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第319話 少なくとも俺は

「帝国に殴り込み……って、何言ってるのあんた!?」


 そう言って激しく頭を左右に振るナタリア。


「ギルドのサブマスターとして忠告するわ。この世界ではね、帝国を相手にしたらおしまいなのよ! それに、あいつらの後を追うにしたって、勇者一行が帝国に向かった証拠だって無いじゃないの」


「いや、そこはまぁ俺達が先に着いても……いや、むしろ先に行って待ち受けてた方がいいな。あいつらが帝国に戻って、最初に誰の所に向かうのかを探りたいからな」


「……ハッ! ま、まさか……皇帝陛下に報告する道中であいつらを亡き者にして、代わりに皇帝に『全員討死しました』って報告して報酬だけ貰おうって魂胆なんじゃ──」


「どこの悪党だよ! ……誰がそんな事するか!」


「……ハッ! ま、まさか……帝国の宝物庫から色々拝借して来るってこと!?」


「それじゃただの泥棒だろ! それこそ帝国を敵に回すじゃないか!」


「ま、まぁ……やり方は任せるわ。とにかく帝国に睨まれないように、上手く金を引き出してギルドの借金を全額完済してくれればそれでいいわよ! ……でも、間に合うの?」


 ナタリアは首を傾げながら続ける。


「バルガ達はもう馬車で移動中なのよ? 夜通し走り続けて、帝国まで数日かかるにしても、今から馬車に追いつくのは厳しいんじゃないかしら」


「そこはまぁ……アテがないわけでもない。脚が治るまでにどれぐらいの時間がかかるか、俺もわからないけどな。まぁ間に合わなかったらしょうがないさ。その時は別の手を考えるまでだ」


「脚が治る……? よく分からないけど、危ないことだけはしないでよね」


 ナタリアはそう言って、握り拳でグレインの胸を小突く。


「あぁ、危険かも知れないが、大丈夫だ。『少なくとも俺は』な。さて、バルガ達が居ないなら全員呼び戻してくるわ」


 そう言ってギルドの入り口を出ていくグレインの背中を見送るナタリア。

 彼女がグレインの言葉の意味を知るのは、すぐ翌日のことであった。


********************


「ちょ、ちょっとグレイン! 酷いよ! 首締まってる! 僕まだ死にたくないってば!! 痛い痛い痛い! そんなにキツく縛り付けないで!」


 翌日、バナンザの中央広場でポップの背に縛り付けられながら、泣き叫ぶトーラスの姿があった。


「なるほどね……。昨日の話は、トーラスに危険な役目をやらせるって意味だったのね。はぁ……」


 その騒ぎを見て溜息を吐くナタリア。


「まさか一晩寝ただけで脚が治ってるなんてな。凄いぞ、ポップ!」


「痛かったでしょうに、よく頑張りましたわね」


「プップップゥ〜♪」


 セシルに優しく首筋を撫でられ、嬉しそうな鳴き声を漏らすポップ。


「……よし、縛ったぞ。これで、ちょっとやそっとの衝撃じゃ解けない筈だ」


 ポップの背には、横向きに腹ばいになったトーラスが手足を含む全身をロープでぐるぐる巻きにされている。


「じゃあ、これからエルフの里を壊滅させたクズ達をぶっ潰しに行くぞ!」


「「「おぉー!」」」


「兄様……くれぐれも死なないでね。戻ってきたらすぐに回復(ころ)してあげるから」


 リリーがそう耳元で囁いて、トーラスの顔が真っ青になったところでポップが飛び上がる。


「ポップ、気をつけて行ってらっしゃいませ」


「プププゥ!」

「ングムピギニャァァァァァ……」


 次の瞬間、猛烈な風を巻き起こしてポップの姿が見えなくなる。

 あとに残ったのはトーラスの謎の悲鳴だけであった。


「頑張れよトーラス……。エルフの未来はお前に掛かってるからな……」


「何適当なこと言ってんのよ」


 大空を見上げて感慨に耽っているグレインの脇腹に肘を突き刺すナタリア。


「いや、なんかそれっぽいこと言った方が場の空気が引き締まるかと思って」


「あんたってホント適当に生きてるわねー……」


 そう呟き、トーラスがポップに固定されている時から何度目かの溜息を吐くナタリア。

 そんなグレインとナタリアに、楽しそうな笑顔で話し掛けるセシル。


「それにしても……ポップは速いですわね! あっという間に見えなくなりましたわ」


「エルフの目にも映らないってことは、一瞬で相当遠くまで行ったんだな」


「あとは戻ってきたときにトーラスさまが肉塊に変わり果てていないかが心配ですわね」


「怖いよ」


「……私殺してないから……肉塊の蘇生は無理……。肉塊は兄様じゃないし……」


「ま、まぁ、ポップもちゃんと様子を見ながら手加減してくれるはずですわ」


「待てよ? ……この速さなら、もしトーラスが肉塊になってても、魂が失われる前に戻って来るかも知れないぞ? それなら戻ってきた瞬間に回復すれば……」


「「間に合うかも……」」


「……まーた適当なこと言ってるし……」


 グレインの言葉に目を輝かせる二人の少女とは対照的に、完全に呆れ顔のナタリア。


「も、戻ってきましたわ!」


 セシルがそう叫びながら、両手で無数の光球を生み出す。

 その隣でリリーも短剣を抜き放ち、構える。


 次の瞬間、小さな旋風とともに、出発時とさほど変わらないロープぐるぐる巻きのトーラスを背に乗せたポップが出現する。


「『ヒール!』『ヒールヒールヒール!』」

「兄様……覚悟! 覚悟覚悟覚悟ォ!」


 セシルが無数の光球を彼に叩き付けると同時に、リリーが彼の身体をめった刺しにする。

 バナンザの中央広場で突然の惨殺事件(死んでいない)が発生した瞬間であった。



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