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第199話 謎はすべて解けましたわ!

「……え? 魔女では……ないのですか?」


 ミュルサリーナの呟きに、セシルは目を丸くする。


「どうなのかしらね……。こう見えても私、昔は評判の村娘だったのよ。あ、魔女になる前の話ね」


 セシルは目の前の三十路前後に見える女性を見て、実年齢はいくつなのだろうかと首を傾げる。


「んー……今おいくつかはわかりませんが、目の悪い人に霧の中で暴力に訴えればギリギリ『娘』で押し通せると思いますわよ」


「うふふっ……。セシルちゃんって割と失礼ねぇ。あ、そして今ほんとは私が何歳なんだって考えてるでしょ。言っておくけど何千年も生きてる、みたいな事は無いわよ?」


「つまり……何百年かは生きているという事ですの?」


「うふふっ……。それでね、ある時村長の息子さんに恋をしたの。その頃はまだ真人間だったから、自分の親にも、彼の両親にも話を通して、交際していたわ。……そして交際して五年目の私の誕生日に、『大事な話があるから』と彼に言われて、夕方に村の広場に呼び出されたの」


 ミュルサリーナはセシルの問いが聴こえなかったかのように滔々と語る。


「そ、それはもしや、結婚の──」


 セシルは胸の前で両手を組み、目をきらきらさせてミュルサリーナの話に聞き入っていた。


「ところが、言われた時間に村の広場に行ったら村人がたくさん集まっていてね。……彼と隣町の町長の娘が結婚するって発表されたの。隣町の町長の協力で、この村もこれから発展していくだろうって。最初は政略結婚かと思ったんだけど……彼が私のところに来て、言ったのよね。『じゃあ、そういう事だから。バイバイ』って。そのあと広場で歓迎パーティが始まったけど、……とてもじゃないけど出られる気分じゃなかったわ」


「ひ、ひどいですわ……」


「それで家に帰ってみたら、……両親が真っ青な顔で倒れていてね。急いで治療院の先生を呼んだんだけど……手遅れだったの。死因は『流行り病』という事だったわ。……でもね、朝まで元気だったのに、夜にはいきなり倒れて死んでるなんてこと考えられる?」


「……ま、まさか……?」


 冷や汗を流すセシルに、微笑を向けて頷くミュルサリーナ。


「謎はすべて解けましたわ! 犯人は……村長一家ですわね」


「……あまり謎ではないけれどね。これで犯人が隣の大工さんだったら逆にびっくりよ。……結局、動機は分からないままだけれど、結婚を穏便に済ませるために、村長の息子と交際していた私の存在が目障りだったんじゃないかしら。村長一家か、隣町の町長一家のどちらかに雇われた者達の仕業だったのは間違いないわ。だって彼ら、数週間後に私の所にもやってきたもの。ちょうど、私が隣町の礼拝所でジョブを授かった帰りに襲われてね。ナイフで刺されてそのまま滝壺にドボンよ」


 そう言って、ミュルサリーナは自らの左胸の辺りに手を当てる。

 セシルがそこを見ると、はっきりと大きな刺し傷の跡があり、彼女は息を呑む。


「無事に……助かったんですの……?」


 恐る恐る聞くセシル。


「助かったからここにいるんじゃなぁい。私、幽霊じゃないわぁ」


 ミュルサリーナはそう言って、セシルの手を握る。


「あの……ミュルサリーナ……さん?」


「ミュルサリーナ、でいいわよぉ。私達はな・か・ま……でしょぉ?」


「あ、あの……ミュルサリーナ、どうして……手を……?」


「うふふっ……なんだったら身体も抱きしめたいくらいだわぁ。……私ね……本当は女の人が好きなの」


「え、えぇぇぇっ! あ、あの……わ、わた、わたた、わたくし……!」


 ミュルサリーナは慌てる様子のセシルを暫し眺めてから、浴場の窓の方へと視線を向ける。

 二階にある浴場の窓からは綺麗な星空が見える。


「……なーんてねぇ。……それにしても懲りないものね。今のは呪言みたいなものよ。下で聞き耳を立ててた男達に、呪いを声に乗せてプレゼントしたわ」


「の、呪い……ですの……?」


「人払いをしたかっただけだから、あんまりキツイのはやめておいたわ。数日間、お腹を下すだけの呪いよ。もう気配がなくなったから、続きを話しましょうか」


 セシルはそこで再び首を傾げる。


「あの……狙撃を防いだときもそうでしたが、どうしてミュルサリーナは、エルフのわたくしよりも……鋭いんですの? わたくし、窓の外に誰かいるとは気が付きませんでしたわ」


「さっきの続きね。滝壺に落ちた私は、奇跡的に下流まで流されて、ある女性に拾われたの。その人が、私の手当をして、助けてくれたわ」


 ミュルサリーナはやはりセシルの質問には答えず、話を再開する。


「意識を取り戻して、私はこれまでの事を思い出して泣いていたのだけれど、それを見た彼女が言ったのよ。『せっかく助けた命だが、自死を選んだ者だったか? それであれば申し訳ない。死にたければ今すぐ殺してやるが、どうする?』って。……自分で助けておいて、直後に殺してやるって言う人なんていないわよね」


 何かあればすぐ『殺す』と言う某ギルドの元サブマスターの顔がセシルの脳裏に一瞬過ぎったが、セシルは微笑んで頷く。


「それで、私は彼女にこれまでの経緯を話したの。彼女は私の話を全部聞いたあと、私に『お前はどうしたいのだ?』って聞いてきたわ。だから私は『彼を、彼の一族を、あの村を呪い殺したい』って答えたの。……目の前の相手が、魔女だとも知らずにね」


 そこまで話してミュルサリーナは笑い出す。


「凄い偶然よね。呪い殺したいほどの憎しみを抱いた人間が、魔女に拾われたのよ? 彼女は笑顔で言ったわ。『それならいくらでも力になれる。本職だからな』って。そのまま彼女に呪ってもらっても良かったのだけれど、結局私は彼女に弟子入りして、自分の手で呪うことにしたの」



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