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第316話 意識操作

「しばらくはこの森に居ると良いわぁ。何かあったら地下室へ隠れて頂戴ねぇ。一週間くらいこの森で生活すれば、追手の心配はいらなくなる筈よぉ」


 軽く手を振りながらそう言ったミュルサリーナに、エルフの生存者達は深々と頭を下げた。

 その中にはアルテの姿もあった。


「さてと、セシル、リリーちゃん、そろそろ行きましょうかぁ……あなたは、どうするのかしらぁ?」


 まだ脚の癒えない聖獣ポップに寄り添うセシルとリリー。

 そんな彼女達と一緒に歩き出そうとしたミュルサリーナは、思い出したようにダイアンの顔を見る。


「ぼ、僕は……僕も、一緒に、行きます。彼らの──もしかしたら皇帝陛下も含めて、こんな非道な行いをした者達を野放しにしておくことはできません!」


「あらそう。じゃあ合流したあとはこちらの指示に従ってもらうわよぉ」


「は、はい、よろしくお願いします」


「……合流……ですの?」


 ミュルサリーナの言葉に引っ掛かったセシルが口を挟む。


「えぇ、まずはグレインさんとトーラス君に合流するに決まっているじゃなぁい」


「ひえっ! と、トーラスさまも……ですか……」


「あらあら、喧嘩でもしたのかしらぁ?」


「んぐっ! そ、それは……その……」


「鈍感な馬鹿兄様が悪い。セシルちゃんは悪くないの」


「あらあら、若いっていいわねぇ。とりあえずその兄様には何か罰が必要かしらねぇ」


「私が……殺します」


「そう? それなら大丈夫だわぁ。もう森を出るから、私の魔力で何でも自由にできるのもここまでなのよぉ。結界の外ではさっきみたいな呪いとか意識操作ってものすごく大変なんだからぁ」


「「「……意識操作?」」」


 何気ないミュルサリーナの呟きに、セシル達は一斉に首を傾げる。


「意識を……操作……していたのです?」


 セシルの言葉で、ミュルサリーナは自分の失言に気付かされる。


「あらぁ? 私そんなこと言ったかしらぁ?」


 無言の三人の視線がミュルサリーナに突き刺さる。


「んもう……。えぇ、操作してたわよぉ。──あの森に、結界に立ち入った、ほとんど全員の意識をね。あ、あなた達は例外よぉ? 私が操ったのはあの虐殺者たちと、エルフの生存者、それにアルテ君だっけ? あなたの義弟くん、それぐらいのものよぉ」


「「「ものすごい人数」」」


「虐殺者たちは、弱体化の呪いと合わせて、正常な判断力を喪失させたわねぇ。本来なら、セシルがリリーちゃんに殺された後、彼らはリリーちゃんも殺していたはずよぉ。でも、『一刻も早く森を出たい』『リリーちゃんは生きた屍だと思い込ませる』という操作を加えて、彼らは撤退していったわぁ。……まぁ、あの男だけは意識操作に抗っていたけれどねぇ」


 三人は息を呑みながら、淡々と話すミュルサリーナの顔を覗き込む。


「エルフの生存者達は操るつもりはなかったんだけど、セシルを見たときに目の色が変わったでしょう?」


「──それは、わたくしが──」


 ミュルサリーナは首を左右に振る。


「セシルとエルフの里の間にどんな理由があったとしても、あれは差別であり侮蔑であり、自分達と相容れないものを排斥しようとする、底の知れない嫌悪感だったわ。……かつて、私と師匠がエルフ達から飽きるほど浴びてきた感情」


 ミュルサリーナはセシルの顔に笑いかける。


「だから我慢できなくて、その感情を消しちゃったのよぉ。うふふっ。エルフ達が魔女の結界の中に入っている事なんてほとんどなかったからねぇ。大チャンスだったわぁ」


「じゃ、じゃあ、わたくしとアルテが頭を下げたときにみんなが受け入れてくれたのは……」


「──確かに『意識操作』の結果もあるわねぇ。ごめんなさい。そのお詫びという訳じゃないんだけど、彼らがあの森で一週間ほど過ごせば、侵入者から姿が見えないようになる筈よぉ。だからもう故郷を失う心配は要らないわぁ。……それに、彼らは私達が止める……そうでしょ? 勇者さん」


「はいっ! 勿論です! 僕たちが新たな勇者パーティとして、虐殺者達に正義の鉄槌を下すのです!」


 ダイアンがそう返事をして、自らの拳で胸を叩く。


「あ、『リリーちゃんの秘技を喋ったら身体が真っ二つに割れる呪い』は解いてないから、あんまり強く叩くと呪いの発動前に割れちゃうわよぉ?」


「……え、それ、本当だったんですか……」


「さぁ? どうかしらねぇ……うふふふふっ。あと、私達は勇者パーティじゃ無いわぁ。所属はあくまでヒーラーギルドよぉ。ね、セシル?」


「え、えぇ、そうですわね……。……さっきの意識操作の話、強引に誤魔化された気がしますわ……」


「さぁみんな、馬車のところまで歩くわよぉ。リリーちゃん、案内お願いねぇ?」


 若干の不満を漏らすセシルとともに、三人と一頭は笑いながら歩いていくのであった。



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