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第209話 マジで容赦ねぇな

 ようやく治療院へと辿り着いたグレイン達は、建物の外に散乱した大量の硝子の破片を見る。


「俺の矢が……引き起こした結果……」


 エリオはその破片を掃除している治療院の職員を、悲痛な表情で見つめる。

 その隣で、グレインとミュルサリーナは顎に手を当て考えを巡らせていた。


「妙だな……」


「この硝子……そうよねぇ」


 そんな二人に気付いたセシルが声を掛ける。


「二人で考え込んでしまって……何かおかしな所でもありましたの?」


「ちょっとおかしくないか? 外から矢が突き刺さったなら、破片は室内に向かって飛び散るんじゃないかと思ってな。……それに、矢で狙撃してるんだ。普通は硝子を貫通する筈で、こんな風に窓全体がバッキバキに割れる事はないんじゃないだろうか」


「でも、あの矢は風魔法を纏っていましたわ。風魔法に巻き込まれて窓全面が割れて飛び散ったのかも知れませんわよ。いわゆる『不思議現象』ですわね」


「あ、ああ……不思議っちゃ不思議だけど……なんだそれ」


「よく分からないけど魔法によって、きっと起こった……起こるに違いない……起こって欲しい……ような現象の事ですわ。今わたくしが考えた造語ですが」


「定義ブレブレだな……。要するに、よく分からんってことでいいか?」


「はい! そうですわ!」


 自信満々に腰に手を当て、無い胸を張るセシル。


「そうやって堂々と言えるところは尊敬するよ……。まぁここでごちゃごちゃ推測しても始まらないから、とりあえず中で話を聞くか。被害が無いことを祈ろう。……エリオ、ミーシャ」


 グレインは険しい顔で二人を見る。


「これからお前達を王女の前に連れて行く事になるが、俺の仲間には相手が子どもでも容赦しない奴がいる。妙なマネをするとただじゃ済まないぞ。そしてお前たちの手は、間違いなく王女には届かない」


「……分かった。そもそも港であんたらに出くわした時点で抵抗は諦めてるよ。頭数も戦力も、こっちは不利だからな」


 エリオが緊張した面持ちでそう答え、グレインの後について二人も治療院へと入っていった。



********************


「それで……狙撃手はこいつだったという訳じゃな」


 アウロラのいる病室で、床に正座させられているエリオをサブリナとヴェロニカが腕組みをして見下ろしている。

 二人の後ろからはティアが心配そうに様子を覗き込み、ティアの脇には不測の事態に備えてリリーがナイフを抜いて立っている。


「なぁ……あんたたち……その背中の翼って本物なのか……」


「勿論じゃ。魔族じゃからな」


「なぁ……この体勢……ちょっと足が痛いんだけど」


「話が終わるまではそのままに決まっておろう」


「マジで容赦ねぇな……」


 エリオはその状態のままで、トーラスから矢が飛んできた時の状況が説明される。


 治療院側の人的被害は、グレインの予想通り皆無であった。

 矢が飛来したとき、窓際に居たヴェロニカとアウロラが同時に気付き、アウロラが魔法で障壁を張った。

 異変に気が付いたトーラスも更に転移渦を生み出すが、どちらもミーシャの施した魔封じの術式によって無効化され、突破される。

 障壁を突破した矢を食い止めたのはヴェロニカであった。

 病室の窓を突き破って外に飛び出し、高速で飛来する矢を掴んで止めたという事だった。


「なるほどねぇ。それなら外に飛び散ってた粉々の硝子も納得だわぁ」


「それにしてもすげぇな、ヴェロニカ。魔法障壁が効かないからって物理的に……くふっ……飛んでくる矢を直接手掴みで止めるなんて、……脳筋にも程があるだろ……くくくっ……」


 グレインが笑いを堪えながらそう言った。


「うるさいっス! お姉様を救うためにはそれしか考えられなかったっス! これ以上自分の事を馬鹿にするなら、貴様の頭も矢と同じように握り潰してやるっスよ……。まぁそれより少年が先っスね。……どうしてお姉様を狙ったのか、答えてもらうっスよ」


 エリオの頭に手を伸ばすヴェロニカ。


「その頭がトマトのように握り潰される前に……答えるっス」


「あ、あわわ……お、俺は……」


 エリオはヴェロニカに頭を掴まれてだらだらと冷や汗を流し、全身ががくがくと震えだす。


「二人とも、やめてっ!」


 そんなヴェロニカとエリオの間に割り込んだのはハルナであった。


「エリオくんは私の命の恩人なんですっ。そりゃティアちゃんを狙って矢を射掛けたのは悪いけど、それはもう反省しているし、被害が無かったんだから許してあげてっ! ……大丈夫だよ、エリオくん」


「おねえざん……ありがどう……うぇぇぇ……」


 ハルナに抱きついてわんわん泣き出すエリオ。


「え……? 標的はお姉様じゃ……ない……?」


 ヴェロニカがグレインの方を振り向く。


「どういう事っスか……グレイン。貴様、『お姉様を狙撃した犯人を連れてきた』って言ってたっスよね」


「あ、あれ、……そんな事言ってたっけ?」


「ティアを置いていった時も、彼女が重要人物なら、地下室でも処置室でも、窓が無く入口が一箇所の部屋で厳重に警護した方がいいってアドバイスしたっスよね」


「あ、あれ、……そんな事言ってたっけ?」


「すべては……お姉様を巻き添えにして、私に守らせる為だったっスか」


 ヴェロニカはグレインの頭を掴むと、そのまま彼の身体を持ち上げる。


「あがががっ……いたたたた……ごめん……なさい……」


「謝ったって遅いっス! その頭、トマトのように……」


「ヴェロニカ、やめるのじゃ」


 サブリナがそう言うと、ヴェロニカの手からふっと力が抜け、グレインの身体はその場に落とされる。


「女王様、しかし……」


「ダーリンに手を出すでない! ダーリンのする事はいつでも正義なのじゃ!」


「ぐむぅぅ……し、しかし……考えようによっては、お姉様を人質にしたようなもんじゃないっスか」


 不満げな様子でサブリナに反論するヴェロニカ。


「よく考えるのじゃ。お主が矢を止めなければ、矢は間違いなくこの治療院に着弾していたじゃろ? アウロラ殿はそれでも無事だったかも知れんが、看護師や治療師、この治療院のスタッフなど、多くの無関係な命が失われていた筈じゃ」


「それは……そうかもしれないっスけど……」


「ダーリンはそこまで読んで、ヴェロニカ、お主なら必ず最後に矢を止めてくれると信じて、そなたにこの治療院の命運を託したのじゃ!」


 サブリナはそう言って、へばりつくように床に倒れていたグレインの身体を起こす。


「そ、そうだったっスか! 確かに自分の考えが足りなかったかも知れないっス……。グレイン、短絡的な行動に出てしまって申し訳ないっス」


「い、いや、分かってくれたらいいんだ。……サブリナ、ありがとうな」


 全くそんなに深い所まで考えていなかったグレインは、逆に戸惑ってしまう。

 そもそも矢が飛んできた原因は、ティアを病室に置いていったためにエリオに見つかったことなのだから。


「……それで……その女王様ってのは……」


「サブリナ様は生き残った魔族の王だと伺ったので、魔族になった自分の王でもあるっス。自分、昔から上下関係には厳しいっスから」


「そ、そうか……」


 サブリナとヴェロニカ、変な魔族コンビが生まれてしまったと後悔するグレインであった。



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