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第344話 最期の意地と誇り

「ぐっ……ぅ、か、はっ……」


 首から血を噴き出し、声にならない声を短く漏らしてダイアンはその場に倒れる。


「ぁ、あああああああっ! だ、ダーくん! 死なないで! 返事をして! ……身体が……どんどん冷たく……。 ……なんで……なんでこんな非道いことをするのよッ!」


 倒れたダイアンに駆け寄ったアンネクロースは、大粒の涙を流しながら立ち上がりリリーを睨み付ける。


「……正当防衛、です。……貴女が、うちのギルドの……サブマスターを……ナタリアさんを、殺そうとしたから」


「だったら! だったら私を殺せばいいじゃないッ! なんでダーくんなのよッ!!」


「彼は……ナタリアさんにベタベタして気持ち悪かった。……ナタリアさんはグレインさんのものだし」


「グレインの……もの……」


 アンネクロースはその言葉を聞いて額に青筋を浮かべ、逆にナタリアは頬を紅く染める。


「貴様ッ……貴様ァァァッ!」


 そのままリリーに飛びかかろうとするアンネクロースを、周囲にいた数名の近衛騎士達が止める。


「アンネクロース様、お止めください! 失礼を承知で申しますが、貴女では『皇帝殺しのリリー』様に敵う筈がありませぬ。どうか命を無駄に捨てぬようお願い申し上げます」


「五月蝿い! 敵わぬから何だと言うのッ! あの小娘は私の大切なダーくんを殺したのだ! ダーくんがいなければ、私はこれ以上生き永らえていても意味がないのだッ! ここで一緒に死んでやるッ!!」


「それでも! 私達は貴女を死なせるわけにはいかないのです! 新皇帝ダイアン陛下亡き今、この国を支えるのはアンネクロース様お一人なのです! その大切なお命をここで投げ捨てる事だけは……どうか、どうか! アンネクロース様はそこで静かにご覧になっていてください」


「見る、とは……何を……?」


「決まっているではありませんか。……新皇帝陛下を眼の前でむざむざ殺された……我々近衛騎士団の、最期の意地と誇りを見ていてください」


 アンネクロースを抑えていた騎士達は口々にそう言って、一人また一人と剣を抜きながらリリーの方へと歩み寄る。


「たとえ皇帝殺しには敵わないとしても、この命と引き換えに、手傷の一つでも負わせてみせましょう」

「我ら、カゼート帝国最高戦力近衛騎士団の名に恥じぬ死に様を!」

「たとえ相手が皇帝殺しでも恐れることはない!」

「アンネクロース様、帝国の未来はお任せしましたぞ!」

「カゼート帝国に栄光あれ!」


 次々とリリーの前に立ちはだかる騎士達。

 それを見て、涙を流すアンネクロース。


「もう良い、もう良い! 近衛騎士団以外の者は席を外してくれ! 今すぐである!」


 手を叩きながら、玉座の間に響き渡る声でそう叫んだのはベルクートであった。

 彼もまた、その瞳から大粒の涙を零していた。


********************


「……さて、『皇帝殺し』リリー殿、そして──グレイン殿」


 扉が閉ざされ、壁面に沿って近衛騎士達が立ち並び、静まり返る玉座の間でベルクートが口を開く。


「いや、特にグレイン殿。余は今まで貴殿の名前を間違えていた。大変済まなかった」


「いや、今はそこ大した問題じゃないだろ!? それよりもこの状況を──」


 周囲を見回し、焦った様子のグレインを見てベルクートは笑みを浮かべる。


「いやいや、この状況も大した問題ではあるまい。『皇帝殺し』リリー殿の手に掛かれば、な」


 ベルクートが視線を向けたリリーは、短剣を持つ手に力を込める。


「余には解っているのだ。リリー殿があの時余を本当に殺し、そして──蘇生した事を」


 ベルクートの発した『蘇生』という単語に、周囲の近衛騎士達も驚きを隠せないのかざわつき始める。


「お前達、静粛にせよ! 何のために人払いをしたと考えるか! 我ら帝国民の誇り、そして王宮近衛騎士団の威信にかけて、これからリリー殿の為す事は最重要機密事項とする。他人に漏らす者はもはや帝国民ではないし、帝都ヘポキポットゥスから永久追放する。これを末代までの恥と考えよ! ……そういう訳でリリー殿、婿殿を蘇生していただけないだろうか」


「「「帝都の正式名称クソダセェ」」」


 リリーは小さく頷くと短剣を鞘に納め、横たわるダイアンの元へと歩み寄る。


「ダーくんの身体は確かに冷たくなってた……。でも、本当に……蘇生……?」


 まだ涙を流しているアンネクロースも、静かにリリーの所作を見守る。

 リリーの翳した手からどろりとした泥状の魔力がダイアンの身体へと流れ、彼の身体に入り込んでいく。

 次第に真っ赤な穴を空けていたダイアンの首筋が塞がっていくと、騎士達からもどよめきが起こる。


「……これだけの秘技……今まで隠すのは大変だったであろうな……」


 リリーを見つめるベルクートがそう呟く。


「冒険者の間では『仲間殺し』って呼ばれてたらしい。でも、彼女はヒーラーだ。そして彼女が仲間を癒やすにはあの方法をとるしかないんだ」


 ベルクートの隣に立ち、腕組みをしてリリーの様子を見守るグレイン。

 その言葉が突き刺さったのか、ベルクートは悲痛な表情を浮かべる。


「ヒーラーというジョブは……なんと苦難に満ちた人生であろうか。我らのように戦士ばかりであれば、いくらでも潰しが利くというのに」



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