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第194話 留守番

 グレイン達がギルドにいた頃、宿の客室内ではセシルとミュルサリーナが取っ組み合いの喧嘩をしていた。


「あらぁ、腕が短いからその弱々しいパンチも届かないのねぇ? さてさて、お子ちゃまエルフちゃんはどんな死に様をご希望かしらぁ?」


「このこのこのっ! リリーちゃんもナタリアさんも居ない今が、あなたを亡きものにする絶好のチャンスですわ!」


「いたっ! ……あたたっ! 二人ともやめて下さい! ナタリアさんが治療院へ向かう前に、大人しく留守番してろってあれだけキツく言ってたじゃないですか! それにミュルサリーナさん、そんなに動かれると傷の治療が終わりません!」


 飛びかかろうとするセシルを抑えながら、二人の間で板挟みになっている護衛対象のはずのティアは、未だにセシルに傷付けられたミュルサリーナの腕の傷を治療していたのであった。


「あら失礼、お姫さまぁ。……そういえばこの怪我、あとどれくらいで治りそうなのかしらぁ?」


「……このペースでいくと、ざっと三日、というところでしょうか」


「全治三日……敵意のない私に対して随分な大怪我を負わせてくれたものねぇ。それで、今日の治療はあとどれぐらいなのかしらぁ? どうやら私、このお子ちゃまの相手をしてあげないといけないみたいだからぁ……」


「『今日の治療』……? いえ、治療を小分けにして三日で治るという意味ではなくてですね、……その……三日三晩、不眠不休でヒールを使い続けて治るという意味なんですが……」


「えぇぇぇぇぇ!」


 ティアのヒールの治癒速度の遅さに、落ち着き払っていた魔女も大声を上げる。


「ちょっとそれはさすがに遅すぎるんじゃないかしらぁ!?」


「どうですかね……。私の見立てでは、丸一日ヒールを使って出血が何とか止まり、更に一日をかけて傷口が塞がり、最後の一日で傷跡が消える、という感じかなと」


「な、なるほどねぇ……。そこまでひどい怪我には見えないのだけれど、それほど深い傷を負わされたという事なのかしらぁ。…………これ、自然治癒だけの方が治りが早いということはないかしらぁ?」


「あ、それよく言われるんですよね……」


 ばつの悪そうな顔をするティア。


「「えっ」」


「えぇっとぉ……そもそも治癒魔法というものは、生体に備わっている自然治癒力を増幅させる魔法じゃなかったかしらぁ?」


「そうですわ。治癒魔法を掛けているのに自然治癒より治りが遅くなるなんてこと、ある筈がないですわ……。この傷だって小指の爪にも満たないほどの小さなものですし、唾でもつけておけば三日と掛からず治ると思いますわ。さすがに三日も掛かるとは到底思えないのですが……」


「あああっ! やっぱり痛いわぁ! 激痛がぁぁぁ! 見て見てぇ、まだ血が止まっていないじゃないのよぉ。きっとこれはものすごく深い傷なのよぉ。やっぱり全治三日の大怪我なんだわぁ!」


 明らかに大袈裟に痛がるミュルサリーナ。

 しかし、怪我をしてから一時間以上が経過しているが、その傷跡からは相変わらず血が流れ出していたため、セシルも神妙な面持ちになる。


「……りませんわ……」


「え?」


 セシルが何事かを呟くが、よく聞き取れないミュルサリーナ。


「申し訳……ありませんわ……。いかに魔女が下劣で低俗な下等生物だったとしても、先に手を出したのはわたくしですから、その点だけは謝罪しますわ」


「えぇっ? 何かしらぁ? もっともっともーっと大きな声で言ってもらわないと、私の耳には聴こえないみたいなのよぉ!」


 ここぞとばかりに満面の笑みで大声を張り上げるミュルサリーナ。


「……絶対聴こえてますわよね?」


「私ね、ものすごく耳が悪いのよぉ」


「……え? もしかして本当に……そうなんですの? でも先ほどまでは普通に会話が出来ていた気が……」


「誰かさんに負わされたこの傷のせいで、余計に聴こえなくなっちゃったわぁ」


「腕の傷と聴力は無関係では──」


 セシルがミュルサリーナに反論しようとしたところで、ミュルサリーナが左手でセシルの口を押さえる。


「しっ! ……何かが飛んできてるわよぉ」


 ミュルサリーナがそう言うと、セシルの顔色も変わる。


「まずいですわ!」


 そう言ってセシルはティアを庇うように押し倒し、ミュルサリーナは窓の方に向けて障壁魔法を発動する。

 次の瞬間、窓を突き破り、外から金属製の矢が飛来するが、割れたガラスも矢も、全てミュルサリーナの障壁に弾かれる。


「ひっ……」


 突然部屋を襲った衝撃に、ティアは唖然とする。


「あらあら、魔法だと勘付かれるから、物理的な手段で暗殺しようとしたみたいねぇ」


「……確かに魔力は一切感じませんでしたが……。どうしてわたくしの……エルフの聴力よりも早く気が付いたのです?」


 セシルがミュルサリーナに尋ねる。


「私ね、ものすごく耳が良いのよぉ」


 再び無言で取っ組み合いを始めようとするセシルなのであった。


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