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第031話 変なことしたら……殺す

 グレイン達は、辺りに散乱した荷物を一箇所に拾い集めながら、今後の相談をしている。


「さて、借りた馬車をたった一時間で粉々にしちゃった訳だが、これからどうしようか。……これは馬車の車輪か。荷物だか馬車の破片だか分からないな」


「まずは王都に行って依頼を完遂するべきだと思いますわ。……あぁ、水樽は全部割れてしまってますわね」


「馬車の弁償はお姉ちゃんに相談してみましょう。……地面に転がってる干し肉は、土を払えば食べられますよね」


「最近、何でもかんでもナタリアに頼り過ぎな気がするんだが。……これは……これも馬車の車輪か」


「サブマスターだと分かったので、そこまで遠慮しなくてもいいんじゃないでしょうか。……おおっ、大事な水晶玉は割れてませんでしたっ!」


「ハルナ、それナタリアに集ってるようにしか聞こえないぞ。……これは馬車の床板か」


「そこでグレインさんがナタリアさんと結婚すれば万事解決ではありませんの? ……セシルさん、レイピアがありましたわ!」


「まさか……みんなそのために俺とナタリアをくっつけようとしてるのか? これはロープ、いや馬車の手綱か」


「いえ、そういう訳じゃないんですけど、グレインさまとお姉ちゃんは本当にお似合いですし、ちょうど都合がいいなぁと思いまして。……お財布ありましたっ!口を固く縛ってたおかげで中身は無事のようです」


「お似合いって言われてもな……まったく。ナタリアの方だって、俺みたいなジョブ無しは嫌だろうに。……あー、また床板か!」


「お姉ちゃんはすごく優しいから、たとえジョブ無しでも大丈夫だと思いますよ? ……これはグレインさまの剣ですね」


「それに、俺がナタリアに世話になりっぱなしってのもどうにかしたいんだ。俺があいつの足枷になるのは耐えられないからな。……まーた車輪だ」


「……グレインさま、さっきから馬車の破片しか見つけていないんじゃないですか?」


 ハルナが荷物を拾う手を止めてグレインに問いかける。


「いや、たまたま俺の前に落ちてるのが馬車の部品なだけなんだぞ? ハルナ、そんな風に言うと俺が全く役に立ってないみたいじゃないか」


 手ぶらのまま肩を竦めるグレイン。


「いえ、そういう訳ではないんですけど……たまには有用なものも見つけて欲しいなぁと思いまして。はい、剣をどうぞ」


 ハルナはグレインに拾った剣を手渡す。


「やっぱり役に立ってないって思ってるんじゃないか」


「お二人とも、荷物はほぼ全て拾い集め終わったようですから、これからどうするかを考えた方が有益なのではなくて? ぐずぐずしているとこの森の中で日が暮れますわよ?」


 二人の元へセシルも歩み寄る。


「あぁ、確かにそうだな。ありがとう、セシル。とりあえず、馬車の修理はもう無理だから、破片については申し訳ないがこのまま置いていこう。……それにしても、ここはどこなんだろうな」


「さっき上空から見ましたが、あちらの方角に少し進めば森を抜けられますわ。そして、すぐそばに街が見えましたわ」


 セシルは指で方角を指し示す。


「そうか! よし、みんなで手分けして荷物を持って森を抜け出そう」


「荷物……持ち切れますかね」


「ハルナ、まずはこれを、こう持ってくれ」


 グレインはそう言って大きめに割れた馬車の床板をハルナに渡す。


「え? は、はい。分かりました」


 ハルナは手渡された床板を、グレインに示された通り、両手で地面と平行に持つ。

 グレインは意地悪そうに口元を歪めている。


「よしハルナ、いいぞ。セシル、ここに荷物全部乗せよう」


「「えぇぇ……」」


「グレインさん、それではハルナさんが、荷物全部に加えて床板も持たないといけなくなるのでは?」


「さっき人を役立たず呼ばわりした仕返しだ」


「「このリーダー、大人気ないわー」」


 二人は半開きの目でグレインを睨む。


「いや、今のはただの冗談だ……と言っても遅いんだろうな。……ふざけてごめんなさい」


 二人は無言で大きく頷く。


「その床板を手綱で縛り付けて……よし、出来たぞ」


「これは……ソリですの?」


「あぁ、ここに荷物を置いて、ポップに引いてもらおう。俺達は徒歩になるがしょうがない。日暮れまでに、森を抜けたところの街まで辿り着くのを目標にしよう」


「分かりましたわ。最初からそう言っていれば良いものを……」


 こうして一同は森の出口付近まで、無言のまま進む。

 その空気に堪えきれなくなったのか、ハルナが一言だけ呟いた。


「グレインさまが大して面白くもない冗談なんて言うから微妙な空気になってるんですよね……」


「だからごめんってば! ……ハルナの言葉で傷ついたぞ? あぁ、どうせ俺は面白くもない男ですよーだ」


 グレインは口を尖らせて目の前の石ころを全力で蹴飛ばす。

 蹴飛ばされた石は目前に迫っていた森の出口を抜けて飛んでいった。



 グレイン達が森の出口まで差し掛かると、そこには小さな草原が広がっていて、草の上に一人の青年が、額から血を流して倒れている。

 その青年の傍らには、一人の少女が寄り添って青年に声を掛けていた。


「兄様! 兄様しっかり!」


「どうしたんだ! 何があった?」


 グレインは慌てて少女に駆け寄ろうとする。


「貴方達……何者? もしや……貴方達が兄様を!」


 言うが早いか、青年の傍らにいた少女は、いつの間にか抜いたダガーを両手に持ち、グレイン達に向けて構えており、グレインは慌てて歩みを止める。


「待ってくれ、俺達は敵じゃない! ただの通りすがりの冒険者なんだ。何があったのか教えてくれないか? ……まずはうちのパーティにヒーラーがいるから、彼の治療をする方が先かな」


 グレインがそう言うと、目の前の少女はダガーを構えている手を下ろす。


「兄様に……変なことしたら……殺す」


 少女は依然として鋭い目付きでグレイン達を睨みつけている。


「ハルナ、治療を頼む。強化するぞ」


「はいっ、分かりました!」


 そう言ってハルナは懐から例の矢を取り出し、倒れている青年の元へと近付く。


「兄様に……止めを刺す気だな! ここは……通さない!」


「まぁ当然、そうなりますわよね……」


 グレインとハルナのやり取りを、一歩引いた位置で冷ややかな目で見ていたセシルが呟く。


「ハルナさんがやろうとしている事は、事情を知らなければ明らかに傷害行為ですもの。妹さん、あなたの判断は間違っていませんわ」


 セシルはハルナの目の前に立ち塞がる少女に優しく話し掛ける。


「「ごめんなさい、完全に感覚が麻痺してました」」


 平謝りするグレインとハルナであった。


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