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第339話 バルガ分隊長

「隊長! バルガ隊長! 起きてください!」


 バルガは、自らの身体が揺り動かされる感覚で目を覚ます。


「む……こ、ここは……我らは……」


「あははっ、隊長も寝ぼけてる〜」


 そう言ってけらけらと笑うソフィアの背後から、申し訳無さそうに眉を下げたリザベルが顔を出す。


「バルガ隊長、あなたも我々と同じ悪夢を見られていたのではないですか?」


「……悪夢?」


「えぇ、王宮で私が……隊長を切り刻んでいました。隊長の身体は何度も復元して、その度に私はまた隊長の身体を傷付け……」


 バルガはハッとしたように自らの身体を見回すが、どこにも異変はない。


「悪夢と言うにはあまりにも悍ましい……そんな夢でした」


「……あぁ、そうだ。そんな夢……を見ていたな」


「何故集団で同じ夢を見ていたのかは解りません。ですが隊長、そんな瑣末な事よりも今は任務の完遂を第一に考えましょう。魔物討伐に来た帝国兵の分隊長としても、『影鴉(かげからす)』隊長としても。……今は魔物討伐遠征の最終日、ここは帝国国境の町ライグライムの宿屋です」


「そうか……そうだったな。リザベル、いつもありがとう」


「いえ、我等は隊長の為、『影鴉』の為に全力を尽くすだけですので」


「んふふっ、リザベルったらちょっと嬉しそうだ〜」


「うるさいソフィア! 誂うな!」


 騒ぐ二人の声を聞きながら、バルガは呟く。


「あれは本当に……夢だったのか……?」


********************


 バルガ達は宿屋を出て、街の外へと歩いていく。


「バルガ分隊長、おはようございます!」

「「「おはようございます!」」」


 街の外で野営していた十数名の兵士達がバルガを見て次々に挨拶をする。


「おう、皆元気そうで何よりだ。……諸君、ライグライム周辺の魔物討伐は本日までだ。出来る限り多くの魔物を狩って、この街に住まう人々を安心させてやろうではないか!」


「「「おぉーっ!!」」」


「たかが魔物とはいえ、くれぐれも油断はするなよ? 怪我なく王都に帰還するのが一番だからな」


「「「はいっ!」」」


「(それにしてもあの分隊長、こっちに来てから全然姿見せなかったけど何してたんだろうなぁ)」


 装備の点検をしていた一人の兵士が小声でそんなことを言うと、すかさず隣の兵士が口を尖らせながら答える。


「(そんなの決まってんだろ。あのお付きの美人秘書達が見えないのか? 俺達には街の外で野営させといて、自分だけあの美人達と街の宿屋にご連泊だ。……たかだか分隊長のくせに、いいご身分だぜ)」


「(……なぁ、実は俺、一昨日寝酒を買いに街に入ったんだ。その時に宿屋に行ったんだけど)」


「(お、おまっ! 兵士が街をウロウロすると住民が不安がるから街に入るなって言われてただろ)」


「(しょうがねぇだろ、酒がなくなっちまったんだからよ。もちろん鎧は脱いでたぜ)」


「(それで、宿屋がどうしたってんだよ)」


「(一応バルガさんに許可もらおうと思って宿屋の主人に聞いたんだけどよ、バルガさん達は一週間前に一泊しただけだって言うんだぜ?)」


「(は? それどういうことだよ!? )」


「(つまりこの一週間、あの三人はここにいなかったって事だよ。俺達には交代で街の周囲を監視させておいて、自分達はどっかで遊び呆けてたんじゃね?)」


「(何だよそれ! 腹立つなぁ)」


「(な、なぁ、リザベルさんこっち見てないか?)」


「(んなの気のせいだろ? お前がずっとリザベルさんに見惚れてるから目が合う気がしてるだけだよ)」


********************


「諸君、これにてライグライム周辺警備、及び魔物討伐の任務は終了である! 我等はこれより帝都へ帰還する。……誠に残念ながら、最終日であった本日、二名の隊員が名誉の戦死を遂げることとなってしまった。どうやら休憩中に背後から魔物に襲われたようだ。襲ったのは大型の熊だった。幸いにもソフィアとリザベルが現場近くに居たため、魔物は早急に討伐することはできたが……。最後の最後にこんなことになってしまって……済まない。 彼らの遺体は原形を留めないほどに粉々だったので、この地に埋葬させてもらった。……諸君らも気を抜くことなく、無事に王都へ帰還しようではないか」


 兵士達はみな、バルガら三名を先頭に無言で歩き出す。

 その道中、ソフィアがにやけた顔でリザベルにすり寄る。


「さすがリザベル、大事な仲間であっても、眉一つ動かさずに切り捨てたね〜」


「任務中に私語をしている奴が悪いのだ。……それに、私達が宿屋に居ないことを知られた。……私だって、同じ部隊の仲間を斬りたくはなかった」


「それにしたって鮮やかだったよねぇ〜。悲鳴を上げる間もなく、二人一度にバッサリだもん」


「おいソフィア、後ろに聞かれたらどうする」


「あ〜、大丈夫。『熊の爪って恐ろしいよね! 私もあんなのに出会ったらあっという間に切り裂かれちゃうよ!』」


 ソフィアはわざとらしく声を張り上げ、怖がる素振りをする。


「おい、不謹慎だぞ二人とも! ……たまたま現場を見ていた君達が、目の前で大切な仲間を失った、その恐怖心は理解できるが、今は静かに彼らの死を悼んで帝都へ足を進めよう」


 バルガはソフィアを叱りつけ、それから後ろに続く兵士達に目を向ける。


「今回、大切な部下を失ったのは私の失態だ。帝都に帰還し次第、リーブキン参謀長に包み隠さず報告する。……おそらく、私は分隊長の任を解かれるであろう。分隊長としての最後の任務、君達と過ごした日々は大切な思い出として──」


「(隊長……独断で二人を斬ってしまった私を庇ってくれてるんだ)」


「(いやいや、ほんと数日前に、部下は限りなく少ない方が『影鴉』として動きやすい、ってあの方から言われたばっかじゃん。隊長も何処かのタイミングで分隊長を解任されるような不祥事を起こすつもりだったと思うよ? そんな時にたまたまリザベルが斬っちゃっただけで)」


「(隊長……ありがとうございます)」


「(リザベルさーん? ……ありゃりゃ、これ聴こえてないわ〜)」


 突如歩みを止め、後ろの隊列へと振り返り演説を始めたバルガの傍らで、前を向いたまま小声で話すソフィアとリザベル。


「(ん? ちょっとリザベル、誰か来るよ!)」


「(あれは……!?)」


 分隊の前から歩いてきたのは、なんと自分達と全く同じ姿形をした三人組であった。



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