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第219話 なんで連れてきたのよ!

「お母……さん……」


 アウロラは手帳の最後のページに描かれたマークを指で何度もなぞり、そう呟いた。


「そのマークがあるってことは、お前の母親もここへ来て、この手帳を読んだってことか?」


 グレインの問い掛けにアウロラはただ首を振る。


「分からない……。グレインの言う通りかも知れないし、もしかしたら……」


 アウロラは唇をぎゅっと噛み締める。


「もしかしたら?」


「……ううん、何でもない。それよりもこの手帳に書かれている内容の方が大事だよー」


 表情と話題を同時に転換するように、アウロラはにこやかな笑顔を見せる。


「どうやら開祖の儀っていうのは、魔界に人を送り込む儀式だったっぽいよー。そして……その時に送り込まれた人が始祖様だったみたい。この手帳は始祖様本人か、その成り行きを見ていた近しい人が書いたみたいだよー」


「魔界に……送り込む……? 何のためにだ? ……それに、また開祖の儀があるんだよな? そこで送り込まれる人は何代目の始祖様になるのか?」


 首を傾げるグレイン。


「開祖の儀がまた行われるってのは、うちの村の古い言い伝えだから本当か分からねーぜ」


 エリオが横から口を挟む。


「それなんだよなぁ。ただの言い伝えなんだろ? 適当な予言かもしれないのに、王女を殺せって指示だけはやたらと具体的なんだよな」


「うーん……。儀式の目的も言い伝えも、今はよく分からないね。でも一つだけ、魔界に人を送り込む手段があるってことだけは間違いないよねー」


 そこでエリオの顔が明るくなる。


「だな! 俺達が魔界に帰れる方法があるかも知れない!」


 一気に上機嫌になったエリオは、ついさっきアウロラにスキップを注意していたことも忘れ、ドタドタと書庫を走り回る。

 その後もグレイン達は書庫の捜索を行ったが、特にめぼしい成果は得られずに下船する事となった。



********************


「やあやあ、わざわざ来てくれて済まないね。だいたい……一ヶ月ぶりに顔を合わせる人もいるんじゃないかな。この国での生活は如何かな? この国はヘルディム王国に比べると幾分田舎ではあるが、非常に住みやすい国だと自負している」


 そう語るのはハイランドである。


「ぅ……ふわぁ……それで、俺たちを呼んだのはどういう要件なんだ?」


 噛み殺せなかった欠伸をしながらグレインが質問する。

 彼が周囲を見ると、ミゴールやレン、ラミアやダラスまでもがハイランドの屋敷に招集されていた。


「それは勿論、君達を正式に受け入れることが議会で承認されたのだ! 只今をもって、君達は保護観察される身分ではなくなり、正式にいちローム公国民という事になる。君達に着けていた監視用の腕輪も外そう。……ティグリス様の腕輪はそのままでも構いませ──ぶげっ」


 ティアは誰よりも早く腕輪を外し、ハイランドに投げつけたのであった。


「ハイランド様! もう私に付きまとわないで下さいね! その腕輪さえなければ、もう私は自由! どこへだって行ける!」


 ティアは両手をぱたぱたと鳥の翼のように羽ばたかせている。


「し、しかし……。せめて騎士団の護衛は付けさせて貰います」


「それも結構です! 私にはこんなかわいい護衛がいるのですから」


 ティアはエリオとミーシャをハイランドに向けて押し出す。


「ちょ、ちょっと待てよティア! 仮にもそいつらはお前をころ……」


 ティアの決断に慌てるグレインは、思わず口を滑らせそうになる。

 しかし、ハイランドから猛烈な殺気が放たれたため、既のところで押し留まる。


「ティアをころ…何だって? ……まさか、まさか殺そうとしたんじゃァないだろうなぁァァァ!! もしそんな奴が居てみろ! ありとあらゆる拷問で苦痛を与え、最後はゆっくりと八つ裂きにしてくれる!!」


 目の前で激昂するハイランドに、エリオたちは思わずティアにしがみつく。


「大丈夫ですよ。あなた達がそんな事をする訳がないです。ハイランドさん、この子達は殺されそうになっていた所を私が助けたのです!」


「な、なんだ、そうだったのか……。それは済まないことをしたね」


 ハイランドが握手しようとエリオ達に手を伸ばすが、彼らは避けるようにティアの背後に回り込む。


「ところで……君たちの親御さんはどうしたのかな?」


 差し伸べた手を引っ込めながら、何気なくそんな事を訊いたハイランド。

 グレインとティアは押し黙り、思わず顰め面を見合わせる。

 気まずい沈黙が続く。


「君達はどこの街に住んでいるんだい? 名前は?」


 ハイランドは訝しむような目で二人をじろじろと見ている。


「(ちょっとグレイン! あんたバカなの? あの子達をなんで連れてきたのよ!)」


 ナタリアがグレインの背中に拳をねじ込みながら囁く。


「(いや、関係者全員で、って話だったじゃないか)」


「(そんなのハイランドさんが把握してる関係者に決まってるでしょうが! 向こうは二人の存在すら知らなかったのよ!? はぁ……もういいわ。あたしが何とかするから)」


 ナタリアはそう言ってハイランドの前に出る。


「こ、この子達は……私の子どもです!」


「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」」」」


 グレインやティア、当のエリオ達ですらも一斉に驚きの声を上げる。


「失礼だが、あなた方が我が国に入国した際には、このような子どもは居なかったと記憶しているのだが」


「い、いえ、えーと……入国してから産んだんです!」


「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」」」」


「……ナタリアさん、だったかな。冗談も休み休み言いたまえ! あなたにはこの子達が何歳に見えるかな? あなた達が入国してまだ一ヶ月しか経っていないのだぞ? それに先ほどティグリス様が仰っていた『殺されそうになっていた所を助けた』という話とも噛み合わないではないか! これ以上嘘をつくなら──」


「一ヶ月! この子達は一ヶ月です! でっ、でも、不思議な魔法の力でここまで大きく育ちました!」


「そんな馬鹿げた魔法がどこにあると言うんだ! もういい、その二人は不法入国者として取り調べを受けてもらう。ナタリアさん、当然あなたからも話を聞かせてもらおう」


「うぅ、そ、そんな……」


 俯くナタリア。


「あいつ、威勢よく飛び出していった割にノープランだったのか……。バカはどっちだよ……」


 そんな呟きがグレインから飛び出した時だった。


「お待ち下さい、ハイランドさん。ナタリアさんの言っている魔法を掛けたのは私です。私は……時空魔法が使えるのです」


 ティアがナタリアを庇うようにハイランドの前に立ちはだかったのであった。


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