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第243話 もう結構ですわ

「モンスターに追われて、気が付いたらここにいたんだ。命からがら、この森に辿り着いて茂みに隠れてたんだ」


 バナンザでトーラス達がギレットの姿に偽装した魔族に襲われている頃、グレイン達もまた、森の中でギレットに遭遇していた。


「ギレット、お前なんでこんな街から離れた森の中にいるんだ? どうやってあのスタンピードを抜けてここまで辿り着いた? お前を追ってきたモンスターはどんなモンスターだった? どれぐらいの時間、距離をどっちの方角に走って逃げた?」


 グレインはギレットが偽物だと言わんばかりに、矢継ぎ早に質問を浴びせる。


「ちょ、ちょ、待ってくれよ! 俺だって何が何やら……。街にいて、気がついたらここにいたんだよ」


 全く説明にならないギレットの言葉を聞いて、セシルが大きく頷く。


「分かりますわ。つまり、『不思議現象』ですのね」


「あ、あぁ、そうなんだ。不思議現象で俺はここに……」


「じゃあ、途中で出会ったモンスターはどんな奴だった?」


 グレインが訝しむような目をギレットに向ける。


「え? えーと……姿はよく分からなかったな。とにかく脚が何十本も生えたライオンの胴体に、鱗に覆われた蛇みたいな長い首が何十本もついてて、鋭い爪の斬撃を繰り出して来たんだ。そして怒ると一本の首の鱗が鋸のように逆立って、ブンブン振り回して周りの物を全部切り倒してくる。そんなモンスターだったんだが──」


「走って逃げた割にずいぶん詳しいんだな……。っていうかそんなモンスター居るか! 絶対嘘だろ!」


 グレインはギレットの言葉を遮って否定するが、隣でセシルが頷いているのを見て目を丸くする。


「なるほど、『不思議モンスター』ですのね」


「あ、あぁ、そうなんだ! 不思議モンスターなんだよ! 信じてくれるのは君だけだ……」


 そう言ってギレットがセシルに一歩近付いたところで、ギレットの額に細い光線が当たる。

 グレインがギレットの額から光線を目で辿ると、その光線はセシルの掌から発せられていた。


「最期に聞きますわ。ギレットさんは……その姿の本当の持ち主はどうしたんですの!」


 セシルの問いかけに、ギレットはニヤつきながら答える。


「チッ……何でバレたんだよ! この姿なら人間族だと信じ込むと思ったんだけどなぁ。この光は偽装を見破る魔術か何かなのかァ?」


「さっさと答えなさい! ギレットさんは……どこですの!」


 セシルは苛立ちを隠さずに、目の前の偽ギレットへ怒声を浴びせる。


「あっさり死んだぜ。あ、俺じゃねぇぞ? 俺は単に死にかけのこいつを見つけて届けただけだからな。まぁ、見つけた時は既にモンスターに踏まれて死にかけだったし、どの道助からなかったよ。クククッ」


 偽ギレットが浮かべる下卑た笑顔を目の当たりにしても、セシルは何も言わず、ただ静かに下唇を噛み締めて光線を発し続けていた。


「あぁ、そうそう。死に際インタビューの回答は『仲間を裏切った報いだ』とか言ってたぜぇ。……あ……。あぁ? そうか、もしかしてあんたら、その裏切られたお仲間だったりする? そっかそっか、そりゃ最高の笑い話だな! ……ぉあ?」


