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第325話 ダーくん

「……久しぶりに死にましたわ」


 頬を膨らませ、リリーにジト目を向けるセシル。


「ご、ごめんなさい……つい……」


「リリーを止められなかったのは僕にも責任がある。君を殺してしまってすまなかった」


 リリーとトーラスはそう言ってセシルに頭を下げる。


「それじゃあ、一度死んでスッキリ爽快になった事ですし、心機一転頑張りましょうっ! おーっ!」


 そう言って右手を突き上げるハルナに、一同は冷たい視線を送る。


「なぁハルナ……もう少し周りの空気を読もうな?」


 呆れた様子でグレインがハルナの肩に手を置く。


「とりあえず、俺が牢屋に入ってた間に何が起こったのか、俺がどうして出られたのかを説明してくれないか? ……というか、ここは何処なんだ? よく見ると周りが城壁に囲まれてるよな?」


 グレインは今更ながら、周囲の環境の異変に気付く。


「うふふっ、あの二人をご覧なさいなぁ。一目瞭然よぉ」


 ミュルサリーナが指差す先には、ダイアンと、同い年くらいの女性がぴったりくっつくようにして、仲睦まじい様子で芝生の上に置かれたベンチに座っている。


「あれが皇帝の娘か」


「そう、ここは王宮の中庭で、あの方がアンネクロース様──んんーっ!」


 ミュルサリーナがそう言いかけたところでグレインの指が彼女の頬を抓る。


「それよりも、ミュルサリーナ! お前、よくも裏切ったような真似してくれたな?」


 グレインにそう言われてミュルサリーナは、はっと目を見開き、ぽろぽろと涙を流す。


「ごめんなさい……あの時はそうするしか無かったのよぉ。そ、それに私、貴方の過去に受けた仕打ちを知らなかったの……。だから、そんなつもりじゃ……そんなつもりじゃなかったの」


 そう言って頬を抓られながら謝るミュルサリーナ。

 泣きながら素直に謝るミュルサリーナが珍しかったのか、全員がその姿に注目する。

 その空気は少し離れたところに座っていたカップルにも届いたようで、ダイアンが颯爽とベンチから立ち上がり、ミュルサリーナのもとへ駆け寄る。


「どうしたんですか、ミュルサリーナさん! そんなに泣いて……。グレインさん……その手は!」


 ダイアンの視線が、未だミュルサリーナの頬を抓るグレインの手に向けられたことに気付き、グレインは慌てて手を離す。


「あっ、いや、違うんだこれは──」


「こーらッ! ダーくん、他の女の子にちょっかい掛けたらだーめッ! ダーくんはあたしだけ見ててくれればそれだけで良いのッ!」


「ご、ごめんよ、アン。でも、僕達を再び引き合わせてくれた恩人が泣かされているんだ。それを見てたらいても立ってもいられなくなって……。僕が愛しているのは君だけだよ、アン」


 ダイアンは背後から抱き着いてきたアンネクロースに向き直り、そう言って抱き締める。


「要するにこの男が元凶なのねッ? ダーくんの視線をあたしから逸らした罪で、死刑にするわッ! ねぇダーくん、それでい〜い?」


 言うが早いかアンネクロースはダイアンにくっついた状態で指笛を吹く。


「お呼びですか姫様」


 何処からともなく五名の騎士が駆け付ける。


「この者を死刑とするわッ! ここで処刑しておしまいッ」


「マジかよ……」


 そう呟くグレインはもはや顔面蒼白であった。

 騎士達がグレインを正面に見据えたところで、ダイアンの声が響く。


「駄目です! グレインさんは僕の生命の恩人なんです! バルガ達に見捨てられて死にかけたところを……」


 ダイアンはそこで慌てて口を塞ぐ。

 しかしその口から飛び出した言葉を取り戻すことは適わない。


「バルガさんに……?」

「見捨てられた……?」

「死にかけた……?」


 騎士達に明らかな動揺が広がる。

 その時、アンネクロースが怒りに震えた声でダイアンに問う。


「……い、今の話、どういうことッ!? まさかあなたの護衛に就かせたバルガ、ソフィア、リザベル達が? 貴方を……見捨て……たッ!?」


「……なんだ、お前まだ何も話してなかったのか。……というかその娘も、お前を殺そうとしてたって話じゃないのか?」


 グレインがダイアンにそう訊くと、ダイアンは首を左右に振る。


「彼女は……僕は彼女に会って確信したんです。やはりアンネクロース様はそんなことを考える人ではありません。さっきのミュルサリーナさんみたいな嘘泣きとかしないような、素直でいい子なんです!」


「ん? 嘘泣き?」


 グレインがミュルサリーナに振り返ると、彼女はグレイン達に背を向け、静かに歩き出すところであった。


「ちょっと待とうか、嘘泣き魔女さん」


 グレインがミュルサリーナの肩を掴む。


「ミュルサリーナ、もう観念した方がいいですわよ」


 呆れ顔のセシルにそう宥められ、ミュルサリーナは今度こそ本当に頭を下げて謝る。


「嘘泣きなんてして、いったい何の得になるってんだ。無駄に多く謝ってるだろ」


「……きっとミュルサリーナには、数千年生きてきた魔女としてのプライドがあるんですわ。だから、心から頭を下げることに抵抗があったのではないかと思いますわ。わたくしもエルフ族として、人間族に対して同じ態度をとったことがありますもの」


「でも悪いのはミュルサリーナだからな?」


「えぇ……。だからこうして……頭を下げています……ごめんなさい」


「……わかったよ。今回だけは許す」


 溜め息混じりにそう言ったグレインの背後では、ダイアンから事の子細を聞いたと思われるアンネクロースが、発狂したかと思うほどの叫び声を上げていた。


「あたしのダーくんに……。許せんッ!! 許せませんッッ!!! 全!員!死!刑! お前ら、今すぐそいつらここに連れて来いやァッッ!!!」


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