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第251話 最終兵器

「ポップ、もう少しゆっくりでお願いしますわ。リリーが落ちてしまいます」


 セシルはそう言って、ポップの首筋を軽く撫でる。


「ププゥ」


 ポップは心地良さそうに尾を振り、頭の上の耳をひょこひょこと動かしながら森の中を駆ける。

 自らの背に乗せているセシルと、さらにその背に負われているリリーを落とさないようにしながら、グレイン達の匂いを辿って木々の間を抜ける。


「プップップ♪」


 不意にポップの足が止まる。

 セシルが顔を上げるとそこには、セシル達を見つけて安堵するグレインやトーラスの笑顔があった。


「見つかってよかったな……ってポップがいるのは想定外だったが」


「リリーは……眠っているのかい? 妹に何があったんだい?」


「とりあえずこれで一件落着かの。……魔族の生き残りであり! 魔王であるはずの! 妾は何も! 何もしておらんのじゃが! ……あの魔族め……魔女なんぞに媚び諂いおって」


 サブリナだけはぷりぷりと怒る仕草を見せているが、それ以外は皆この森を中心に起こっている大災害のことなど忘れたように穏やかな表情であった。


 セシルはリリーをトーラスに預け、おずおずとグレイン達の前へと歩み出る。


「あ……あの……ひ、一人で森の奥に入ってごめんなさいっ!」


 瞼を閉じ、頭を下げるセシル。


「みんなあなたの事を心配していましたよ。……でも何事もなくて良かったですね。こういった場所での単独行動は厳禁ですよ」


 そう声を掛けたのはカロリーヌ。


「いやいや、ちょっと待てよ。お前だって一人で食材を狩りに行ってただろうが」


「あ……。あ、あれは食材が私を呼んでいたんです! 食料確保は森の中で生き抜く為の第一歩なのでノーカンノーカン!」


「誰もこの森で生きていくなんて言ってないし、割と満腹だったよ! いや、そもそも論点は食料確保じゃなくて単独行動の話だからな? ……カロリーヌ、お前も同罪だ。セシルとカロリーヌの両名には、ヒーラーギルドマスターとして処分を言い渡す!」


 セシルは目を閉じて俯いたまま沈黙し、カロリーヌは『なんで私まで……』とぶつくさ文句を口籠っている。


「三ヶ月間、ギルド職員としての報酬を全額ギルドに返納すること! ただしその間の衣食住はギルド側で全額保証する。たっぷりタダ働きしてもらうから、覚悟しろよ?」


「「え……」」


「じゃ、じゃあ私は正式に……」


「あぁ、お試し採用は終わりだ。ヒーラーギルドのメンバー兼、ギルド職員として採用するよ。ギルドのために尽くしてくれ」


「ぃやったぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 拳を天高く突き上げ、咆哮をあげるカロリーヌ。

 そしてセシルも薄っすらと目を開け、目の前のグレインを見上げる。


「わたくし……は……まだこのギルドにいても……?」


「何言ってんだ? セシルは主要メンバー……いや、もはやギルド幹部の一員なんだぞ? もう少し自覚を持ってくれ」


「えぇぇ!? 幹部って……何の事ですの?」


「とりあえずナタリアが怒りの矛先を向けられる相手は複数いたほうがいい」


「あ、なるほど……。ただの怒られ役ですのね」


「まぁそれは冗談だ。前にも言ったと思うが、セシルは火力担当なんだ。そもそもセシルがいなければ、俺達はこんな森の奥まで辿り着くことなんてできなかっただろ? もう少し自分に自信を持てって」


「でも……でも……わたくしはトーラスさまの怪我を治すことが……」


「じゃあ、お前の代わりにティアだったり、あの食堂でラゴス達にボコられてたフレイルを火力担当にして、ここまで辿り着けたと思うか?」


「あーらぁ? なんでそこでティアちゃんとかフレイルさんの名前をわざわざ挙げる訳ぇ?」


 ミュルサリーナが不満げに横から口を挟む。


「あー……いや、火力担当にした時に、俺達が一番全滅しそうな奴の名前を挙げ──む、むーむむ」


 ミュルサリーナが軽く睨みつけると、上下の唇が一体化したように癒着し、呻き声を上げるグレイン。


「……失礼な口には沈黙を。折角その前まではいい感じだったのに、残念な人ねぇ。……セシルちゃん、人には得手不得手があるの。だから、あなたはあなたに出来る事を……って、あら? なぁんだ。ちゃんと出来てるじゃなぁい」


 ミュルサリーナはポップをちらりと見てから、にこやかな微笑みをセシルに向ける。


「出力はどこまで上げられるのかしらねぇ? ちょっと失礼」


 そう言ってミュルサリーナはセシルの額に自分の額を当てる。


「……なるほど……。確かにセシルちゃんはそこの聖獣と同調しているわぁ」


「え? えええ?」


 セシルはぽかんと口を開ける。


「ポップちゃん……だったかしらぁ? ちなみに属性は?」


「使ってみた感じは風……だと思いますわ」


 セシルがそう答えると、ミュルサリーナは軽く慌て出す。


「正解ね。というか、使ってみたですって!? 無闇に聖獣魔法を使ったらダメよぉ? あなたの力を全部引き出せば、この森を中心に……そうねぇ……バナンザの街ぐらいまで巻き込む範囲を軽く消滅出来そうな魔力量なんだから!」


「「「「えっ」」」」


「聖獣と同調して、聖獣から膨大な魔力を融通してもらって発動するのが聖獣魔法なの。……ただ、聖獣がそもそも実在するかどうかも疑わしくって、そういう伝説が残っているだけで使える人を見たのは私も初めてなのよぉ。まぁ、この聖獣魔法のお陰で、セシルちゃんは、やろうと思えばこの世の大半を吹き飛ばせる最終兵器になったのよぉ」


「ププー……」


 傍らで『やりすぎた……』と言わんばかりに白い顔を更に青白くするポップなのであった。


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