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第191話 先が思いやられるな

 宿に戻ったグレインとトーラスは、食堂に全員を集め、サブリナ達にこれまでの経緯を語る。


「なんと! 人間族を魔族に変える呪いじゃと!?」


 サブリナの反応を見て、グレインがトーラスを肘で小突く。


「おい、トーラス。魔族のスペシャリストがどうしたって? 今のサブリナを見てみろ。スペシャリストどころか、明らかに何も知らないって顔してるぞ?」


「ひどい! きっ、君だってあんなに賛同してたじゃないか! ……サブリナさん、僕の名誉のためにも、もうちょっと何かを捻り出してよ……。何か、何か思い出せないかな?」


「むむむ……そんな事言われても、知らないものは知らないのじゃ! 第一、そんな便利な呪いがあったら、今ごろこの世界の魔族は絶滅していないのじゃ」


「……しょうがない。かくなる上は、僕の闇魔術でサブリナさんの脳内記憶を…………あ、いや、何でもない、何でもないよ」


 いつの間にかトーラスの首筋には、リリーのナイフがぴったりと密着している。


「とにかく妾には分からんのじゃから、これ以上どうしようもなかろ? それよりも今の闇ギルド首領が、魔界から来た魔族の王だという話の方が気になるのじゃが……」


 サブリナはそこまで言って、隣で頭を抱えてテーブルに項垂れているナタリアを見遣る。


「この馬鹿! 何でもっと早く言わないのよ! そんなヤバい奴相手にしてたら、こっちの命がいくつあっても足りないじゃないのよ!」


 項垂れていたかと思えば、いきなりグレインを睨みつけて罵声を浴びせるナタリア。


「よし、……話を総合すると、宿に戻ったけど大した情報は得られなかったって事でいいな。じゃあギルドに戻るか」


 グレインはナタリアの話を聞かなかったことにしてバルバロス達の元へ戻ろうとする。


「待つのじゃ! 妾も一緒に行くぞ! そのヴェロニカという魔族を見てみたいのじゃ」


「あ、あたしはセシル達と一緒にいるわね。そろそろハルナ達の様子見に治療院へ行かないといけないし。……それにしても、そもそもあたし民間人なのよ……。どうして命を狙われなきゃいけないのよ……」


 ナタリアはやはり何事かを呟いているが、グレインは聞こえないふりをする。


「リリー、セシル、闇ギルドの追手が来るかもしれないから、ナタリア達の護衛を頼むぞ」


「「「はいっ!」」」


 静かに頷くセシルとリリーとティア。


「……は!? ちょっと待て。なんでティアがここにいる?」


 気付けば、テーブルの一番端にティアが座っていたのであった。


「そもそも私の護衛はグレインさん達のパーティにお願いしていますから」


「いいからお前はハイランドに守ってもらえよ。あっちの騎士団の方が強いだろ」


「えーーーーーーーーー……嫌です」


 頬を膨らませ、明らかに不満そうなティア。


「だってあの騎士団、偽物が混ざっていたことに気が付かなかったんでしょう? そんな者達に命を預けられますか!? あの鎧は間違いなく、ローム公国騎士団の物だという調査結果も出たんですよ!」


 ティアがそう言った途端、どこからか高笑いする声が聞こえてくる。


「ふふふっ……あははっ……きゃはははっ! さすが私の作品だわぁ。どこからどう見ても騎士団の物と見分けのつかない鎧……あー、もう最っ高よぉ!」


 なんとテーブルの下から出てきた声の主は、トーラスの会話を盗聴していた魔女、ミュルサリーナであった。

 彼女が立ち上がった瞬間、グレインに後頭部を叩かれる。


「普通に登場できないのか、お前は」


「いったぁ~い。レディを殴っちゃいけないのよぉ?」


「お前はレディじゃなくて魔女だろ。俺の中ではスライムとかホーンラビットとか、モンスターと同類なんだが」


「えぇぇ!? ちょっとそれって酷くなぁい!? 私は仮にも人間族なのよぉ!?」


「ヒール」


 ミュルサリーナがグレインに抗議している隙を突く形で、セシルが突然小指の爪の先ほどの小さなヒールをミュルサリーナに向けて放つ。

 その魔法はふらふらと定まらない軌道でミュルサリーナの右腕をかすめて飛んでいき、食堂の壁に当たって霧散する。


「いったぁぁぁぁぁい!!!!」


 直後、ヒールがかすめたミュルサリーナの右腕には小さな裂け目ができており、そこから血が流れている。


「何するのよ小娘!」


「これは大変失礼をいたしましたわ。魔女の血の色が何色なのか興味がありましたので。わたくし達と同じ色なのですわね」


「私の柔肌に傷をつけるなんてただじゃおかな──……あらぁ? ぷふっ、あなた、あの薄汚いエルフ族じゃないのぉ」


「獣のように意地汚い魔女に、そのような事は言われたくありませんわ」


「二人とも! ここは私の顔に免じて一旦休戦としていただけませんか? ミュルサリーナさん、いま手当をしますから!」


 険悪な雰囲気の二人の間に割って入ったのはティアだった。

 そして彼女はミュルサリーナに駆け寄ると、その腕の傷に治癒魔法をかけ始める。

 ただし一向に血が止まる気配はない。


「……噂に聞いた通り、エルフ族と魔女は仲が悪いのですね」


 ティアがミュルサリーナの傷に手をかざしながら呟く。


「何だそれ? そんな話初めて聞いたぞ」


「あんたが噂話に疎いだけじゃないの。何でも近頃、あちこちで森に生えてるキノコとかの素材をめぐってエルフ族と魔女が衝突してるらしいわよ? ……ねぇ、普通に包帯で治療したほうが早いんじゃない?」


 ナタリアはテーブルに頬杖を付きながら、見てられないといった風でティアのヒールに口を出す。


「そりゃ困った話だ……。ミュルサリーナはうちのパーティに加入するんだが、そんな種族同士のいざこざがあるんじゃ、先が思いやられるな」


「「「「「はぁ!!??」」」」」


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