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第330話 先代のお言葉

「あれは何十年前のことであろうか……」


 ベルクートが遠い目をして顎に手を添えた時であった。


「なぁ陛下、その話って長くなる? バルガ達って魔界からの使者を迎えに行ったんだろ? あっちを追い掛けた方が良くないか?」


「グレインさん、陛下に対して無礼だわぁ! その口、閉ざしてやる──」


 グレインの態度に慌てるミュルサリーナに対して、優しく手振りで制するベルクート。


「まぁ、余が魔界に行ったことがある、というだけだ。バルガ達を追いかける必要はあるまいて。どうせ奴らは、そこの呪術師の末路について知らぬのだ」


 ベルクートは、血の海で既に事切れているリーブキンを一瞥し、吐き捨てるようにそう言った。


「じゃあ、ここでおっさん……陛下の話を聞きながら待つか。魔界の使者ってどんな奴らなんだろうな……ってイテッ!」


 ついにベルクートをおっさん呼ばわりしたグレインの頭を思い切り叩くミュルサリーナ。


「無・礼・者よぉぉ!」


 グレインの頭に平手を叩きつけるミュルサリーナを見て、ベルクートは大笑いする。


「ワッハッハハハ! よいよい、ググレインに比べれば余の方がおっさんであるからな。しかしググレインよ、そなたも『皇帝殺し』リリーから見れば十分おっさんであるぞ? ……それにしても、これほどまでに狼狽える魔女殿を見たことがなかったでな。いいものを見させてもらったぞ」


「……陛下……もう! 誂わないでくださいませ」


「いやいや、それにしても此度は魔女殿のお陰で真実を見ることが出来た。何と礼を申したら良いか」


 そう言って頭を下げるベルクート。


「へ、陛下! おやめ下さい! 私は『何かあったら息子の助けになってやって欲しい』という先代のお言葉に従ったまでです」


「リーブキンの面会前に、魔女殿が余に強力な呪いを掛けてくれていなければ、余は再びあやつの呪いに掛かり、自我を失う──いや、もう一人の自我を表に出すところであった」


「有難きお言葉、痛み入ります」


 恭しく礼をするミュルサリーナ。


「それで、リーブキンが掛けようとしていた呪いの正体は分かったのか?」


「えぇ、何となくねぇ。……おそらく、陛下のもう一人の人格なんて存在しないわぁ。あれは単に、陛下のお身体に魔力を流し込む経路を作り出すだけのように思えたわぁ」


「……つまり、どういうことであるか?」


「何者かがその経路を通して魔力を通じ、陛下のお身体を操っていた、という可能性が高そうです」


「ってことはあのリーブキンって奴が操ってたってことか?」


「いいえ、彼の呪術はあくまで経路を作るだけねぇ。それに、彼程度の魔力では、陛下を操る事など出来そうにないわぁ」


「ということは、リーブキンではなく、他の者が余の身体を……」


「えぇ、そうなります」


「誰が操ってたのか特定出来ないのか?」


「どうも操作主までの経路は隠蔽されていて、辿ることは出来なかったわぁ」


「それは残念であるな」


 ベルクートが溜め息を吐く。


「はい、残念です」


 俯くミュルサリーナ。


「惜しかったなぁ」


 グレインも同様に嘆息する。


「えぇ、ほんと残念ねぇ」


 垂れ下がった前髪を掻き上げながら溜め息を吐くミュルサリーナ。


「「…………」」


 顔を見合わせるグレインとベルクート。


「お前、相手によって態度変える、その喋り方疲れない?」


「余の前だからといって気を遣う必要はないぞ。ググレインに接する時と同様で構わぬ」


「っ! ……だいたいあなたが無神経すぎるのよ! 此方の御方がどなたか解っているの!? 世界最大のカゼート帝国、その皇帝陛下なのよぉ! つまり世界の王と言っても過言ではないわぁ!」


「王様ならティアとかハイランドがいるからなぁ。別に驚かないんだよなぁ」


「ワッハッハ! 構わぬ構わぬ。そも、そなた達はヒーラーギルドなのだろう? ギルドは元来、国家不干渉であるからな。互いに干渉されぬ者同士、無理に敬う必要もあるまいて。──無論、魔女殿も同格であるぞ」


「し、しかし……」


「余が構わぬと申しておるのだ」


「は……はっ! 承知しました!」


「それで、ググレインよ。あれはどうしたら良いかの」


 ベルクートは顎でリーブキンの身体とその周囲の血溜まりを指し示す。


「そうだよな。あれは片付けた方が良いよな。おっさん、お付きの兵士たちに頼んで掃除できないの?」


「皇帝との謁見中に参謀長が大量に吐血して死んだ、などと信じてもらえると思うか? どう考えても余がやったと思われるわ」


「陛下の機嫌を損ねちまったんで始末したって事でいいんじゃないか?」


「余はそんな気分一つで大事な部下の命を奪う事などせぬ。それに、外傷なく血を吐いておるのだ。どう考えても毒を盛ったようにしか見えぬではないか。余は毒などという卑怯な手段は使わぬ」


「じゃあ、ヒーラーギルドの誇る死体処理班を呼びますか。おーい、聞こえてるか? 頼むぞ、トーラス」


 グレインがそう声を掛けると、玉座の背後に闇の渦が現れ、そこから心底嫌そうな表情を浮かべたトーラスが姿を現す。


「全くもう……ほんと人使いが荒いよね」


 そう言いながらトーラスは右腕に纏った黒霧をリーブキンの遺体に向けて放つ。

 その黒霧は、忽ちリーブキンの身体や血溜まりを包み込んでゆく。


「火山の中とか海の上とか、見つからないところに投げ込んでおいてくれ」


「はいはい。……もうヒーラーギルド辞めようかな」


「ねぇトーラスくん、どうやらここ帝都には『幼女カフェ』なる店があるらしいわよぉ。私、そのお店の情報を知ってるのよねぇ」


 ミュルサリーナがトーラスに耳打ちする。


「ミュルサリーナさん、ありがとう! 僕、一生ヒーラーギルドについていくからね!」


 やる気が出たのか、トーラスの黒霧は勢いよくうねり、リーブキンの身体を急速に呑み込んでいく。


「おぉ……すっかり綺麗になったな。『皇帝殺し』殿の秘技と言い、ヒーラーギルドの魔術は大層驚くべきものばかりであるな」


 関心するベルクートをよそに、トーラスはミュルサリーナに詰め寄っている。


「はいはい、店の住所は……王宮から西門に向かう通りを二本だけ北に入ったところねぇ」


「分かったよ、ありがとう!」


 言うが早いかトーラスは転移渦を生み出して転移していく。


「おいトーラス、通信魔法だけは切るなよ!?」


 慌てるグレインの隣で、笑いが止まらないといった様子のミュルサリーナ。


「あらあらー、私とした事が、記憶違いだったわぁ。あのお店、『幼女カフェ』じゃなくて『老女カフェ』だったわぁ」


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