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第293話 暗殺

「では、僕は迎えが来ますので一旦宿に戻ります。皆さん、ご案内いただきありがとうございました。とっても楽しかったです!」


 そろそろ夕陽も沈もうという頃に、バナンザの中央広場でそう言って宿屋へと歩き出すダイアン。

 それを見送るグレイン、ナタリア、ハルナ。

 ダイアンの姿が見えなくなった頃、ハルナがナタリアの左腕を掴む。

 同時にナタリアの右腕はグレインの首を絞め上げる。


「裏切り者め……どういう事ですか!」

「裏切り者! なんであんな事言ったのよ!」


 ハルナはナタリアに、ナタリアはグレインにそれぞれ鬼の形相で詰め寄る。


「待て待て、二人ともとりあえず落ち着けって! いいか? 勇者は何の為に俺たちを訪ねてきたんだ?」


「それは魔物討伐を成功させるためじゃないのよ」


 満足そうに頷くグレイン。


「そうだ。魔物討伐が上手くいけばどうなる?」


「そんなの、勇者を助けたあたし達ヒーラーギルドの名声が響き渡って一気に借金返済よ! ティアも帝国から融資してもらえるし」


「まぁそうなんだが……帝国からの融資の条件を一つ忘れてないか?」


 首を捻るナタリアの代わりにハルナが手を挙げる。


「あっ! 分かりました! 勇者様と皇帝陛下の娘さんが結婚するんですねっ!」


「そう、あいつはナタリアに近付く前に足枷が掛けられるんだ。皇帝陛下の愛娘を裏切ったなんて知れたらどんな怖ろしい目に遭うか……」


 そう言ったグレイン自身も含めて三人はごくりと息を呑む。


「そ、それなら良かったわ……。てっきりグレインがあたしの事を見放し……いえ、何でもないわ!」


 顔を真っ赤にして、言いかけた言葉を否定するナタリア。


「よっぽどのことが無い限りお前を見捨てないから安心しろよ」


 その言葉を聞いてグレインにジト目を向けるナタリア。


「ちょっと待ってよ。余程のことがあればあたしを見捨てるの……? そこは『たとえ死んでもお前を話すもんか!』って言って欲し……くはないわよ! 別に!」


 途中で赤面し、慌てて否定するナタリア。


「仮に、仮にだぞ? ダイアンがお前に近付いて、それが皇帝陛下にバレたとしよう。帝国兵の矛先が向くのは、張本人であるダイアンと──」


 グレインとハルナの視線を浴びたナタリアはみるみる顔色を悪くする。


「あ……あた……し……」


 無言で頷くグレインとハルナ。


「嫌ァァァァァァ! 嫌よォォォ! 何であたしの人生こんなに苦難まみれなのよ! サランギルドを追い出されて、返すのに何年かかるか分からない借金背負って、今度は帝国に命を狙われるの!? 一体どうなってんのよ!!」


「まぁ、そうならないように先手は打っておくから安心しろ。それに……これまでも何とかなってきただろ?」


「ア・ン・タねぇ! 何ともならなかったから、あたし達は借金背負って隣国にいるのよ!?」


 そう言ってナタリアは半泣きで拳を振り回し、グレインの身体を殴りつける。


「いて、イテテッ! 落ち着け! 落ち着けって! 別にヘルディム王国内に、サランの冒険者ギルドの隣にギルド本部を建ててもいいんだぞ!?」


「じゃあ今建ててるギルド本部はどうすんのよ! 移転するにしてもここの建設キャンセル料払う必要があるんだからね! また借金がぁぁぁぁ! 増えるぅぅぅぅ!」


「お姉ちゃん、落ち着きましょうっ! ね、まずは落ち着きましょうっ!」


 ナタリアを止めたのはハルナであった。

 彼女はナタリアの背後から彼女を羽交い締めにする。


「お姉ちゃんがグレインさまを裏切ったんじゃなくて、ほんとにギルドの事だけ……ううん、お金の事だけを考えてるって分かりましたっ! だから誤解してごめんなさいっ!」


「ハァ、ハァ……はぁ……ねぇ二人とも、あたしが帝国に狙われたらちゃんと守ってくれる?」


 息を整えたナタリアが、弱々しい声で問い掛ける。


「大丈夫だ、守るに決まってんだろ」


「でもさっき見捨てるって」


「あ、あんなのはただの冗談だよ! なぁハルナ……ハルナ?」


 難しい顔で俯いていたハルナが、突然拳を突き上げて叫ぶ。


「そうですっ! いい事を思い付きましたっ! 勇者様がお姉ちゃんに近付く前に、勇者様を暗殺しましょう!」


 広場で発せられた突然の爆弾発言に、周囲を行き交う人々はハルナを見ながらひそひそと言葉を交わす。

 『今バナンザに勇者様が来ている』という噂は既に巷に広がっていたため、この発言はより一層の注目を集めたのであった。


「ちょ、ちょっとハルナ! たとえ冗談でも変なことを言うのはやめなさい!」


 慌てて火消しを図るナタリア。


「そうだぞ! 暗殺っていうのは密かに殺るから暗殺って言うんだ! こんな大声で宣言しちゃったら、噂が本人の耳に入るだろ! 殺る前にターゲットが逃げたらどうするんだよ! 逃げないにしても絶対警戒するだろ!」


「す、すみません……そこまで頭が回りませんでした」


 ハルナはぺこりと頭を下げる。


「で、具体的にはどうするつもりなんだ!?」


「そうですねぇ……一番手っ取り早いのは今夜の会食の席ですかねぇ。毒殺とか、いかがでしょうかっ!」


「え? ちょ、ちょっと二人とも、何言ってるのよ! やめなさい!」


 さすがにここまで来ると往来の群衆も無視できず、自然と三人の周囲に人集りができる。


「毒殺か……ちょっとハイランドに頼んでみるか」


「そんなのダメに決まってんでしょうが!」


 そしてとうとう我慢できなくなったナタリアの拳が二人の頭を打ち、この騒動に終止符が打たれるのであった。


「がはぁッ!」

「痛いっ! お姉ちゃん……」


「二人ともバカ言ってないで、あたし達も招待されてるんだから会食に行くわよ」


「行きましょうっ! 暗殺現場に!」


「それをやめなさいっての!!」


 こうして三人は周囲の怪訝な視線を掻き消すように騒がしくハイランド邸に向かうのであった。


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