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第246話 アドニアスは?

「そうか……。お主も色々と大変な思いをしてきたのだな」


 蹲るトーラスの話を聞き、肩に手を置くアドニアス。

 トーラスはふと顔を上げると、驚きの表情を浮かべる。


「あいつらは……船の中にいた……!」


 トーラスの視線の先にいたのは、アドニアスの護衛であり、リーナスの姿をした二人の男であった。


「なんだ、お主もこいつの知り合いであったか。まぁ、今は単に姿を借りているだけではあるのだがな」


「姿を、借りている……? 姿だけなのか?」


 グレインの言葉にアドニアスは片眉をぴくりと動かす。


「……貴様……どこまで知っている? ……まぁいい。元々、この姿の持ち主は……取るに足らない、塵芥のような存在……いや、もはや存在など気にも留めない程度のものであった。ところがある日、古書に禁呪の記述を見つけてな。ちょうどその時この男が『力が欲しい、力をくれ』と喚いておった。……実験台には丁度いいではないか」


「実験……?」


「あぁ。禁呪で人格と感情をバラバラにして幾人かの死体に宿してみた。まぁ、結局何の役にも立たなかったが、暇潰し程度には愉しめたぞ」


 グレイン達はアドニアスの話を聞きながら、足元のトーラスを中心に薄っすらと黒霧が渦巻いている事に気付くと、大きな溜息をつく。


「はぁ……。お前、人の命を一体何だと思ってるんだよ!」


 気色ばむグレインとは対称的に、アドニアスは落ち着いた口調で話を続ける。


「感情を宿した人形達は使い道が無くてな。各地で捨て駒に使ってみんな死んだ。あぁ、心配するな。もとの人間であった抜け殻の方も、姿を取り込む禁呪がある。姿を取り込めばこの者達に施したように、いくらでも再現することができる」


「なぁ、なんでわざわざそいつの姿にするんだ? 俺はもうそいつの顔なんて見たくもないんだよ! 誰か違う人に変えられないのか!? 美人のおねーちゃんとか!!」


 アドニアスの足元に渦巻く霧の濃度に比例するように、グレインの声も次第に大きくなっていく。


「私が取り込んだ人間はまだ数人程度でな。二人が同じ姿なのは致し方ないのだ。まぁ、そもそも本来の魔族の姿でも構わんのだが、やはり人間の世界にいるのだから姿形だけでも人間にしておいた方が何かと便利でね」


 そう言って笑うアドニアス。

 その時グレインは、あることに気が付く。


「……待てよ? ……よく考えたらお前も魔族なんだよな? って事はもしかして……その姿の持ち主の人間……アドニアスは?」


「フハッ! そこに勘付いたか。見た目に反して案外頭は回るようだな」


「一言余計だよ! 見た目ってどの部分だよ!? っていうかいつだ? 一体いつ入れ替わったんだ?」


「まぁそこはあの世で勝手に想像するがいい。私は必要なものが揃ったので帰る事にするよ」


「……ん? スタンピードを起こすのが目的だったんじゃないのか」


「あれは私の魔力に怯えてこの森に巣食っていた魔物が逃げ出した結果に過ぎぬ。私は何もしておらん。魔物が勝手に逃げたのだ。……それをまさか私に責任を取れとは言わぬよな?」


 そこまで言うと笑い出すアドニアス。


「私が森に降り立っただけで街が滅ぶとは、何と脆弱な世界であろう。おい、お前達」


「「ははっ!」」


 護衛の二人はアドニアスに跪く。


「私は先に戻る。どちらでも良いが、一人は私と来い。もう一人はそいつらを一人残らず殺しておけ」


 アドニアスはそう言うと森の奥へと振り返る。

 アドニアスがグレイン達から目を離す、グレイン達が待ち望んでいた時が訪れる。


「トーラス、今だ!」


「分かってる! さぁ、拘束したぞ」


 トーラスはアドニアスの全身に濃密な黒霧を纏わりつかせる。


「ほう……。これは闇魔術か?」


 次の瞬間、トーラスの左腕が消し飛ぶ。

 トーラスの黒霧で全身を拘束されたかに見えたアドニアスであったが、一瞬でそれを振り払い、その衝撃で傍にいたトーラスの腕が吹き飛んだのであった。


「ぐあぁぁぁっ!」


「トーラスさま!」


 悲痛な呻き声を上げてよろめくトーラスをセシルが支える。


「あぁ、すまんな。お前たちの玩具に傷をつけてしまった」


 アドニアスはそう言うと、何事も無かったかのように歩いて行く。


「滅相もございません。それでは、某がこの者達の相手を致しましょう。クライルレットはアドニアス様をお護りしてくれ」


「分かった、セーゲミュット。武運を祈る」


 そして二人の偽リーナスは別れ、セーゲミュットと呼ばれた方だけを残して森の奥へと消えていった。

 セーゲミュットは剣を抜き、グレインたちと対峙する。

 リリーとカロリーヌがそれぞれ武器を構える。


 二人がセーゲミュットと睨み合っている間に、グレインはトーラスの方を見る。

 ちょうどセシルが小さな身体で、なんとかトーラスを地面に横たえたところであった。


「トーラスさま! 闇魔術は使えそうですか? 私のヒールを半減させられれば……」


「……ごめんね……っ! ち、ちょっと今は……無……理……」


 トーラスはそう言って意識を失う。

 セシルは泣きながら、拳を握り締めて大声を張り上げる。


「カロリーヌさん! リリーちゃん! トーラスさまを助けてください! このままだと命の危険があります! それに……わたくしじゃ……わたくしじゃ何も……」


 その言葉を聞いてセーゲミュットは笑う。


「行きたければ行け。但し、あちらに駆け出して背を真二つに裂かれても恨むでないぞ?」


「……私が行きます……。勘だけど……この人は……そんなことしない……と思う……」


 リリーが呟くようにぽつりと呟くと、リリーはトーラスに、カロリーヌはセーゲミュットに向けて駆け出していった。



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