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第202話 犯人は必ずもう一度

「あー、なんだか物足りないわね……誰かさんのせいで、誰かさんのせいで! 朝食も満足に食べられないなんてねぇ!!」


 部屋に戻ってきたナタリアは腕組みをした状態で、足も組んでベッドに腰掛けている。

 そして彼女の目の前では、頬を手形に腫らして鼻血を流したグレインとトーラスが土下座させられていた。


「ナタリアサマ、チョーショクノジャマヲシテ、タイヘンシツレーシマシタ」


 グレインは全く感情のこもっていない平板なアクセントでナタリアに謝罪する。


「あぁん? 何よその口調はぁっ! あんた全く反省してないわよね? ……隣の変態は? 少しは反省してるの!?」


「女子部屋の床女子部屋の床……床の匂いもかぐわしい……」


 トーラスは床に額を密着させたまま、嬉しそうにそう呟いている。


「……ヒィッ! き、気持ち悪っ……。あ、あんたますます変態に磨きがかかってきたわねぇ。そろそろリリーに殺してもらった方が良いんじゃない? 変態は定期的に死んだ方がきっと健康にいいわよ」


 事情を知らない人間には全く通じない『定期的に死ね』というナタリアの言葉を気にする素振りも無く、トーラスは徐ろに立ち上がり、腹を押さえてトイレに駆け出していく。

 彼の『世紀の大発明』は、ナタリアにこっぴどく叱られて泣く泣く解除させられたため、再びトイレに籠ることになったのであった。


「とりあえず今日は、見ての通りトーラスが使い物にならないから、ティアは治療院でリリーに守ってもらうか、ハイランドのとこ──」


「治療院にいます! 絶対治療院! むしろ入院したい! ハイランドさんのところには行きません!」


 食い気味に答えるティア。


「そ、そうか? ならいいんだが……。じゃあみんなで治療院に行ってハルナとアウロラの回復具合を見て、いけそうなら探しに行こう」


「探すって、何をですの?」


 セシルが首を傾げる。


「ティアの命を狙った奴らに決まってるだろ? 二人の話だと、矢には魔法が乗ってなかったって言ってたよな? つまり狙撃手は、魔法による誘導ではなく、目視でティアに狙いを定めてたって事になる。そうすると、失敗したことも当然見えていたはずだ。つまり、犯人は必ずもう一度襲ってくる」


「でも、あの時は特に近くにいるような気配を感じなかったわよぉ」


「気配の隠蔽技術に優れている暗殺者かも知れないぞ?」


「謎は……解けましたわ! 犯人は矢を射た後に死んだのかも知れませんわよ? もしくは別の次元に逃げたとか、草木になったとかかも知れませんわね」


「疑問を投げ掛けちゃっておまけに色んなパターン出して、それ何も謎解けてないよね? ……まぁいいや。……それでここ数日、俺達はセシルが治療院にいる間、ティアの周囲を固めて治療院まで往復していたよな? 敵もそろそろしびれを切らしてくる頃だと思うんだ。そこで、このタイミングで囮を使って誘い出したい」


「囮……ですの?」


「あぁ、怪我を負ってもすぐに自分で治癒できるハルナに囮をやってもらおうと思ってる。アウロラの魔法でティアに偽装してもらって……な。だから二人の回復具合が重要なんだ」



********************


 そんな話し合いから小一時間ほど後、グレイン達は治療院から出てくる。

 先頭はティアに魔法で偽装したハルナ、その後ろにセシル、最後尾にグレインとミュルサリーナが歩いて付いていく。

 リリーやサブリナなどその他のメンバーはティアの護衛のため治療院で待機している。

 そして治療院の病室に横たわるアウロラには、ヴェロニカがいつものように寄り添っていた。


「ハルナ、今日退院許可が下りたばっかりでこんなことを頼んで済まないな」


「グレインさま、今の私はティアですっ! 誰が聞いているか分かりませんよ? ……それに、もう大丈夫ですから。私はグレインさまのお役に立ちたいんですっ」


 ハルナはそう言って再び歩き出す。

 グレインはそんなハルナの背中に頭を下げるのであった。


 そうして一同が街の外れにある治療院から、港町の近くまで差し掛かったとき、ハルナがポツリと呟く。


「何か……音が聞こえませんか?」


 ハルナは、不安そうに後ろを振り返る。


「……俺は……全く感じないぞ」


 グレインは周りをきょろきょろと見渡すが、特に異変はない。

 しかし、ミュルサリーナが両手を前方に翳して言った。


「ハルナちゃん、正解よぉ。退院明けでも頑張るあなたの努力に、狙撃手が応えてくれたみたいねぇ。真正面、港の方角から来てるわよぉ」


 グレインが前方を向くと、遠くから白い煙のようなものが高速で接近してくる。


「あれは……風が渦巻いているのか?」


「あららぁ。今回は魔法付きなのねぇ。……反魔法の魔力を感じるわぁ。おそらく矢じりに反魔法が展開されているわねぇ。これじゃあ魔法障壁を張っても簡単に貫通されちゃうから、みんな頑張って避けるのよぉ」


「そんな……無茶言うなよ! って……あれ?」


 かくしてグレイン達に飛来したその矢は、グレイン達の頭上すれすれを通り過ぎ、そのまま真っ直ぐにどこまでも飛んでいく。


「狙いが外れた……のでしょうか?」


 少しだけ安堵の表情を見せたハルナであったが、次の瞬間にグレインの言葉を聞き、その微笑を凍り付かせた。


「まずい……あの矢は治療院に向かっているんだ!」


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