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第215話 無一文宣言

「船……? 船で魔界と往来できるというのか? にわかには信じがたい話じゃが……。ひょっとしてその船が、次元を超える船なのかの?」


 そう言って首を傾げるサブリナ。


「いーや、ただの小さな船だよ。海流に乗って、たまにミーシャの風魔法で方角を調整しながらここまでやってきたんだ。最初に流れ着いたのもこの国なんだぜ? 周りの奴らは『魔界の使者だ』なんて恐がって大騒ぎになって、俺達もほんと何言ってんのって感じだったけどな」


 肩を竦めるエリオに対し、グレインはバナンザのギルドマスター、バルバロスの話を思い出す。


「なぁ、地元の漁師が騒いでた話があるんだ。『幽霊船が魔界から来て、漁師が攫われた』って。……お前らが犯人だったのか?」


「ちょ、ちょっと待ってくれよ! 人攫いなんかしてねぇぞ! それに幽霊船って、港に停泊してたでけえ船のことだよな? ミーシャが魔法でマスト折ってぶっ壊しちまった……」


 エリオの言葉にミーシャが目を見開く。


「ちょ、ちょっと待ってよ! 何言ってるの!? 何で私が壊した事になってるのよ!?」


「ミーシャが風魔法使わなきゃ壊れてなかったろ?」


「私の魔法がなかったらここまで矢が届かなかったじゃない! もしあの船を弁償しろって言われたら、ちゃんとエリオにも半分払ってもらうからね?」


「べ、弁償!? 俺、金なんて持ってないぞ」


「私もお金なんてないよ!」


「「……どうしよう……」」


 何故か大声で無一文宣言をして、悲壮な表情になるエリオとミーシャであった。


「……話をまとめると、お前達は人攫いもあの幽霊船についても、何も知らないってことだな?」


「あぁ、無関係だよ。俺たちが乗ってきたのは小船で、あんなでかい船じゃねぇ。たまたま同じ日に、ここに漂着したってだけだ」


「なるほどな。じゃあ、魔界と人攫いの話はどこから出てきたんだろうな……。誰かに『魔界から人を攫いに来た』って言ってたりしないよな?」


「そんなことしねぇよ! そもそも、魔界って呼び名すら知らなかったっつーの! ……あ……でも……人攫いなら心当たりが……あるかも……知れねぇ……」


 おそるおそると言った様子で口籠るエリオをミーシャが睨みつける。


「……でしょうね。言いなさいよ。私は忠告したんだからねっ!」


「あ、あぁ……。ヘイザーランドを出るときに、村長に言われたんだ。『狙撃するまではなるべく目立つな』って。だけど、港に着いて小船を降りたら、早々に地元の漁師達に囲まれてよ……」


 そこで言葉を切り、顔を顰めるエリオ。


「はぁ……。話せないなら私が続けるわ」


 ミーシャが溜息をつきながらエリオの話を継ぐ。


「私達は港で船から降りた直後、漁師に囲まれて目立ってしまったの。『子供がこんなちっこい船で一体どっから来たんだ?』って聞かれたの。それでエリオが、とりあえず脅して人を散らそうって言い出して、『こことは別の世界から、貴様らを攫いに来た。五分だけ猶予をやろう。その間に逃げるがいい!』って……」


「「「「余計に目立つだろ!」」」」


 グレインは顔に手を当てて天を仰ぐ。


「……間違いなくそれが魔界の噂の元凶だろうな……。こっちの世界で有名な絵本に『魔界から悪魔がやってきて人を攫っていく』っていう有名な話があってな……。誰もが子供の頃に聞かされる有名なお話なんだ。そんな土壌で育った俺達にとっては、人攫いに来る別の世界って言ったら魔界って話になる」


「そ、そんなこと言われたって、俺達知らねぇもん!」


 そう言って唇を尖らせるエリオ。


「あんたが余計なこと言わなきゃ良かったの! 適当に答えておけばよかったじゃないの! あんたやっぱり馬鹿よ! 大馬鹿エリオ!!」


「で、でもっ……エリオくんは自分達が目立っちゃいけないと思ってやった事なんだよね? そんな絵本があるなんて事も知らなかったし……。だからミーシャちゃん、エリオくんの事を責めないであげて?」


「は、ハルナさん……」


 ミーシャに責められ、俯いていたエリオが顔を上げ、目をキラキラと輝かせながらハルナを見つめる。


「ぬぎぎぎ……」


 エリオの様子に気付いたミーシャもまた、歯噛みしながらハルナを睨みつけるのであった。


「とりあえず人攫いの話はだいたい分かった。……しかしお前ら、あの筋肉お化けみたいな漁師たちによくそんな嘘つけたな? 囲まれてボコボコにされててもおかしくないぞ?」


「絶対に勝ち目がない相手でも、自信満々に堂々としてりゃいいって村長に習ったんだ。そしたら相手はこっちに何か奥の手があると思って迂闊に手は出してこなくなるってな」


 腰に手を当て、胸を張るエリオ。


「村長すげぇな。一か八かじゃねぇか。なんて事子供に教えてんだよ」


 そんな中、グレインは壁際でそわそわしているサブリナに気付く。


「サブリナ、落ち着けよ。お前が聞きたいことは分かってる。ただの船でどうやって魔界に行けるのかって事だよな?」


「……っ! その通りなのじゃ。妾には……この世界には数えるほどしか同胞が残っておらぬ。じゃが、魔界へ往けば、もっと多くの同胞に会えるかもしれぬ……」


「じゃあエリオ先生に魔界への行き方を教えてもらいますか。先生、そこんとこどうなんでしょうか!」


 グレインが誂い気味にエリオに質問すると、彼は少しだけ俯き加減で呟くように答えた。


「……こっちから魔界には行けねぇよ。……帰れないんだ、俺達」




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