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第255話 怪力魔女

「もうすぐ日が昇りそうだけど、セーゲミュットとの約束はどうするんだ?」


 ハイランドとセーゲミュットの一連のやり取りを西門の下で見ていたグレインは、隣で一緒に見ていたミュルサリーナに尋ねる。


「この戦いが何時に終わっても、協力するわよぉ。彼もあそこまで必死なんだもの、私も約束を守らなきゃねぇ。……そういえば、ずっと気になってたんだけどぉ……」


 そう言ってミュルサリーナは後ろを振り返る。

 バナンザの西門から真っ直ぐ東を見ると、ナタリア達ヒーラーギルドが負傷者を治療している中央広場がある。

 その中央広場の中心で、大きな血溜まりの中に横たわる一人の青年と、その傍らに座り込み、寝顔を撫でている少女。

 二人の姿を彼女は見つめていた。


「あぁ、トーラスか? セシルのヒールで傷は治ったし、そのうち目が醒めるだろ。セシルもさっきからずっとああやってるけど……あんな奴のどこがいいんだろうなぁ」


「恋は盲目ってよく言うじゃなぁい。人はね、恋に落ちちゃうとその人の欠点なんか全く気にならなくなっちゃうのよぉ」


「そういうもんかねぇ」


「そういうもんよぉ」


 そんな事を談笑している時に、広場からサブリナが小走りでやって来る。


「あらあらぁ、噂をすればフィアンセ二号が来たわよぉ」


「その呼び方はやめてくれ」


 そうしてサブリナが息を切らした状態でグレインよ呼ぶ。


「ダーリーン! 第一夫人がお呼びなのじゃ! 『早くこっち来て治療を手伝うか、変態を起こして手伝わせなさいよっ!』と言うことなのじゃ」


「あらぁ〜、フィアンセ一号からの呼び出しを二号が──」


「だから一号二号をやめろっての!」


 グレインはミュルサリーナの口を両手で塞ごうとするも、ミュルサリーナの両手に見事に阻まれる。

 なおもグレインは抵抗しようとするが、ミュルサリーナの手を振り解くことができない。


「ぐむむ……何だか二人がイチャイチャしてるように見えるのじゃ……。妾も! 妾も混ぜるのじゃ!」


 そう言って二人に飛びかかるサブリナ。


「サブリナ待て、話がややこしくなる! ……しかし……ミュルサリーナって割と力があるんだな」


「あらぁ、女子に向かってその言い方はショックだわぁ」


 そう言ってミュルサリーナはグレインの腕を軽々と捻り上げる。


「あたっ! いててて! 離せよ! 怪力魔女!」


「……じゃあ、腕力の他にもいただこうかしら」


 ミュルサリーナがそう言うと、グレインの両足はがくがくと震え出す。


「かっ、身体が……重い……」


 そしてグレインは、ある考えに思い至る。


「もしかして……お前の力が強いんじゃなくて……俺の力……」


 ミュルサリーナは笑顔で頷く。


「えぇ、そうよぉ。貴方ってば、呪いを掛けやすいのよぉ。両腕と両足の力を一時的に奪ったわぁ」


「なっ、何と! お主、何ということをするのじゃ!」


「私はただ、フィアンセ一号さんの望みを叶えてあげただけよぉ?」


 そう言ってミュルサリーナが指差す先、バナンザの中央広場では一帯の地面に文字のような文様が浮かび上がり、そこにいたヒーラーや傷ついた兵士達は、皆戸惑いの表情を見せている。


「グレイン、あなたの力を借りて、広場全体に治癒効果の呪いをかけたわぁ。あなたの魔力、常人の非じゃないほど膨大だったから有効活用させてもらっちゃった」


「ま……魔力……? 俺は全く魔法が使えないんだぞ!?」


「……そう、気がついていないだけなのねぇ……。あ、ちなみに手足の力はついでようなものねぇ。貴方が私を襲おうとするから、致し方なくやった事よぉ?」


「ついでで力を奪うなよ!」


 口調はいつものグレインであったが、彼は自分の足で自重を支えられなくなり、その場に膝をつく。


「と、とりあえずあの文様は敵襲ではなく、治癒魔法のようなもので、広場にいれば傷が癒えるのじゃな!? 騒ぎにならないうちに伝えてくるのじゃ!」


「えぇ、それが良いわねぇ。もう騒ぎになりかけてるみたいよぉ。急いでちょうだぁい」


 ミュルサリーナにそう言われて広場へ向けて走り去るサブリナ。

 サブリナの後ろ姿が小さくなったたところで、ミュルサリーナはその場に膝をつくグレインの隣に座る。


「ねぇ、彼女は……どうするつもりなのかしらねぇ」


「彼女ってサブリナの事か?」


 頷くミュルサリーナ。


「もし私が魔王の解呪に失敗したとして、その後の魔王はどうするかしらねぇ。今はヘルディム王国の国王みたいなことをやっているけど、もしかしたらこの大陸の覇権を握ろうとするかも知れないわぁ。あなた達、ただでさえ彼に国を追われてここへ来た身なんでしょう? そうすると、魔王は私達と敵対する可能性があるわぁ」


「そうか、その時サブリナは……」


「えぇ、そうよぉ。彼女が私達と共にいれば、同族同士で争うことになるわぁ。種族を取るか、愛する人を取るか……なかなか難しいシチュエーションだわぁ」


「いや、そんなに難しく考える必要は無いな」


 さらっとそう答えるグレインに面食らうミュルサリーナ。


「え?」


 力の入らない手を懸命に持ち上げ、ぽかんとするミュルサリーナの肩に乗せるグレイン。


「お前が魔王の呪いを解けばいいんだ。絶対に解け。もしくは、魔王が呪われてなかったら、お前が新たに呪いを掛けて洗脳すればいい。それで魔族同士の争いは避けられるだろ」


「えぇぇ……」


 魔王に呪いを掛けろなどという無謀な要求に呆れるミュルサリーナなのであった。


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