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第003話 パーティを組んで

「ここは治療院の病室です。申し遅れましたが、私はハルナです。はじめまして、ですね。」


 ハルナと名乗る、グレインより幾分幼く見える女性はぺこりと頭を下げる。


「あ、失礼しました。俺はグレインと言います。なるほど……状況はなんとなく分かったんですが、はじめましてのハルナさんは何故ここに?」


 グレインは本当に失礼だと思いつつも、ハルナをじろじろと見ていた。彼女の服はうっすらと血で汚れていて、彼女自身も怪我をしているらしかった。


「あの日の朝、路地裏で倒れていたグレインさんを、最初に見つけたのが私なんです」


「そうだったのか……ありがとう。あのまま夜中まで放っておかれたら、俺は死んでいたかも知れない」


 グレインは頭を下げようとするが、痛みで全身がうまく動かせなかった。


「治癒師のお医者様のお話では、あのままだったらお昼までももたなかっただろう、と言う事でしたよ」


「そんなにか」


「そんなにです」


 グレインは、自分が今感じている身体の状態よりも事態が深刻だったことに違和感を感じていた。


「ハルナさん、俺がここに運ばれてからどれくらいの時間が経ってます?」


「ハルナ、で良いですよ。見た感じ私の方が年下でしょうし。グレインさんがここに運ばれてから、かれこれ三日は経っていますね」


「三日も!?」


 グレインは意識不明の状態が三日も続いていたのだったが、そこでふと一つの疑問が浮かび、思わずそれを口にする。


「ハルナ……は、ここにずっと居たのか?」


「はい」


「……何故、見ず知らずの俺に三日も付き添ってくれたんだ?」


 グレインが目覚めてからずっと笑顔だったハルナが、突如その表情を曇らせて俯き加減に呟く。


「他に……行くあてもなくて。居場所が無いんです、私」


「ごめん、なんか悪いこと聞いちゃったな」


「いえ、大丈夫です……これからどうするか、どうすればいいか分からなくて、ただぼんやりとここに居てそんな事を考えていましたから、今はここが私の居場所みたいになっています」


「これからどうするか、か……俺も同じだな」


「グレインさんはまずその怪我を治すところからですよ」


 ハルナはふふ、と再び笑顔に戻る。


「怪我が治ってもなぁ……。俺冒険者なんだけど、パーティをクビに、いや、あれは解雇というより追放されたんだ。そのときに受けた暴力で、今はこのザマさ」


 グレインの話を聞いていたハルナは、口元を両手で覆っていた。


「あ、あの! 私も冒険者なんですが、私もパーティをクビになりまして……それで居場所が……」


「なんだ、それじゃ俺と同じじゃないか。もしかしてその怪我は……?」


「はい、パーティに残りたいと食い下がった私にメンバーが暴力を振るいまして、装備品と有り金もほとんど持っていかれました」


「何から何まで同じじゃないか。クビにするときボコボコにするの、最近流行ってるのか?」


 二人は顔を見合わせて苦笑いする。


「それじゃあ二人とも行くあてなしか……あ、ここの治療費どうしよう……俺一文無しなんだが」


「私も持ち合わせがほとんど無いのでお貸しすることも出来ず……ギルドに申請して融資してもらいましょうか」


 グレインは苦笑いを浮かべる。


「貸してくれるかも知れないが……あれって──」


「返すために、いくつかの依頼でタダ働きが必要になりますね……」


 実は冒険者がギルドから融資を受けるというのは、最後の手段だった。

 ギルドの融資を受けると、本来、依頼を完遂した際の報酬の大半がその返済額にあてられるため、返済が終わるまではほとんどタダ働き状態になる。

 融資を踏み倒そうにも、冒険者ギルドは世界中にネットワークを持っているため、逃げ場は無いのである。


「だよなぁ。俺、実はジョブがないんだ。ろくに戦えないから、地道に薬草摘んで返すしかなさそうなんだが」


「薬草摘みでも返せると思いますよ! ……五年ぐらい摘めば」


 ここでグレインは、治療費がだいたいどれぐらいの額かを察する。


「えぇ……そんな額なのか……。俺の歳であと五年も棒に振ったら……二十八歳で完済かよ。それだけで冒険者引退じゃないか……」


 グレインは重い重いため息をつく。

 しかしハルナは、違うことに気が付いたようで、少し間の抜けた言葉を掛ける。


「グレインさん、私の二つ上なんですね。思ったより歳が離れていませんでした。……お顔がボッコボコで分からなかったからですかね」


「まぁ、こんな顔になる前も自慢出来る顔じゃなかったけどな」


 グレインは喋って頬を動かした時に、自らの顔が腫れ上がっていることに気が付いていたので、今の顔は相当酷いのだろうな、と呟く。


「あ、それでさっきの融資の話ですが、一旦ギルドから融資を受けて、元気になったら、ギルドよりももっと簡単に貸してくれるところありますから、そこで借りて別の町へ夜逃げするというのは……」


「冒険者引退の道から、指名手配の犯罪者に堕ちろと仰るか」


「それが嫌だと言うなら……やはりグレインさんは来る日も来る日も薬草を摘み続けて、果ては『薬草マスター』と呼ばれる日が」


「来ないよ! そんな未来嫌だからね!?」


「では、『薬草マスター』と『借金踏み倒し犯罪者』のどちらが良いです?」


 グレインの額にうっすらと青筋が浮かぶ。


「ハルナちゃーん、それわざと言ってんのかい?」


「いえ、考えてるんですけど、それぐらいしか思い付かないんですよぉ」


 ハルナは唇を尖らせて答える。


「ちなみに、ハルナはどうするつもりなんだ?」


「え?」


 唐突な質問に、ハルナはきょとんとしていた。


「えと……その、実はまだ何も決められてなくて」


 ハルナは手を胸元でもじもじと動かしている。


「冒険者は続けるつもりなのか?」


「そうですね……。今は出来れば冒険者を続けたいです」


「そうか。それならまずは冒険者ギルドへ行ってみるべきだと思うぞ。少なくとも俺の傍にいたって何もいい事はないしな。ギルドに行って、どこかいいパーティを見つければ、居場所もできて落ち着くだろう」


「なるほど……」


 ハルナはしばらく考えた後、ベッドに横たわっているグレインを静かに見つめる。


「私と……パーティを組んでいただけないでしょうか?」


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