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第257話 モンスターよりも怖いよ

 グレイン達が西の森とバナンザの街を行き来していた頃、ハイランドの屋敷に用意されたティアの部屋を一人の人物が訪ねていた。


「ねぇミーシャちゃん、エリオ君は何処にいるのかなー?」


「えっ? エリオなら、さっきトーラスさんがやってきて何処かへ連れて行っちゃったよ……? エリオに何か用ですか? アウロラさん」


 ミーシャは少しだけ険しい目つきを目の前の人物──アウロラに向ける。


「そっかー、それならまた今度ね。前に船で見つけた手帳を『視て』もらいたかっただけなんだー」


「あっ、古代魔族文字なら私も読めますよ?」


 アウロラは静かに首を振りながら、ミーシャの頭を撫でる。


「お姉さんはね、エリオ君に見てもらいたかったんだよー。また来るから、エリオ君に伝えておいてくれるかなー? いい子いい子」


「こ、子供扱いしないで下さいっ!」


 顔を赤くしてむくれるミーシャ。


「アウロラ……さん?」


 廊下からティアが部屋に戻ってくる。


「やっほー。護衛対象が部屋から出歩いてていいのー?」


「大丈夫ですよ。お手洗いに行っただけですし、この屋敷の中は安全ですから。それよりもアウロラさん、貴女は戦わないのですか!? ……ハイランド様から、この街が危険な状態だと伺いました。もし市街地にモンスターがなだれ込むような事になれば、直ちに屋敷を捨てて逃げるようにと。貴女はサランの冒険者ギルドマスターだったのでしょう? 命懸けで街を守っている兵士の方々の力になっていただけないでしょうか!? どうか、お願いします!」


 最初は咎めるような口調だったティアも、最後は頭を下げんばかりにアウロラに助力を願い出ていた。

 外から聞こえてくる怒号、悲鳴、爆発音、様々な音が彼女の心を不安に苛んでいたのだった。


「じいやとレンさんは戦場に置いてきたから大丈夫。ウチはあの二人の事を信じてる。二人がいればこの街は安泰だよ? 窓の外を見てごらんよー」


 窓の外をアウロラが指差した瞬間、空を埋め尽くさんばかりの巨大な火球が地上へと降り注ぐ。


「「「えっ」」」


 直後、激しい揺れと轟音に襲われ、思わずベッドへ飛び込んで布団をかぶるティア。

 慌てて窓を開けるアウロラは、高らかに笑う老人の声を聞く。


「カッカッカッ!! どうじゃ小娘! 儂の大魔法はすごいじゃろう!?」


 すると、それに呼応するかの様に空気中を漂う魔力濃度が急上昇する。


「私だって……私だってェェェェェェェ!!」


 一人の女の咆哮と同時に、巨大な隕石が引き寄せられるように天からゆっくりと接近する。


「むぅ……ここまでやりよるか! サランに落とした石の数百倍はある大きさ……。この才能、恐るべきものじゃな」


 そして隕石が地上へと激突し、バナンザの街の至る所で民家の窓ガラスが衝撃に耐えきれずに砕け散る。


「ほうほう、こりゃすごい! カッカッカッ!」


「あのクソジジイ、何やってんのっ……!」


 アウロラは思わず口汚い独り言を呟きながらミゴールの方を見る。

 彼は西門より北側の城壁の上で高笑いをしており、隣には今の隕石を落としたと思われるラミアが肩で息をしながら、ダラスに支えられて何とか立っている状態であった。


「良し良し、次は儂の番じゃな……」


 そう言って、再び何やらと詠唱を始めるミゴール。


「……ねぇ、アウロラさん……。あの二人だけでこの街が壊れちゃいそうだよ? モンスターよりも怖いよ」


 モンスターは跡形も残さず、それどころか地面を大きく抉った二人の魔法を見て、モンスター以上に怯えるミーシャ。


「はぁ……。そうだね……ウチが止めてくるよ……」


 そう言って窓から外へと飛び出すアウロラ。


「その両の眼で然と見よ! 地を裂き大気を震わせ、地の底から溢れ出す地獄の火炎──」


「やめなさいっ!」


 アウロラの手刀がミゴールの頭頂部に炸裂する。


「あだっ! いたたたた……お、お嬢ではないか! 何故儂の魔法を邪魔するんじゃ」


 顔を顰めながら光る頭頂部を擦るミゴール。

 アウロラに叩かれた部分が真っ赤に腫れているようだった。


「お嬢、老人はもっと大切に労らんとイカンですぞ」


「二人とも……何やってたのかウチに説明してくれる?」


 アウロラに睨まれて、全身をびくっと震わせるラミア。

 彼女の背を支える手をそっと上下に動かすダラス。


「俺から全部話そう」


 ダラスの説明はこうだった。

 最初は魔法隊でモンスターに魔法を撃ち込み各個撃破していたが、そのうち魔力が尽きてリタイアする者が続出、最終的にラミアとミゴールだけが残った。

 人数が減った魔法隊では、一発の魔法で複数のモンスターを倒さないと回らなくなってきた。

 そんな状況下で、どちらともなく『一発の魔法でどれだけ多くのモンスターを倒せるか』という小競り合いが勃発。

 それがエスカレートして、最終的には一発の威力、範囲を極限まで拡げて、どれほど大規模な魔法が撃てるか、という話になっていたと言うことであった。


「いやはやお嬢、こんなところでこれほどの才能の持ち主に会えるとは思わなんだ。長生きはしてみるもんじゃな。この小娘を弟子にする! 儂は決めたのじゃ

!」


「そっかー。せっかく弟子が決まったところ残念だけど、ウチが今すぐ人生終わらせてあげるよー」


「ヒェッ!? な、何を言っとるんじゃ!?」


「何をやってるのか聞きたいのはこっちだよー? じいや、後ろ見てごらんよ」


 城壁から西のモンスター側をずっと見ていたミゴールは、そこでようやく何かに気がついて恐る恐る後ろを振り返る。

 そこでミゴールが見たものは、先程まで歩いていたはずの、きちんと整った路地や街並みが、瓦礫の山へと変貌を遂げていた姿であった。


「お、あんなところにエリオ君発見! それじゃあウチは行くけど、ラミアと師弟二人でちゃんと弁償するんだよー? 逃げたら……ウチが承知しないからね」


 真っ青な顔を上下に振るラミアとミゴールなのであった。



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