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第216話 ヘイザーランド

「魔界から来たのに魔界に帰れないってのはどういう事なんだ? お前達がどうやって来たのかも含めて、ちゃんと話してくれ」


 グレインは首を傾げる。


「魔界……というか俺達の故郷は、北の大陸にあるんだ」


 一同は息を呑む。


「北の大陸だって? まさか……。あそこは枯れ果てた荒れ地で、人っ子ひとり寄り付かない大陸だろ? そんな所に人が住んでるってのか!?」


「あんたらが知ってるのは大陸の南端のあたりだろうな。もっと北側、内陸の方まで行けばちゃんと緑があって、生き物が住んでるぜ。そして……あんたらが『北の大陸』って呼んでるのが、丸ごとヘイザーランドだよ」


 したり顔でそう答えるエリオ。


「なるほどな……。俺達の知らない国がこの世界に存在してるってのは驚いたな……。まぁ、とりあえずヘイザーランドについてはなんとなく分かった。ただ、帰れないってのはどういう訳だ?」


「……海流だ。ヘイザーランドの周囲には、陸から離れていく方向に強烈な海流が流れてるんだ。だからこっちから船で行こうとすると、海流の弱い時期を見計らって南の端に到達するので精一杯だ。そこから荒れ地を延々と通って内陸までなんて辿り着けるわけがねぇ」


「なるほどな……。逆にお前達はその海流に乗って流されてきたって事か」


 顎に手を当て、頷くグレイン。


「あぁ、おかげで魔族にも見つからずに済んだんだ。出発して二、三日でこの大陸が見える辺りまで流されてきたぐらい、超強烈な海流なんだぜ」


「……のう、ヘイザーランドでは人間族と魔族は敵対しておるのかの?」


 青い顔をしてサブリナが尋ねる。


「……あぁ、元々あそこは魔族の国で、南の大陸から他種族を攫ってきては奴隷にしてたらしいぜ。だけど数百年前、突如女神様が降臨されて、魔族と戦ってくれたんだ!」


「その女神様というのが始祖様の事よ」


 ヒートアップするエリオの説明に、冷静に補足を入れるミーシャ。


「女神様を中心に他種族が連合軍を組んで魔族と戦って、最終的に魔族と休戦協定を結んだんだ。それが数百年前の出来事で、その休戦状態が今日まで続いてるんだ。大陸全土をヘイザーランドって一つの国にしようって声を掛けたのも始祖様らしいぜ。魔族とは今も対立はしてるけど、お互いに戦争を仕掛けて滅ぼし合うとこまではいかないんだ」


