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第323話 平和的に脱獄

 日もとっぷりと暮れ、明かりも無く暗い牢獄の中。

 冷たい石造りの床に、へたり込むように座るグレイン。


「クソッ! こうなったらさっさと死刑にでもなんでもしろっての」


 そんなことを呟くグレインであったが、それは彼の本心ではなかった。


『絶対……帰ってきなさいよ……』


 転移する直前、そう言っていたナタリアの寂しげな顔がちらちらとグレインの脳裏に浮かぶ。


「俺がここで死んだら……あいつ、悲しむかなぁ……」


「死なないので、大丈夫ですよっ!」


「ヒイッ! 何だよ誰だよ! 脅かすなよ!!」


 自分の何気ない呟きに対して反応が返ってきた事に驚き、彼は思わず石床から腰を浮かす。


「シーーーーッ! 声が大きいですよグレインさま!」


「その声は……裏切り者のハルナか? どうしたんだ? 俺が処刑ところを見届けに来たのか?」


「そんな……グレインさまを裏切るなんて事するわけないじゃないですかっ! 全くもう……」


「まぁ、あれはミュルサリーナが悪いよね」


 ハルナの声の後ろからもう一人、男の声がする。


「裏切り者のトーラス、お前も俺を笑いに来たのか?」


「はぁ……。ミュルサリーナは、君が過去に受けた仕打ちを知らなかった。だからあの後、僕達が彼女に説明したんだ。君が昔パーティメンバーから裏切られて殺されかけた事をね。そしたら彼女、ものすごく申し訳なさそうにしていたよ」


「泣いて謝ってましたよねっ!」


「あ、あぁ、うん……」


「その反応は泣いてないだろ……。ハルナ、勢い余って嘘をつくんじゃない」


「ええと……今にも泣きそうだったというか、心の中では泣いてましたっ!」


 少し慌て気味に跳ねるような声が牢獄に響く。


「じゃあ心の中が見えるハルナさん、俺が今何を求めているか分かってるな?」


「え……えっと……お肉! お肉が食べたい! そうですね!?」


「違います」


「じゃあお魚! やはり海の幸が恋しく──」


「なってません」


「分かりました、睡眠です! もうそろそろお休みになられ──」


「ません」


「えっとえっと……うーん……」


「もしお前たちが俺の事を裏切ったんじゃないとすれば、ちゃんと今後の計画について説明してくれよ。牢屋に入れられてる俺には聞く権利があるはずだ。俺が──いや、今は自分の事よりもナタリアの事が心配なんだ。もし仮に俺がここで処刑されたとして、あいつは『次』を見つけてくれるだろうか、ってな。あいつ、こないだまで口を開けばいつも『婚期が、婚期が』って煩かったしな。そろそろ売れ残りに……」


「……『次』なんて、いないと思います。たとえ死んだと聞かされても、お姉ちゃんはずっとグレインさまの事を待ち続けると思います」


「やっぱりそうだよな……。あいつ、自分の目で見るまでは絶対に信じないって奴だからな」


「……ちょっと意味が違いますけど……でも大丈夫ですっ! 私達が必ずグレインさまをここから助け出しますからっ! そして……ちゃんとお姉ちゃんの所に帰りましょう。今の話、グレインさまが自分の命よりもお姉ちゃんの事をずっと心配してたって伝えたら、きっと喜びますよ」


「あ、あぁ……出られりゃ……いいけどな……」


「それでね、グレイン。……僕たちは、君をどうやってここから出すか、一緒に考えようと思ってここへ来たんだ」


「まさかのノープラン」


「大丈夫だよ。これから考えればいいんだ。未来の可能性は無限大だよ」


「物は言いようだな……」


「ここの騎士団を全員闇に葬ってしまうのが一番簡単なんだけどねぇ……」


「お前、たまに怖いことをサラッと言うのな」


「リリーちゃんに殺してもらえばいいですかね」


「そうだよね。あとで生き返せばノーカンだし。そうすると、リリーが効率的に殺せる方法を考えようか」


 ハルナとトーラスで話が勝手に進んでいくのを止めるように、グレインは手を挙げる。

 とはいえ、夜闇の中で全く見えていないのだが。


「ちょ、ちょっと待った! 二人とも、もう少し平和的な方向で解決できないもんかな!?」


「「できません」」


「いや、してくれよ! 平和的に脱獄できないと、俺はずっと帝国騎士団から追われる身になるだろうが!」


「『脱獄』って言ってる時点で平和じゃないよ……」


「そうですよグレインさまっ! ここは正々堂々と正面から叩き潰して脱獄しましょうっ!」


「お前らの計画に乗るなんて絶対嫌だよ!」


「……とにかく話をまとめると、グレインはあと二日だけここで待っていてくれないかな。その間に処刑されることは絶対にないと保証する。その二日の間に、こっちで王宮に忍び込む手筈を整えてから、正式な手続きでちゃんと出獄できるようにするから」


 グレインは首を傾げる。


「今聞かされた話、どこがまとめだったんだ? むしろ全部初耳だったんだが?」


「ミュルサリーナさんからの伝言だよ」


「そういえばそんなこと言ってましたねっ! すっかり忘れてました~」


「……二人とも、あとでセシルのヒール三発ずつな」


 宵闇の中、恨みがましく二人の声がする方向を睨みつけるグレインなのであった。



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