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第335話 貴様が……黒幕か

「バルガよ、魔国の王は既に来ておるのか?」


 驚くグレイン達とは逆に、ベルクートは目の前で跪くバルガを見据え、落ち着き払った声でそう訊いた。


「勿論でございます」


 バルガは、その質問を待ち構えていたと言わんばかりに不敵な笑みを浮かべる。


「よし、連れて参れ。この目でどのような人物か見極めてくれよう」


「はっ」


 跪いていたバルガは、立ち上がった瞬間にベルクートの後ろに控える甲冑達に訝しげな視線を送るが、即座に踵を返して玉座の間から飛び出していく。


「アン、そしてググレインよ。余の亡き後のことは頼んだぞ」


「父上ッ! 何を弱気になっておられるのです! 魔界の王などこの場で首を刎ねてしまえばすべて解決するではありませんかッ!」


 小ぶりな甲冑をカチャカチャと鳴らして抗議するアンネクロース。


「すぐ首刎ねようとするのやめろって! それこそ対魔界大戦争の始まりだぞ!」


 そう言って背後からアンネクロースの両肩を抑えつけるグレイン。


「私に触れるな無礼者ッ! 触れていいのはダーくんだけであるッ! よって死罪、すなわち斬首であるッ! 誰かこの者の首を刎ねよッ!」


「だからそれをやめろっての!」


 広々とした玉座の間に響き渡る甲冑の金属音に、ベルクートは目を細めていた。


「その元気があれば、次の時代も心配無用であるな」


「そろそろ来たみたいよぉ。……あら? この魔力って……」


 グレイン達と同様に甲冑を着ているミュルサリーナが首を傾げる。


「なんだ? どうかしたのか?」


「いいえ、何でもないわぁ。……面白くなってきたわねぇ」


 グレインの問いに笑顔でそうはぐらかすミュルサリーナ。

 そこへバルガが戻ってくる。


「陛下、お連れしました」


「うむ」


「バシリト王国宰相のデルガデ殿、ならびに魔国ヴァイーダ国王、リナ様です」


 バルガの後ろには、デルガデと紹介された老人と、その隣にヴァイーダ国王と思われる人物が立っていた。

 その人物を見てグレインが呟く。


「女……だよな……?」


 王と言うにはあまり豪奢ではないドレスを着ているリナの身体は明らかに女性の特徴を備えていたが、左腕は欠損しており、背には大きな翼を生やしていた。

 そして、顔は何故か靄が掛かったようにはっきりと見えないのである。

 彼女の後ろには兜で顔が見えない騎士二人が付き従っている。

 騎士達の背にも立派な翼が見えることから、彼らもまた魔族なのは明白であった。


「これはこれは、遠路遥々ご苦労であったな。……して、今日は何の要件でわざわざ来たのだ?」


 ベルクートはそう二人に声を掛ける。

 この言葉にデルガデが不服そうな表情を浮かべた。


「カゼート王よ、儂は国王の名代としてここに赴いておるのだ。つまり、リナ殿と儂、そしてそなたは、今この場では同格の存在であるのだぞ。そのような不遜な態度は改めるべきであろうよ。のう、リナ殿」


《そのような些事、妾はどちらでも構わぬ》


「(なんだ、この声は!?)」


 それは男とも女ともつかない、耳に聴こえているのか、頭の中に直接認識させられているような奇妙な感覚であった。

 グレインが周囲を見ると、ハルナ達も兜の上から耳を押さえたり、グレインと同じような反応をしていた。


《カゼート帝国皇帝ベルクートよ。そなたの後ろに控えておる大勢の騎士達は何のつもりじゃ? よもや妾の命を狙っておるのか?》


「勘違いするな。この者達は帝国とは無縁の、中立なる立会人である。ただ、その方らが何を企んでおるか解らぬ故、安全確保の為に甲冑を貸し出しているまでよ」


 堂々と答えるベルクートに、グレインは思わず吹き出しそうになる。


「(自分の娘が紛れ込んでいて、さらに国が乗っ取られたら再建を……って言うぐらいなのに中立は無いだろ……)」


「(グレインさまっ、こらえて……こらえてくださいっ! 陛下の説得力の為にも……ぷふっ!)」


 そんなグレインの様子に気付いたのか、ハルナが声を掛けるが、逆にハルナが吹き出してしまう。


《貴様が用意したのであれば、中立だという保証もないではないか。……せめて身分を明かさぬか。奴らは何者じゃ?》


「ギルドの者だ。リーダーの名はググレイン。それと、この世界を古くから見守ってくださっている魔女殿も同席されている」


 ミュルサリーナの入った甲冑が、金属音を鳴らしながら魔王に向けて手を振っている。


《グ、グレイン……魔女……。皇帝、貴様はその者達を背後に侍らせているということは、その者達を信用している、そういうことじゃな?》


「無論である。そして、今この場で何が起ころうとも、ありのまま後世に残してほしい、そう頼んでいる」


 ベルクートの言葉に、リナの口許が少し緩む。


《判った、そういうことであれば、すべて判った》


「二人して一体何の話をしておるのじゃ?」


 話についていけないデルガデが困惑した表情でリナの横顔を見上げる。


《今回の会談は、この三人で協力して統一国家を樹立し、邪魔する国をすべて滅ぼして魔界もこちらの世界も手に入れよう、そなたはそう言っておったな?》


「あぁ、そうじゃ。リナ殿もその提案を拒みはしなかったし、ベルクートも賛成しておったので引き会わせたのじゃ」


《妾が拒まなかったのは、そんな下らぬ野望を考えておる者達を突き止めたかっただけじゃ》


「なっ、なんじゃと!?」


 大きく目を見開いて驚くデルガデ。

 そんな彼にベルクートが追い打ちを掛ける。


「デルガデよ。今の余はそんなことは露も考えておらぬぞ。何せ操られておらぬからな」


「は!? ……さてはリーブキンめ……しくじりおったな」


「貴様が……黒幕か」


 そう言って、ベルクートは大剣を握り、玉座から立ち上がるのであった。


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