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第310話 随分なご挨拶ねぇ

「人影って、もしかしてバルガさん達……いや、バルガ達……いや、あの悪党共……いや、もはやゴミクズが先回りしてるんじゃないかな?」


「「生命を否定した」」


「コホン……いえ、さっきとは服装が違いましたわ」


「姉ちゃんの言うとおり、背格好も全然別人だったし、それに一人だったよ」


「そうなんだ……。とりあえず行ってみましょう。……おっと、ポップの脚から血が……」


 ポップの足にはアルテが自らの衣服の袖を引きちぎって作った即席の包帯を巻いてあるが、それでも血を止めることはできず、たまに滴り落ちる血には、ダイアンが土をかぶせて痕跡を消しながら移動していた。


「聖獣様の脚って、ほんとに姉ちゃんのヒールで治せないのか?」


 必死に砂を掛けるダイアンの姿を見ながら、アルテがそう呟く。


「……分かりませんの。わたくしのヒールでポップに何が起こるか……。ただ、今は一刻も早く逃げるのが重要ですわ。もしヒールを掛けたポップが動けない状態になってしまったら、それこそ一巻の終わりですわ」


「その時は聖獣様を見捨てて……なんて出来ないよな」


 そう言ったアルテの方を睨みつけながら、セシルは首を縦に振る。


「ポップは友達ですが……最早わたくしの半身ぐらいには思えるのですわ。アルテ、あなただって上半身だけで逃げたくはないでしょう?」


 セシルにそう言われたアルテは大きく身震いする。


「さっきまで、ホントにそういう目に遭いそうだったからなぁ……。ほんと姉ちゃんには感謝しかないよ」


「わたくし、まだあなたを許したわけではありませんわよ」


 その言葉にアルテは思うところがあったのか、苦笑の表情が凍りついたように動かなくなる。


「……はい……。許してもらえるとは思っていません」


 そう言うと、項垂れて口数も少なくなるアルテ。

 そうこうしているうちに、三人と一匹はダイアンの目でも遺構が確認できる距離まで到達する。


「これは……遺跡というより……廃墟……? 取り壊された家のように見えるね」


「でも、とても古いもののようですわ。以前来たときは書物の欠片のようなものもありましたが、よく分からない文字でしたので、いつのものかは分かりませんわ」


「しかし、この魔力……」


 遺構に近付くに連れて、アルテの顔色が悪くなる。


「アルテ、どうしたのです?」


「なんか魔力の所為だと思うんだけど、体調が……。あの遺構……っていうか瓦礫の山からすげぇ魔力出てんだよ」


「そうだね……。たぶん、ここの森が黒いのも、この魔力が原因じゃないかな。僕は具合悪くはないけど、圧みたいなものは感じるかな。でも、エルフ族は五感が優れてるから、僕よりも深刻な状態に……あれ?」


 ダイアンはそこまで言ったところで、隣でけろっとした様子で歩を進めるセシルを見て首を傾げる。


「あら? そうですの? わたくしは何も感じませんわよ?」


「姉ちゃんは魔法が使えないから鈍いんじゃない? あああ、気持ち悪い……」


 アルテの言葉にセシルは頬を膨らます。


「アルテ……そんなに具合悪いなら、わたくしがヒールを掛けて差し上げますわよ」


 セシルが右手に光球を浮かべながらアルテを睨むが、ダイアンが慌てて止めに入る。


「セシルさん、だめだよ! ここでアルテ君の身体が爆発したら、さすがに土が足りない」


「まず身体が爆発するところを問題にしてくれよ……」


「セシルさんのヒールは、そういう魔法なんだからしょうがないですよ。そこは黙って、弾け飛ぶ自分の身体を見てるしかないんじゃないかな」


「……姉ちゃんには回復されたくないぜ……。そうだ、あの諸悪の根源をぶっ壊せばいいんだ!」


 そう言うが早いか、アルテが目の前に両手を翳すと、彼の前の地面が抉れて大きな岩が出現する。


「吹き飛べ!」


 アルテの掛け声とともに、岩は猛烈な速度で遺構へと飛来し、轟音とともに弾け飛ぶ。


「ちょっとアルテ! やりすぎですわ! さっきまで誰かが居たじゃない!」


「あ、そういやそうだった。完全に忘れてた……。こりゃ吹き飛んじまっ──」


「「「……え?」」」


 アルテを含む三人は、砂煙の中から現れた、何一つ形を変えていない遺構を見て口をぽかんと開ける。


「あーあぁ、何なのよもぅ……。ねぇそこの坊や、いきなり魔法をぶつけてくるなんて、随分なご挨拶ねぇ。エルフ族の礼儀作法も、長い歴史を経て地に落ちたものだわぁ」


 砂煙の中から、気怠い感じの声が飛んでくる。

 身構えるアルテとダイアンの傍らで、セシルだけは微笑みながら目に涙を浮かべていた。

 そして、セシルは一歩進み出て、砂煙の中の声の主に頭を下げる。


「愚弟の非礼をお詫びしますわ。けれどわたくし達、今はそこまで考えられる余裕がありませんでしたの。追手が迫っていて、このままだと皆殺されてしまうかも知れませんわ。……だから、だから、この非礼の償いは──」


「償いなんて、そんなものいらないわよぉ」


 セシルの言葉に割り込んで来る聞き慣れた気怠い声。

 彼女は堪えきれずに大粒の涙を零す。


「だって私達……仲間じゃない」


「ありがとう、ミュルサリーナ」


 砂煙の中から現れたミュルサリーナは、気怠げな声とは裏腹に、セシルに駆け寄って優しく抱き締めたのであった。


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