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第227話 表に出なさい

 物件の確認を終えたグレインは、宿屋へと戻る道すがらナタリアに気になった事を尋ねる。


「なぁ、なんでお前がギルマスじゃダメなんだ? 実際にサランの冒険者ギルドでサブマスターやってたんだから、お前が適任だと──」


「また前みたいに、……アーちゃんがギルマスになれれば良かったんだけどね」


 グレインの言葉を遮る形で、寂しげな表情をしたナタリアが答える。


「闇ギルドの首領だったって世間一般には知れ渡ってないけど、それでもさすがにトップに据えるわけにはいかないわよね……」


「だったら、ギルマスやるならお前しかいないだろ? なんで──」


「あたしには出来ない、って何度も言ってるじゃないの。 ……そろそろ宿に着くわね。ぎりぎりお昼前に戻って来られて良かったわ。果たしてフレイルは呼び出し通りに現れるかしら」


「あ……まさかフレイルを……」


「もちろん、ギルドに勧誘するつもりよ。ただ、ギルドに加入するかどうかは、あくまで彼の判断に任せるわ」


「いや、そんな事言ったってな……」


 ナタリア達が宿の入口をくぐると、ちょうどフレイルがナタリアを訪ねてカウンターの女性に問い合わせているところであった。


「あらフレイル、もう来てくれたの? 随分早いけど。まだお昼前よ?」


「あ、ナタリアさん、グレインさん、リリーさん! 昨夜はありがとうございました! おかげさまでマリンもすっかり元気に……元気に……なって……パパ、行ってらっしゃいって……ううっ……まさか、また元気な姿のマリンを見られるとは……本当に、ありがどうございまずぅっ……」


 そう言って床に蹲り、泣き出すフレイル。


「なんでいきなり泣き出してんのよ……。これじゃ話が進まないわ。とりあえずここじゃなんだから、表に出なさい」


 ナタリアは親指で背後の入口を指す。

 これを見て宿のカウンターに立っていた女性が反応、恐る恐るナタリアに声を掛ける。


「お客さま……喧嘩でしたら、なるべく……なるべく、宿から離れたところでお願いできませんでしょうか。 一方的に金品を奪い取るおつもりでしたら、町の北西に行けばいい廃墟がありますのでそちらへ……」


「しれっと犯行現場をお薦めしてんじゃないわよ! そもそも喧嘩じゃないし、金品も脅し取らないわよ! それに、その廃墟はあたしが買い取ったの! これからきれいに改装するんだから、もう二度と犯行現場に仕立て上げないでよね!! 全く不愉快だわ……。まぁ、それも明日でお終いだけど」


 カウンターの女性は申し訳なさそうに頭を下げる。


「も、申し訳ありません! その乱暴な言葉遣いといい、迫力のある佇まいといい、てっきりその筋の姐御かと勘違いしてしまいました!」


「……ねぇ、あなた……これって謝罪……よね? なんか全然謝られてるような気がしないんだけど……っ!」


 ナタリアがそんな事を呟いて横を見ると、グレインとリリーが腹を抱えて大笑いしている。


「あ、姐御だって! あ、あははははははっ!」


「迫力のある……ぷふっ……佇まい……あははは」


 隣で笑う二人に怒り出すナタリア。


「あぁぁ……次ミスしたらクビだって言われてるのに……。お願いします、さっきの勘違いは無かったことに! 契約を切らないで下さい! 姐御、お願いします! 今クビになったら田舎に帰って嫁に出されてしまいます!」


「姐御って呼び方をやめなさいよ! もう、あんた一体何なのよ! あんたの契約なんて知ったこっちゃないわよ!」


 怒声を上げるナタリアの目の前には、嬉し泣きが止まらないフレイルと、自らの失態に泣き出しそうなカウンターの女性がいる。

 さらに隣には相変わらず腹を抱えて大笑いするリリーとグレイン。

 まさに喜怒哀楽が一同に会する場面であった。


「店先でなんですか、騒々しいですよ!」


 この騒動を聞きつけてやってきた宿の主人と思しき男は、頭ごなしにカウンターの女性を叱りつける。


「マルベリ、また騒動を起こしたのか! さすがにもう庇い切れん、クビだクビ! さっさと荷物をまとめて出ていってくれ!」


「えぇぇぇぇ! こ、今回の騒ぎは私の責任では……」


「もう誰の責任でも関係ないよ! お前がいると騒々しくてかなわん。文無しでふらふらしてたのを憐れんで雇ってみたが、まるで役に立たないじゃないか。短い間でも雇ってやったことに感謝してほしいぐらいだがね」


「は、はい……。分かりました。出て……いきます。……お世話に……なりました」


 カウンターの女性、マルベリは服の袖で涙を拭い、カウンターから出ると、とぼとぼと宿屋の外へ出て行った。


「今の女性、ちょっと可哀想でしたね」


 いつの間に泣き止んだのか、フレイルは腕組みをして平静を装っている。


「半分くらいはお前の責任だぞ、ナタリア」


 グレインもフレイルの隣に立ち、ナタリアを窘めるような目で見る。


「えっ!? な、なんであたしの責任になるのよ? あの娘が勝手に勘違いしただけじゃない!」


「勘違いされる方にも責任があるだろ」


 グレインがそう言ったところで、リリーがくすりと笑う。


「ふふっ……グレインさん、ほんとお人好しなんですね……。ナタリアさん、グレインさんは、あのマルベリさんを──」


「分かったわよ! 『勘違いさせた責任を取って』、マルベリをギルドで雇うことにするわよ! それでいいんでしょ!?」


 何も言わず、ただ笑顔で頷いてみせるグレインなのであった。


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