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第337話 契約は成立じゃ

 いつも通りの口調で語るサブリナの、左腕があった場所を見つめてグレインは呟く。


「左腕って……そんな簡単に……」


「簡単ではない! 簡単ではなかったのじゃが……。腕を失ったクライルレットを見ていたら、自然と……な。気がついたら『変換治癒(トランス・ヒール)』でクライルレットの左腕を妾と交換しておったわ」


「慈愛に満ちたサブリナ様に再びいただいたこの左腕……。その瞬間から、私はサブリナ様の為にこの生命を費やすことを決心いたしました。そして、魔界へサブリナ様をお連れして、かつての魔王がアドニアスという邪悪な存在であったこと、グレイン殿たちと一緒にその魔王を廃したこと、そしてサブリナ様の思いやり、愛、サブリナ様の存在こそが魔族に必要不可欠であることを同胞たちに訴えました。その結果──」


「妾が新魔王に推挙され、気がつけばこのようになっておったのじゃ」


「えぇ、先日サブリナ様は正式に魔国ヴァイーダの王として即位されたのです」


 バルガを片手で持ち上げたセーゲミュットが満足気な顔でそう付け加える。


「ちなみに某も、魔王様の右腕であり、魔王軍総司令補佐兼、魔王軍歩兵育成部門最高統括責任者兼、魔国ヴァイーダ国家安全保障局長兼、魔国ヴァイーダ国境監視局長兼、国宝警備部隊長兼、魔国ヴァイーダ外務大臣から、魔王様の右腕であり、魔王軍総司令代理兼、魔王軍歩兵育成部門最高統括責任者兼、魔国ヴァイーダ辺境開拓プロジェクトリーダー兼、魔国ヴァイーダ国家安全保障局長兼、魔国ヴァイーダ国境監視局長兼、国宝警備部隊長兼、魔国ヴァイーダ外務大臣に任命されてな。新魔王サブリナ様の下で忙しい日々を送っているのだ」


「……よく分からんが……お疲れ」


 そう言って溜息を吐くグレインの鼻先に、ぶら下げられながらもなお殺気に満ちたバルガの顔が現れる。


「それで、この男の処遇についてだが」


「おわぁぁぁっ! い、いきなりそんな奴の顔見せるんじゃない! びっくりしただろ! ……おいバルガ、可愛い可愛いお仲間達はどうした? セーゲミュット、こいつらは3人パーティだったぞ。エルフの里で虐殺をしてた時は、な」


 そう言いながら兜を脱ぐグレイン。


「き、貴様は! エルフの里まで着いてきたのに脱走したヒーラーギルドのグレインではないか! ググレインなどと中途半端な偽名を使いおって!」


「いや、それはこのおっさんが勝手に間違っただけだ」


「ちょっとグレイン! 陛下になんて口をきくのよぉ! 無礼者!」


 そう言ってグレインを諫める甲冑。

 それを凝視するバルガ。


「その声、話し方……鎧の中身は森の中で会った女だな?」


 バルガの質問に、兜を脱ぐことで答えるミュルサリーナ。


「あらぁ、覚えていてくれたのぉ? それは光栄だわぁ。ちなみに、あの時のお仲間も今こちらへ向かっているみたいよぉ。……それで、他にも仲間はいないのかしらぁ?」


「ハッ! 仮にいたとしても教えるものか!」


「……そう。まぁいいわぁ。ただし、これから駆け付けるお仲間たちはきっと戦えないわよぉ? 森で掛けた弱体化と意識操作の呪いによって、貴方達ってただの操り人形になっているのよねぇ。だから、生きてここから出たかったら別の仲間を呼んだ方がいいわよぉ」


「そんな者など居るものか! 特殊部隊『影鴉』は我等三人だけである! 常人ならば命を落とす程の厳しい訓練を幾多も乗り越えて来た我等なのだ、呪いか何か知らぬが、貴様なんぞの術に掛かる筈が無かろう!」


「「隊長!!」」


 玉座の間の入口から届いた声に、バルガの身体がぴくりと動く。


「何だか嫌な予感がして来てみれば……」


 そう言って剣を抜くリザベル。


「あの騎士は……魔族!? モンスターってことだね〜! 一気に皆殺しだよ〜!」


 両手に装着した手甲を打ち鳴らすソフィア。


「お、お前達! 駄目だ、来るんじゃ──『助かった。まずは武器、防具を全て捨てるのだ』」


 自らの発した言葉に驚くバルガの顔を見て、満足そうに嗤うミュルサリーナ。

 彼女の口が動くと、同じようにバルガの口も動く。


「『こいつ等魔族は、武器を持っている者を敵と認識する。だからまず油断させるために武器を置け。丸腰で近付くのだ!』 ──ち、違……やめ──!」


「『武器を置いたらそこのレイピア使いの魔族騎士の前に立ち、両手を上げて目を瞑れ。敵ではないと思わせるのだ』 ──だ、駄目だ、そんな──」


 バルガは血走った目で首を左右に振りながら仲間の名を呼ぶように口を動かそうとするが、その口から出る言葉は彼の意志とは無関係なものばかりであった。


「『あとはそのレイピア使いに身を委ねよ。その者がお前達を……解放してくれる』」


 ソフィア、リザベルの前に立ち、ミュルサリーナの方へ振り返るクライルレット。

 ミュルサリーナやグレイン、サブリナやベルクートも皆、無言で頷く。

 それを見たクライルレットは大きく息を吸い、レイピアでソフィアの胸を貫き、すぐに刀身をその身体から抜き去る。


「あグッ」


 ソフィアは短い声を出し、全身を軽く震わせてその場に倒れ込む。

 ソフィアの声にならない声を聞いて目を開けたリザベルは、隣で血溜まりを作って倒れている彼女に驚き、バルガを睨み付ける。


「バルガ貴様ァ! さては裏切ったな!」


 瞬時にクライルレットの前から飛び退き、自らの愛剣、錫杖型の仕込み杖を手に取る。

 するとサブリナがバルガの前に立つ。


「さてバルガよ。これは『契約』じゃ。エルフの里での虐殺を反省し、後悔せよ。破った場合は死なない身体を与える。そなたがエルフに対する贖罪の意志で満たされた場合にのみ、死ねる身体に戻ることとなろう。……契約の代価として、そなたの全魔力を妾にいただくぞ」


 サブリナがバルガの前に立ち、そう宣言する。


「これって本人の意志が反していても良いのかしらねぇ?」


 ミュルサリーナはそう言いながら、笑顔でバルガの口を操る。


「『承知した。契約しよう』──な、勝手、に──」


「よし、契約は成立じゃ」


 サブリナの口元が光る。


「判定基準ガバガバだな」


 呆れながらそう呟くグレインなのであった。



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