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第286話 お金のため

「アドニアスと戦ったとき以来の王城……なんか緊張するわね」


「今となっては跡地、だけどな。……そもそも、ヒーラーギルドの支援を受ける勇者達を、何でヘルディムで迎えることになってんだよ。バナンザまで来てもらえば良かったのに」


「そんな事、あたしに言われたって困るわよ」


 グレインとナタリアは、王城の一部であった石壁の断片が立ち並ぶ荒れ地に立っていた。


「すみません……。ヒーラーギルドの本部はローム公国の首都バナンザにあるのは承知しているのですが、勇者様御一行にはヘルディム城の現状を見ていただいた上で、皇帝陛下に対してお口添えをいただけないかと思いまして、わざわざこちらに来ていただくようにしたんです」


 申し訳無さそうな表情で二人の前に立つティア。


「なるほどな。情に訴えることで、借金の利息を減らせとか、そういう交渉を有利に進めようって魂胆か」


 グレインの言葉に、ティアは笑顔で頷く。


「えぇ、そうです。あわよくば返済不要にならないかと──」


「「なる訳無いだろ!」」


「うぐっ、そんな……。王城の再建築費とか、そんな大金返すアテがありませんよぉ……」


「「返す目処が立ってないのに借金するんじゃない!」」


 めそめそとティアは涙ぐむ。


「この女王、情緒不安定すぎる……」


 呆れるグレインの隣で、ナタリアが声を上げる。


「ねぇ、来たんじゃないかしら! ほら、あそこに見える馬車じゃない? ……ティア、いつまで泣いてんのよ! 今こそ王の威厳を見せなさい!!」


 そう言ってナタリアはティアの背中を平手で叩く。

 そのぴしゃりと甲高い音で、ティアも気合が入ったのか馬車に向かって歩き出す。

 彼女を認識したのか、御者が客車に振り返り声を掛ける素振り見せると、間もなく馬車は停まり、ぞろぞろと冒険者風の男女が馬車の後ろから降り立つ。


 先頭に最も長身で筋骨隆々だが顔も端正に整った男が、その右に鍔広のとんがり帽を被り、全身に漆黒のローブを纏った女、男の左隣には、上下とも袖裾の短い衣服で露出の多い女がこちらに歩いてくる。


「ねぇグレイン、あの先頭の人が勇者様よね? 思ったより格好いい男じゃない!?」


「まさに両手に花、って奴だな……。ナタリア、いったん落ち着け。俺達も行くぞ」


 グレインはきゃあきゃあと燥ぐナタリアを抑えつけるように肩を抱き、一緒に歩き出す。


「勇者様、お仲間の皆様もこのような廃墟へわざわざお越しいただきありがとうございます」


「皇帝陛下の勅命だからな。たとえ行き先が田舎だろうと荒れ地だろうと、致し方あるまい」


 頭を下げたままのティアにそう告げたのは先頭の男。


「……ここが件の戦闘で吹き飛んだヘルディム王城になります」


「……ここが王城跡地だと? 見たところ壊れた壁が立っているだけの荒地だが……。そうか、ヘルディム城には元々壁しかなかったのだな? 平和ボケした王国のクズ田舎者には、屋根付きの城などという大層なものが作れる訳がないしな」


 男の無礼な発言にも、ティアは頭を下げたまま微動だにしない。

 ただ、口元はぶつぶつと何かを呟いていた。

 心配になったグレインが彼女の顔を覗き込むと、その呟きも耳に入ってくる。


「お金のためお金のためお金のためお金のため……」


「リアル金の亡者だな……。まぁ、そうでも考えないと、こいつの発言は我慢できないよな……」


 グレインが危惧した通り、我慢できない者がもう一人。


「……ちょっとあんた! ……たとえ勇者様だろうと、何だろうと、言っていい事と悪いことがあるわよ!!」


 ナタリアはそう言うと、グレイン達が止める間もなく、男に平手打ちをする。

 男は蹌踉めきながらも体勢を立て直し、左頬を紅く染めてナタリアを睨み付ける。


「貴様……その無礼な態度は何だ! 私を勇者と知っての狼藉か!?」


「言葉はね! ときとして拳以上に人を傷付ける事だってあるのよ! 女王という立場上、貴方を殴る事のできないこの娘に代わって、あたしがあんたをぶちのめしてやるわ!」


「け、喧嘩は!」


 激昂するナタリアの怒声に被せるように、弱々しい声がする。


「喧嘩は……いけないと思います……と、よく言います……よね……きっと……たぶん……おそら……く……」


「はっ、申し訳ありません、ダイアン様!」


 男は後ろに振り返り、跪く。

 するとそこには、三人よりも背が低く、身体の線も細い青年が立っていた。


「ダイアン……って事は、このヒョロ男が勇者なのか?」


「『様』を付けろ! このドブ田舎者が!!」


 グレインの何気ない一言に、跪いたままの男が怒鳴り声を上げる。


「バルガさん、いいんです。先に失礼な事を言ったのは……こちらなので。いくら陛下に言われていても……ちょっと……やりすぎだった……かも知れない……気がしなくもない……ような……」


「言われて……? ひょっとして俺達を試したのか?」


 グレインの問いに、ダイアンは恐る恐る頷く。


「陛下からは、『見極めてこい』と言われていました。……帝国には、虚偽の理由を並べ立て、金の無心に訪れる周辺国家の使者が絶えませんので……。中には、使者を名乗りながらも国家と関わりのない者までいます。ましてや陛下は、ティグリス様と一切面識がありませんでしたので、国王を名乗られても信憑性に欠ける、と」


 グレインはティアに振り返る。


「お前、手に王の証を出す魔法使えたよな?」


「え、えぇ……。見せたんですけど、『そんなものいくらでも偽装できるのではないか?』と一蹴されまして……」


「「何のための魔法なんだよ」」


「と、ともかく……ティグリス様の仰っていることは真実と見極めました。先程のバルガの発言は撤回してお詫び致します。皆さまを試す為とは言え、少々いき過ぎた部分がありました。陛下には私から伝えておきますので、ご安心を」


 おどおどした様子でそう告げるダイアン。


「お前の様子を見てると大丈夫なのか不安になってくるな……」


「では、魔物討伐の支援をよろしくお願いします」


 そう言ってダイアンはぺこりと頭を下げたのであった。


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