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第333話 結婚式

「よく来てくれた。そなた達は余の後ろに控えていてもらいたい。勿論、そなた達に危険が及ぶようなことは無いように努める」


 グレイン達は玉座の間でベルクートからそう告げられる。

 そしてベルクートはゆっくりと玉座に腰掛けると同時に、玉座の両脇に立っていた二人の騎士が右手の拳を胸に当てて一歩踏み出す。


「「我ら、『最優秀超級トップエリート近衛兵ナンバーワン特別部隊』にお任せください!」」


「あぁ、安全を確保してくれるってのは分かったんだが、俺たちは具体的に何をすればいいんだ?」


 グレインがそう訊くと、ベルクートは少し寂し気な表情を浮かべたあと、左隣りの騎士に言う。


「連れて参れ」


「はっ!」


 左の騎士が駆け出して玉座の間を出ていく。


「カゼート帝国からヒーラーギルドへの頼み事は三つある」


「多いな」


「ヘルディム王国から要請のあった資金援助、ならびにヒーラーギルドへの報酬は存分に支払おう。……もしも余が憂慮している事態になれば、の話ではあるが」


「憂慮してる事態ってなんだよ?」


 とても帝国の皇帝に対する言葉遣いではないため、顔を顰めるミュルサリーナに優しい笑顔を送りながら、ベルクートは答える。


「この後、余が殺された場合の話だ」


 ベルクートがそう言うと、グレイン達の空気が変わる。


「……魔界の使者にか」


「あぁ、それと……魔界と繋がっているバシリト王国に、だな。その場合、この国はバシリトの手に──おぉ、来たな」


「お連れしました」


 ベルクートの視線の先、開けたままの玉座の間の扉には、先ほど出ていった騎士と、その後ろに花嫁衣装を纏ったアンネクロース、隣に黄金に輝く鎧を着たダイアンが立っていた。


「おぉ……美しいぞ、アン。そなたの花嫁姿を見られて良かった。これで余はもう思い残すことはない」


「き、綺麗だよ……アン」


 綺羅びやかなアンネクロースの姿に見惚れるベルクートとダイアン。


「父上ッ!? 言っていいことと悪いことがありますわッ! まだまだ父上には長生きしてもらわないとッ」


「ヒーラーギルドへの依頼の一つ目が、彼らの護衛だ。余に万が一のことがあれば、彼らを安全な場所──そうだな、ヘルディム王国かローム公国まで連れて行って欲しい。ヘルディムのティグリス女王、ロームのハイランド公には既に書面を送ってある」


「あ、あぁ……分かっ──」


「絶対に、北へは行くな」


 それはグレインの言葉を圧し潰すような重さのある言葉であった。


「依頼の二つ目。このあと玉座で起こる事の仔細を後世に、世間に伝えて欲しい。そなた達は国家関係に不干渉である立場である故、『旧皇帝一族側の捏造、一方的な主張』との言い分は通らぬ。まぁ、バシリトが余を殺して、この国を手に入れようとしたならば、であるが」


「俺達が全員消されなきゃ良いけどな」


「グレイン、怖いこと言わないでよ……。僕だけ先にバナンザに戻ろうかな」


「まぁ待て。魔族は寿命が長いと聞く。もしかしたら魔界の使者が、幼女の見た目をしている可能性だってあるぞ」


「グレイン、僕最前列で見守ってるね! い、イタタタダダ」


 笑顔のトーラスであったが、背後から伸びてきたセシルの両手に首を絞められ、たちまち引き攣った笑みに変わる。


「浮気……許すまじ……」


「トーラス君、まだ呪いは効いてるのよぉ?」


 そう言って笑うミュルサリーナ。


「ナタリアがいなくて良かったよ……」


「それだけが残念なのよねぇ」


 呼吸困難で青い顔をしているトーラスを見て胸を撫で下ろすグレイン。

 その傍らで、ミュルサリーナは不満気な表情であった。


「そうだ、ググレイン。そなた達はバルガと面識があったな。それにダイアン、いや、む、む、む、婿殿。そなたも殺されている筈だ」


「え、婿?」


「ええい、まだ分からぬか? 今からここで、ヒーラーギルドと魔女殿の立ち会いのもとに、そなたとアンの結婚式を執り行うのだ!」


「「「ええええええっ!」」」


********************


「コホン……勇者ダイアン……いついかなる時も、共に誠実であり、共に助け合い、喜びも哀しみも分かち合うことを誓いますか」


 静かな玉座の間に、グレインの声が響く。


「はい、誓います」


 笑顔でそう頷くダイアン。


「では、王女アンネクロース様」


「様は要らないわッ」


「では、王女アンネクロースさ……さん」


「王女も要らないわッ」


「んじゃ、そこの女」


「「「いきなり雑」」」


「無礼者めッ! 誰かこの者の首を刎ねよッ!! 斬首斬首ッ!」


「勘弁してくれよ! 俺こういうの慣れてないんだ……っていうか、なんで俺こんな牧師みたいな事やってる訳!?」


「ググレインが立会人のリーダーだからと何度も説明したであろう」


「納得してないけどな……。はぁ……。アンネクロース。いついかなる時も、共に誠実であり、共に助け合い、喜びも哀しみも分かち合うことを誓いますか」


「誓いま──」


 その時、轟音が響く。

 轟音は玉座の方からであった。

 一同の視線を集めた玉座では、ベルクートが玉座の肘掛けを右手の拳で粉砕していた。


「いくら余の死期が迫っているとは言え、やはりこの結婚……認める訳には……」


「陛下」


 ベルクートの前にミュルサリーナが立つ。


「いつかこういう日は来るのですよ。あなたが死ぬ前にこの場に立ち会えたことを喜びなさいな。……私は、あなたの事を産まれた頃から見ていましたから、あなたのことはよく解っているつもりです。そして、先代が亡くなり、あなたが即位してからこう呼ぶことは控えていましたが……。もう大人になりなさい、ベル」


 ミュルサリーナの呼び掛けに、堰を切ったように涙を流すベルクート。


「父上……アンは……アンは必ずや幸せになりますッ!!」


 アンネクロースの言葉に、泣きながら無言で頷くベルクート。

 そして彼は、グレインに涙声で告げる。


「ググレイン……三つ目の依頼は……余の亡き後、アンネクロースが……この国の皇帝に即位する為の助力をして欲しい」



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