 セシルを見て下品な笑顔を浮かべていたその頭部が、額を中心に歪に膨張する。


「あぁは? て、てんみぇ、何ひやがっは」


「もう結構ですわ……。もう……お前の話は聞きたくありませんの!」


 偽ギレットの頭部は盛大に血飛沫を上げて破裂する。


「『空想顕現イマジナリー・リベレーション』」


 その瞬間、誰のものでもない、声とも言えないような声が一体に響き渡る。

 すると、偽ギレットの胴体から噴き上がっていた血が、うねうねと空中に留まり、何かを形作っていく。


「おいおい……嘘だろ……!?」


 グレインが見たものは、脚が何十本も生えたライオンの胴体に、鱗に覆われた蛇みたいな長い首が何十本もついている巨大なモンスターの姿であった。


「こ、これはまるで、さっき説明していた『不思議モンスター』ですわ!」


「ククククッ、どうだ? この血はそいつが最も強く、恐ろしいと感じた化け物になるのだよ」


 そう言って、鬱蒼とした森の奥から一人の男が、二人の従者を引き連れて歩いてくる。

 誰も彼も、グレインのよく知る顔であった。


「そうか……。お前がこのスタンピードの元凶だったのか、アドニアス! ……後ろの奴等は……そろそろしつこいぞ? リーナスもどき」


 森の奥から歩いてきたのはアドニアスと、リーナスの姿をした二人の従者であった。


「何だ貴様、こいつの知り合いか?」


 アドニアスは背後の従者を親指で指し示しながらグレインを見る。


「それに、私をその名前で呼んでもらっては困るな。今この場では、私は闇ギルド首領のギリアムなのだから」


 事情を知らないカロリーヌ以外の三人に衝撃が走る。


「王家滅亡にあわせてヘルディム王国を乗っ取った男と、クーデターを起こして闇ギルドを乗っ取った新首領が……同一人物ですの!?」


「待てよ……。タタールの話だと、確か闇ギルド首領ってのは魔界から──」


「おや? どこの虫ケラか知らんが、そこまで知っているとは……まぁいい、さっさと死ね」


 アドニアスが指を鳴らすと、グレイン達の前に巨大な異形のモンスターが立ちはだかる。


「あら……これは非常に珍しい食材ね。一体どんな味がするのかしら……楽しみ」


 カロリーヌはにやにやと笑みを浮かべながらモンスターを値踏みするように眺めている。


「これ、元は偽ギレットの血だからな? 俺は一切食欲が湧かないぞ」

「わたくしもですわ……」

「……私も……遠慮します……」


「テメェら……アタイの料理が食えねぇっつってんのかよぉっ!」


 カロリーヌが豹変し、腰の包丁を抜く。


「落ち着け! あいつはただの血だ! って事は血の味しかしないだろうが! それに、偽ギレットの元は何者だか分かりゃしないんだ。毒があったらどうする? それならそこらのモンスターの血を啜ってた方が安心安全ってもんだろ」


「…………。分かりました、このモンスターは調理せずに処分いたしましょうね」


 落ち着きを取り戻したカロリーヌにほっと胸を撫で下ろす三人であったが、心中穏やかでない者がこの場にただ一人、いや一体だけ存在していた。

 異形のモンスターである。

 彼は『その辺のモンスターの方がまだマシな食材になる』と言われ、心の底から怒っていた。

 そもそもこんな弱そうな人間達の食材になるつもりは毛頭無いのだが、今は怒りでそんな事も考えられなかったのである。


「グググ……グギャオォォォ!」


 怒りの雄叫びとともに、モンスターに生えている首の一本だけ鱗が逆立つのをグレインは見逃さなかった。


「アドニアスに逃げられないように、このダメ食材には早く生ゴミになってもらわないとな!」


 敢えてモンスターによく聞こえるように大声でそう叫ぶグレイン。


「そうですね。食材にならない物には価値はありませんので。そこらのスライムの方が万倍貴重ですわ」


「ギャォォォオオオ!!」


 そしてついに、モンスターは鱗を完全に逆立てた首を勢い良く振り回し始め────周囲に生えていた、自らの首を次々と切り飛ばしていったのであった。


「な、こ、これは一体……!?」


 目の前の人間を蹂躙してくれると思っていたモンスターの過激な自傷行為に、アドニアスもぽかんと口を開ける。


「お前の魔法か呪いか知らないけど、想像した通りのヤバい化け物が生み出されるってのは理解した。だがな、想像した奴の頭が悪いとなんの役にも立たないってこった。偽ギレットから説明を聞いたとき、全然こいつの戦ってる姿が想像できなくてな。やらせてみたら案の定だ。……ぷふっ……くくっ」


 モンスターが自分で自分の首を次々と刎ねていく様子を見ながら、こみ上げる笑いを堪えるグレイン達四人なのであった。


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