーなの! 彼らのジョブは誰かを癒やす為のものなのよ!」


「そうよぉ。だからお願いしてるんじゃなぁい。エルフの里を再建して、エルフの民の心を癒やして欲しいのよぉ。それに、ヒーラーギルドの本分を活かした事業って、ついこの間街はずれに設立した小さな治療院だけよねぇ? ……ギルドとしても、ある程度は収入がないと自分たちの生活もままならないんじゃなぁい?」


「……わかったわよ」


 ナタリアは下唇を噛み締めながら、消え入るような声で一言だけ呟くようにそう答える。


「報酬とか期間とか、詳細はグレインと詰めて」


 そう言ってナタリアはギルドの二階への階段を上がっていった。


「さて、邪魔者はいなくなった事だし、ビジネスの話をしようかしらぁ」


「あぁ、それで一人当たりの日当だが──」


 グレインがそう言いかけたところでミュルサリーナは首を左右に振る。


「それは後で良いわぁ。それよりも大事な話があるの。……ここは騒がしいから聞かれる心配はないけど……」


「それならギルドの奥で話を聞こう。書類整理を口実に、居眠りに使ってる資料室があるからな」


「……そうね、そこがいいわぁ」


 そう言いながら二人でギルドの奥へと歩く背中を、カウンターからマルベリがじっと見つめていたのであった。


********************


「それで、大事な話ってなんだ? ナタリアには聞かれたくない話なんだろ? 先に言っておくが、金ならないぞ」


 四方を書棚に囲まれ、隙間から僅かに外光が差し込む薄暗い部屋。

 その中央に置かれた長机にグレインとミュルサリーナは向かい合って座っていた。


「私を何だと思ってるのかしらぁ……。私はただ……この世界を壊そうと思うのよぉ」


「……ん?」


 咄嗟にミュルサリーナ発言の意味を理解できないグレイン。

 首を傾げて動きを止めるグレインに、ミュルサリーナは続ける。


「ジョブに支配された世界を……いいえ、この世界に掛けられたジョブの呪いを、解呪したいのよぉ」


「……そんなことが可能なのか?」


「おそらくは……ね。そもそもこの呪いって、師匠がナタリアさんを守るために掛けた呪いだったじゃない」


「……あぁ……そうだったな。なんてアホな理由で世界中を巻き込んでくれやがって……とは思ったが」


 グレインはそう言って肩を竦める。

 しかし、ミュルサリーナは眉間に皺を寄せ、より一層深刻な様子で話を続ける。


「師匠がナタリアさんに掛けていた封印を私が解いた。……その結果……ナタリアさんは……」


「一時的に世界最強の存在になったな。ほんと勘弁してほしいもんだ」


「えぇ……。それで終わっていてくれればよかったんだけどねぇ」


 ミュルサリーナは物憂げに目を伏せる。


「……まだ終わってない……ってことか?」


「終わってないどころか……このままだと、彼女は近いうちに死ぬわ」


 ミュルサリーナの非情な宣告に、グレインは自分の手足が冷たくなっていくのを感じるのであった。



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