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第264話 ワガママ言うなら留守番な

 夜闇に紛れ、建築中のヒーラーギルドの建屋へ一人、また一人と人影が忍び寄る。

 建築中の──とはいえ、未だ改築前の廃屋を取り壊しているところであるため、屋根は抜け落ち、辛うじて壁面が残っているだけの廃屋であるが、その朽ち果てた玄関を人影が次々と通り抜けていく。


「これで全員であるか?」


 廃屋の中で、セーゲミュットはグレインに問う。


「えーっと、……まぁ大体いるだろ。……いてっ!」


 適当に答えたグレインの頭を、背後から拳骨が襲う。


「このバカ! そんな適当でどうすんのよ! えーっと、グレインと魔女とセシル、変態兄妹にハルナ、それにあたしとサブリナ。全員いるわね」


 グレインの頭に拳を振り下ろしたナタリアは、手に持ったランタンを翳して集合したメンバーを確認する。


「ナタリアさん……私は変態じゃないですよ……」


 不満げな顔でリリーがそう漏らす。


「それにしても、ヒーラーギルド幹部全員集合だね。これ、王宮行きが奴らの罠で、みんな死んだらヒーラーギルドは解散かな?」


 いつもの軽い調子でトーラスがあまり笑えない冗談を飛ばす。


「大丈夫よ。その時の為にあんたを連れてきたんじゃない。もし罠だったら、命懸けであたし達をここに送り届けなさいよ!? あんたは死んでもいいわ」


 ナタリアがトーラスにランタンを向ける。


「その言い方、酷くない!? ……はぁ、まったく人使いが荒いなぁ……」


 揺らめく灯りに目を細めるトーラスは、ため息混じりにそう呟く。


「そもそも、ナタリアさんは何で行くのさ?」


「あたしは……サブリナが行きたいって言ったからよ。サブリナとグレインだけで一緒に行くなんてずるいじゃない。それに、もし国王と魔王を分離できたら、正気を取り戻したアドニアスに一刻も早くあたし達の帰国を認めてもらいたいのよ」


「今のアドニアスが正気だったら困るけどね……」


「あとは、ティアに玉座を返して王家の復興……よね、やっぱり」


 ナタリアは両の拳にぎゅっと力を込める。


「みんな、いいか。セーゲミュットだって一度は俺達の命を狙っていた男だ。最悪の場合は魔王軍との戦闘になる可能性だってある。その場合はセシル、ハルナ、リリーで一時的に攻撃を凌ぎつつ、トーラスの転移魔法で脱出するぞ」


 そう力説するグレインの肩にセーゲミュットの手が置かれる。


「その作戦……某が聞いていては意味がないのではないか? ……まぁ、一度敵対した事もある故信じて貰えぬかも知れぬが、某はそなた達に危害を加える気はない。ヘルディム王宮へのゲートも開けたままにしておく故、何かあればゲートを通ればここへ帰還可能である。では……ゲートを開くぞ……」


 そう言ってセーゲミュットが両手に魔力を集めると、サブリナが突然そわそわと落ち着かない様子を見せる。


「……何か……落ち着かないのじゃ。誰かに見られているような……」


「同じ魔族の魔力を間近に感じているだけじゃないのか? こんな機会、滅多に無いだろ?」


「そうか……それもそうじゃな」


 グレインとサブリナがそんな話をしている内に、セーゲミュットの前に黒光りする門が出現する。

 ランタンの頼りない灯りがぼんやりと照らす空間においても、その門ははっきりと浮き立つように黒い輝きを放っていた。


「では行くぞ」


 セーゲミュットはそう言うと門をくぐり、廃屋から姿を消す。


「よし、俺たちも行こう」


 グレインを先頭に、ぞろぞろと一同が門を通って姿を消していく。



 最後にトーラスが通って、静寂に包まれる廃屋。

 ややあって、そんな廃屋の床に散乱する、抜け落ちた屋根の廃材を踏みしめる音が響く。


「ねぇ、エリオ……ほ、本当に行くの……?」


「今更怖気づいたのかよ? じゃあミーシャはここで留守番ってことで」


「エリオの意地悪! こんなところに留守番してる方が怖いよ!」


「じゃあ、行こうぜ、王女さま! 国を取り返しに! 何かあっても、俺とミーシャがしっかり護衛するからよ!」


 少年の呼び掛けに、頷く二人。


「……じゃあ、ミーシャが先頭な。何か異変があったらすぐに戻ること!」


「えぇ!? こういうのはエリオが最初に行くべきじゃないの!?」


「ワガママ言うなら留守番な」


「やだ! 留守番やだ! 私も行くよ! 行くから置いてかないでぇ!」


「バレるから騒ぐなって! 静かに行けよ!」


 こうしてミーシャとティアがゲートへと姿を消していく。


「それで……何が目的なんですか? 一緒に行きますか?」


 エリオは廃屋の片隅に向かって話し掛ける。

 グレインの想定外の客人はエリオ達三人の他にもう一人、隠蔽魔法で姿こそ見えないが、彼女は最初から廃屋の中に立っていた。

 サブリナに気付かれそうになったときは少々肝を冷やしたが、何とか気付かれずに済んだ。

 これで、行ける。

 覚悟も、出来た。

 何もかも失った自分を救い出し、まるで本当の家族のように接してくれた二人への手紙も遺してきた。

 もう思い残すことは、無い。


「はぁ……やっぱりエリオ君にはバレてた? 本当はティアちゃんを引き止めるつもりだったんだけど、ウチが何を話しても信じてもらえないし、運命は変えられないかと思って」


「運命……? 何のことか分かんないけど、アウロラさんがみんなに内緒でついて行きたいって言うなら、俺は黙ってるぜ」


「そっか……ありがとうね。ウチ、アドニアスと因縁があるから、姿が見えるとまずいんだよー。内緒でお願いねー」


 こうしてエリオとアウロラはゲートを潜っていった。


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