「そ、そうか、休戦中……か……」


 エリオの話を聞いてもまだ心配そうな様子のサブリナ。


「まぁ、魔族のことだからまたいつ協定を破って人間を滅ぼしに来るか分かんねーけどな」


「そ、そんなことする訳無いじゃろ! 魔族は約束を破らぬのじゃ! 魔族の王の妾が保証するのじゃ!」


 エリオはそんなサブリナの全身をじろじろと見てから溜息をつく。


「『南大陸の』魔族の王でしょ? ……そんな強くなさそうだなぁ。ヘイザーランドの魔族の王……魔王はホントに世界を滅ぼせるレベルらしいぜ?」


「えっ……世界を……じゃと?」


 想像以上だったためか、サブリナは口を開けたまま固まってしまう。


「……一つだけ気になる事があるんだけどー」


 その場にいた全員がエリオの話す新事実に圧倒される中、アウロラだけはいつもの調子で質問をする。


「君たちの国の人ってウチらの大陸によく来るの?」


 エリオは頭を横に振る。


「いや、そんなことはないと思う。村長は、俺とミーシャだけが、開祖の儀を止めるために数百年ぶりに派遣されたとか言ってたぜ」


「……そうなんだねー。……じゃあ、通信魔法とかで連絡を取ることは?」


 再びエリオは頭を振る。


「いや、それも無理だ。村長からは今生の別れだって言われたし」


「うーん……おかしいなぁ? そうすると、キミたちはヘルディムのお城に行って王女様に謁見したの?」


 困り顔のアウロラの前で、三たびエリオは頭を振る。


「王女さまの人相は出発前に何度も魔法映像で見せてもらったんだよ! どこもおかしなところはないだろ?」


 その時ミーシャが、あっと声を上げる。


「待ってよ、エリオ! ……よく考えたら、あの魔法映像って、一体誰が撮ったの?」


「あれ……確かに……?」


「やだ……気味が悪い……怖い……」


 ミーシャの顔が一気に青くなってゆく。


「悪い大人もいるもんだねー。たぶん……キミ達は騙されてる。ホントに捨て駒だったんじゃないかなー? ……きっと、魔界から送り込まれた人は他にもいる。さらに映像が魔界にあるということは、向こうに戻る手段か、最低でも通信できる手段はあるはずだよねー。……でもキミ達はそれすら教えられてない。って事は……」


 アウロラは息を整えて、冷たい目で二人を見据えて口を開く。


「二人は死ぬから必要なかった」


 エリオはさっきまで瀕死の状態だったミーシャの姿を思い浮かべる。

 そして同じ呪いが彼自身にも掛けられているとしたら……今後何がきっかけで呪いが発動し、同じ状態になるか分からない。

 エリオはそんな死と隣り合わせの恐怖を振り払うように声を荒げる。


「ちょっと待てよ! 好き勝手言ってんじゃねぇ! いいか、俺は捨てられても分かるけどよ、ミーシャはどうなるんだよ! ミーシャは村長の孫娘なんだ! どこの……どこの世界に自分の家族を捨てる奴がいるんだよ!」

「そうよ! お祖父ちゃんは私を大切に育ててくれたのよ! なのに……どう……して……お祖父ちゃん……」


 そこまで言うと、耐えきれなくなったミーシャは肩を震わせながら大粒の涙をぽろぽろと零す。

 エリオはミーシャを横目で見ながらアウロラを睨むが、質問の答えは意外な方向から返ってくる。


「自分の家族を捨てる奴なんて、そりゃいくらでもいるわよぉ。そもそも村長ってクズかゴミしかいないと相場が決まっているものよぉ?」


 ナタリアに追い掛け回された後、いつの間にか病室に舞い戻り、入り口付近に立っていたミュルサリーナであった。


「お前しれっと『ずっといました』的な空気感出してんじゃねぇよ。ナタリア達はどうした?」


「あぁ……治療院を駆けずり回ったから、院長にお説教されてるわぁ。それより坊や、嘘だと言うなら、さっきミーシャちゃんに掛けられていた呪いについて、お姉さんに説明してみてくれなぁい?」


「そっ……それは……」


「村長が本当にミーシャちゃんの事を大切に思っているのであれば、こんな危険な呪いなんて掛けなかったんじゃないかしらぁ? ……あの呪いは、ほぼ間違いなくミーシャちゃんの命を奪っていたわぁ。王女様の『遡及治癒(ヒール)』がなければねぇ。それに坊や、次はあなたの番かも知れないわよぉ?」


「でも、それも仮説の一つだよ。もしかしたら本当に別の何らかの理由で、二人だけを行かせる必要があったのかも知れないし」


 ミュルサリーナが少し言い過ぎていると感じたのか、語気を弱めるアウロラ。


「そうねぇ……もしかしたら、あなた達を守るために殺そうとした可能性もあるわねぇ。無限に苦しみ続けるぐらいなら、一思いに……って、ねぇ?」


「お前ら、あんまり子供を虐めてやるなよ」


 見かねたグレインがアウロラとミュルサリーナを窘める。


「お……俺……」


 ずっと泣き続けているミーシャの隣で、とうとうエリオも涙を流しはじめる。


「俺達を……助けて……下さい……」


 搾り出すようなか細い声で、エリオはそう訴えたのであった。


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