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第317話 まずは死んで

「あれ、馬車が……ない」


 森の入口まで来たところで、リリーがそう呟く。

 そして傍らの茂みへと入っていく。


「兄様の転移魔法も……ない」


 肩を落とすリリーの手をセシルが引く。


「リリーちゃん、呼ばれてますわよ」


「……えっ?」


 リリーはセシルに手を引かれるまま、再び馬車の停まっていた場所へと連れられる。


「ほら、あちらで……トーラスさまがリリーちゃんのことを探してらっしゃいますわよ」


「……えっ……どこ?」


 セシルが森の木々の間を指差すが、リリーには何も見えない。


「……顔を合わせるのはちょっとまだ気まずいのですが……。こちらの存在を教えるしかありませんわね。……『ヒール』ッッッ!」


 セシルが指差した方に向けて手を翳すと、そこから激しい風を纏った光球が放出される。

 その光球は木々を次々と薙ぎ倒しながら、その先に居るであろうトーラスへと迫る。


「リリー! どこにいるんだい!」

「おーい、リリー! ……まさかあいつらの馬車と一緒にどっか連れてかれたんじゃないのか? ……ん? トーラス、後ろッ!」


 彼らは、突如背後から破壊を齎す光球が迫っていることに気が付くが、躱す間もなくその光球はトーラスに命中する。


「ウグアァァァァ!!」


 そしてトーラスの身体は血飛沫とともに粉々に砕け散り──再生する。


「こ、これは……セシルのヒールだ! ……あっちだな。行くぞ、トーラス!」


 グレインは光球が飛来した方向にぱっかりと開いたトンネルを、次々と再生する木々を掻き分けながら真っ直ぐ辿る。


「おぉっ! セシル! それにリリー! 一緒だったのか! ……それにミュルサリーナとダイアン……? どういう組み合わせなんだ?」


「ま、待ってよグレイン……。再生したばかりの手足は力が入らなくて……」


「と、トーラス……さま──」


「兄様!」


 グレインよりだいぶ遅れて茂みから姿を表したトーラスに戸惑うセシル。

 しかし、トーラスが彼女に気付く前に、リリーが笑顔で駆け寄る。

 次の瞬間、リリーは笑顔のまま、広げた両手──に握られたナイフで、トーラスの腹部をズタズタに裂き、最後に彼の首筋に、両側から挟み込むようにナイフを突き刺す。


「……馬鹿兄様。あの世でセシルちゃんの気持ちを少しは考えて」


「あの世とか言いつつ、またこっちに呼び戻すんだろう? それにしても……こういう惨殺現場は何度見ても慣れないな」


「ミュ、ミュルサリーナさん……。これはまたリリーさんの秘技が?」


 ダイアンが恐る恐るミュルサリーナに尋ねる。


「えぇ、そうなるわねぇ。あら? ……今の発言って、リリーちゃんの秘技について喋った事になるかしらぁ? ……ふぅん……身体が裂けないところを見ると、セーフ扱いみたいねぇ」


「リリーさんと一緒にいると、生きた心地がしませんね……」


「まぁそのうち慣れるわよ。ヒーラーギルドでは毎日誰かしら死んでるだろうから」


 ミュルサリーナの発言に絶句するダイアン。


「あ、そうそうグレインさん、こちらヒーラーギルドに加入を希望している勇者のダイアン君よぉ」


「は?」


「なんと、加入希望者でしたの!」


「えっ」


 ミュルサリーナの突然の発表にグレイン、セシル、ダイアンまでもが驚く。


「……あっ……まずは死んで」


 そう言いながら、トーラスの死体に飛び付くリリー。


「ちょ、ちょっと待──」


 トーラスの首から抜いた二本のナイフで、見事に首を切られ、ダイアンの言葉は途切れる。



********************


「『蘇生治癒(リバイブ・ヒール)』」


「って! ちょっと待ってくださ……あれ?」


 直前までリリーを見ていた視界が、今は生い茂る木々の葉と、その隙間を埋めるような真っ青な空を見上げていた。

 その違和感にダイアンは戸惑う。


「坊や、一度死んだ感想はどうだったかしらぁ?」


 呆然としていたダイアンの顔を覗き込むミュルサリーナ。


「えっ、僕、死んだのです?」


 ミュルサリーナは笑顔のまま、無言で頷く。


「『洗礼』を受けたから、これで坊やもヒーラーギルドの一員ねぇ」


「これが……死……ですか……。そして洗礼……」


「ミュルサリーナさん、そんな儀式めいたものは無いですから……。勝手に設定付けないで下さい……。ダイアンさんも……信じないで……」


 顔を赤らめ、戸惑いながらそう否定するリリー。


「そうですわ、ミュルサリーナ。リリーちゃんはただ単に殺したかったから殺しただけですわ」


「いや、それもたぶん違う……けど……」


 セシルの言葉で、さらに顔を赤くするリリー。


「最近思うんだが、リリーが人を殺すことに対する抵抗がなくなってきたような気がするな」


「いえ、そういうのじゃ……。……今のはただのヒール……だったんです。……ダイアンさんの膝から血が出ていたので……。……おそらく、草の葉で切ったのかと」


「「「たったそれだけで殺されるの!?」」」


「確かに……膝の傷は治っていますね。リリーさん、僕を殺してくれてありがとうございます」


 そう言ってぺこりと頭を下げるダイアンなのであった。



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