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第241話 約束したからな

 ただひたすらにスタンピードの元凶を探して森を進んでいくグレイン達であったが、森の中で出現するモンスターはいずれも手強く、常に総力戦を繰り広げていた。

 そして戦闘が終わる度に、カロリーヌはグレイン達に料理の腕を振るっていた。


「あー、美味かった! そうそう、みんなこれぐらいの量で大丈夫なんだよ。ありがとう、カロリーヌ」


「……味も量もちょうどいい……すごく……満足……」


「大変美味でしたわ。カロリーヌさん、本当に料理がお上手ですのね」


 グレイン達に讃えられるカロリーヌは涙ぐむ。


「ありがとうございます! 皆さん何の抵抗もなく私の料理を召し上がっていただいて……感無量です!」


「食い過ぎってんならまだ分かるが、それ以外にお前の料理を拒む奴がいたのか? ……こんなに美味いのに」


「えぇ、それはもうたくさん……。『気持ち悪い』とか『人間の食い物じゃねぇ』とか、『こいつ、さっきまで俺を殺そうとしたんだぞ! 食えるわけねぇだろ!』とかよく分からない理屈まで様々です。更に、モンスターを目の前で捌くとより抵抗感が増すようで……。今も皆様の目の前で捌いたにもかかわらず、素直に美味しい美味しいと食べてくれたのは皆様が初めてかもしれません」


「まぁ、俺達は基本的に金がないから食えそうな物は何でも食うし」


「エルフはキノコとか野生動物とか、自然の物を好みますので、全く抵抗は無いですわ」


「……美味しければ……何でも……」


 三者三様ではあるが、みな料理に対する満足感からか、笑顔を浮かべている。

 そんな食後のまったりした時間の中、セシルがあっと声を上げる。


「そう言えば気が付いたのですが……。皆さま、この森に来てから食べてばかりで、目的を忘れてませんの?」


「目的? 『カロリーヌのいざゆけモンスター料理紀行』だったか」


「グレインさん!」


 セシルが厳しい目つきになる。


「いやいや分かってるって、冗談だって! 確かに日も暮れてきたし、そろそろペースを上げて進むか」


 軽い気持ちでそう言ったグレインにリリーが首を振る。


「……だめ。……この付近のモンスターは強すぎます……。ペースを上げると……討ち漏らしたモンスターによって……死にます」


「先日この森に来たときは、こんなに強力なモンスターは全く出ませんでしたのに」


「それだけ元凶に近づいてる証拠なんだろうな。……そろそろ行くか」


「はい。……でもグレインさん……これだけは忘れないで下さい。私達は……あくまでヒーラーなので……。単純な戦力としては、専門職には遠く及ばないです」


 そう告げたリリーの表情を見て、一同は俯く。

 みな薄々勘付いていた事ではあったが、リリーが言葉にした事でそれを再認識する。

 彼らには戦闘力が圧倒的に足りていないのだと。

 唯一の特徴である治癒魔力を駆使して、何とか森の中まで辿り着けたようなものである。


「……あぁ。危なくなったらすぐに撤退する。絶対に全員の命だけは守り抜くさ。……約束したからな」


 グレインがそう言った時、近くの茂みが音を立てて揺れる。


「誰だ!」


 グレイン達は立ち上がり、茂みに向けて剣を構える。


「あ、あわわっ、すまねぇ! 危害を加えるつもりはねぇんだ!」


 そう言って茂みから、両手を頭上に組んだ状態で一人の男が現れる。


「ギレット……さん!?」


 驚いたセシルが思わず呟く。


「ギレットさん、あなたは今までどこにいらしたのですか? 街で他の冒険者の方々と戦ってらしたのではなくて?」


「モンスターに追われて、気が付いたらここにいたんだ。命からがら、この森に辿り着いて茂みに隠れてたんだ」 



********************


 グレイン達が森の中でカロリーヌの料理と格闘している頃、バナンザの広場ではナタリア達が休む間もなく働いていた。


「あなたは木もれ陽ね。あの木のところまで歩いてくれる? 申し訳無いけど今かなり人手不足なのよ……。はい、次! うわっ……ちょっと変態、この方は山火事に運んで」


「はいはい、人使いが荒いなぁ」


 ナタリアの後ろにぼーっと立っているだけであったトーラスが兵士に手を翳す。

 忽ち兵士の寝かされている地面が黒い沼地のように溶け、兵士の身体を飲み込んでいく。


「こちら山火事、ちゃんと受け取りましたよっ、お姉ちゃん!」


 兵士の身体が見えなくなると同時に、遠くからハルナの声が響く。

 それを合図にトーラスが指を鳴らすと、地面は再び元に戻る。


「何だ、ありゃァ……」

「治癒魔法じゃ……ねぇよなぁ」

「闇魔術……か? あいつどう考えたって俺達より戦えるんじゃねぇか……?」


 一部始終を見ていた怪我人の兵士からは驚きと、何故そんな戦力がこの街中に留まっているのか、といった戸惑いの声が巻き起こる。

 そんなどよめきを切り裂くように、一人の女性の声が広場に響き渡る。


「弟様! 大変お待たせ致しました!」


 ラミアの声であった。

 兵士達は周囲を見回すが、それらしき人影は見当たらない。


「この国の危機という事で、慌てて駆けつけました! さぁ弟様、ともに全てを吹き飛ばしましょう!」


 ラミアは、ダラスに抱えられた状態で上空から広場の中央へと降り立った。


「今どっから飛んできたんだ?」

「ありゃ風魔法か?」


 兵士達のどよめきが更に大きくなる。

 皆の注目を浴びる中、トーラスは頭を抱えながら広場の中央へと歩み寄る。


「はぁ……。お久しぶりです、姉様。今日は加勢に来てくださってありがとうございます。では、モンスター退治の方を──」


 そう言ってトーラスは、差し出されたラミアの手を取らずに、上下から両手で包む。


「姉様にお願いしますね。僕はここでヒーラーギルドの怪我人運搬係として働いていますので! 姉様……くれぐれも死なないで下さいね」


「えっ……あの……一緒に戦うんじゃ……」


「ダラスさんとお二人で頑張ってください!」


 そう言ってトーラスは再びナタリアの所へと戻っていく。

 ダラスとラミアはその背中に寂しそうな視線を送りながらも、無理だと悟ったのか渋々とその場を飛び立つ。


「何よ変態! あんたも行けばよかったのに……はっ、ま、まさかあんた、幼女にしか興味ないフリをして、あたしの事を──!」


 ナタリアはトーラスにそんな事を言うが、彼は笑顔で受け流す。


「違うよ。これは、約束なんだ。……男と男のね」


「何よそれ……どうせグレインから、あたしの傍を離れるなとか、そんなこと言われてるんでしょ?」


「ははは、まぁそんな所かな」


「……まぁいいわ。次の怪我人の方!」


 担架で運ばれてくる男には、二人の男が付き従って声を掛けている。


「おい、生きてるか!?」

「死ぬんじゃねェ!」


「「死ぬな、ギレット!」」


 声を掛けていたのはラゴスとガンプであった。


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