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第184話 お前有罪な

 アウロラが放った氷の刃により、ミュルサリーナの家の中に轟音が引き起こされる。


「ごっほっ、ごほっ! あ……あれ……生きて……る?」


 ミュルサリーナは、舞い上がる埃と魔道具の破片に咳込みながら、五体満足な自らの手足を確認する。

 しかし、それも束の間、彼女の首筋に、再びアウロラが作り出した氷の刃が当てられる。


 床に蹲りながらも顔を上げたミュルサリーナの眼には、笑顔のアウロラが映っている。


「次は……無いよ?」


 ミュルサリーナは改めて目の前の存在に恐怖を感じる。


「……すげぇな……。今ので……何人殺った?」


 その時、グレインがアウロラの氷の刃の飛翔先──窓の外を覗き込みながら呟いた。


「んー、分からないけど、そこの窓から様子をうかがってた人は全員、かな。もう気配はなくなったし」


「ど、どういう……事なの?」


「アウロラ、ミュルサリーナを離してやってくれ。……おい、気になるならそこの窓の外を見てみろよ」


 グレインの言葉にアウロラは頷き、ミュルサリーナの首筋に添えられていた刃は消滅する。

 慌ててミュルサリーナが窓辺に駆け寄って外を覗くと、そこかしこに上半身を両断された死体が転がっており、辺り一面が血の海となっていた。

 見れば、どの死体の傍にもナイフや弓矢のような武器が散乱している。


「お前にとって都合のいい方に解釈すると、そいつらは闇ギルドの手先で、お前の口を封じるために来たんだろうな。都合の悪い方に解釈すると、こいつらはお前の雇った用心棒で、俺たちを殺す機会を狙って──」


「知らない知らない! こんな奴ら、見たことないわぁ!」


 ミュルサリーナは首を左右に振りながら大声で否定する。


「まぁ、それを本当だと信じるかどうかも、ここからのお前の態度次第な訳だが?」


「話す、話すわぁ! 依頼主の事なら何でも話すから! だから殺さないでぇ!」


「さっきまでは死んでも喋らない、と言ってた奴の言葉とは思えないんだが? これじゃあ、お前の言葉に信憑性のかけらもないぞ。やっぱりここで死んどくか」


 ミュルサリーナに意地悪な質問を繰り返すグレインを見て、アウロラは呆れる。


「相変わらず、どっちが悪人だか分からないよねー」


 そう言いながら、アウロラは再度氷の刃をミュルサリーナに突きつける。


「これはれっきとした契約違反なのよぉ! 口封じで私の命を狙いに来るなんて言語道断だわ! だから、守秘義務ももう守る必要なんて無いのよぉ! そういうわけだから、無条件降伏! あなた達に全面的に協力するわぁ」


 その言葉を聞いて、ハイタッチを交わすグレインとアウロラであった。



********************


 ────トーラスは、自分が蘇生されるまでの間にそんな事があったのも、ましてや数日間の時間が経過している事にも気が付かず、アウロラが死んだのは自分のせいだと散々泣き喚いた、その直後。

 相変わらず地面に蹲ったままだが、落ち着きを取り戻したトーラスの目の前には、血塗れの服を着たグレインとナタリアが立っている。

 二人の後ろには、胸の中央にナイフが突き立てられたアウロラの身体が見える。

 落ち着いた状態のトーラスは、アウロラの胸から見えるナイフの柄から、それがリリーのナイフであることに気付く。

 しかし、トーラスは先ほど『グレインがナイフを突き立てていた』ところを目撃しているため、アウロラの蘇生は望めない。


「トーラス……ようやく、話す気になったか?」


 グレインが静かに声を掛ける。


「も……もし、もしかしたら……ぼ、僕が内通者だったかも……知れないんだ」


 地面に打ち付けた額から流れる血もそのままに、トーラスは掠れた声でそう告白する。


「『だったかも知れない』ってのはどういう事だ?」


「実は……ある人に頼まれて、僕たちの行動予定をその人に逐一連絡してたんだ。……だから……もし彼が内通者だったとしら……今殺されたアウロラさんは無罪で、僕がその内通者の片棒を担いでいたことになる」


「勿体ぶってないで話せよ。お前にその連絡を依頼したのは誰なんだよ?」


 グレインは少し苛ついた様子でトーラスを促す。

 サブリナやハルナ、ナタリアは二人のやり取りを静観している。


「……きっと驚くよ?」


「大丈夫だ。たとえどんな名前が出ても、誰一人驚かないと思うぞ」


 グレインは口元を歪めながらそう答える。


「ティグリス様の近衛騎士の──ビルなんだ」


「……で?」


「え? …………」


 その場に沈黙が訪れる。


「ほ、ほんとにみんな驚かないね!? ……ビルが本当に内通者なのかは分からない。ただ、僕が全員の状況を逐一ビルに伝えていたんだ」


「経緯を聞いてもいいか?」


「ビルとは、とある事で仲良くなってね。そしたら打ち明けられたんだよ。近衛騎士は姫様の行く先々に帯同する必要があるけど、自分はよく姫様を見失うから、どこに行ったか教えてほしいってね。あとは、グレイン達が姫様の傍にいる時は多少のんびり合流しても問題ないだろうから、そういう情報も教えてくれると助かるって」


「前半それっぽいこと言ってはいるが、後半は完全に近衛騎士失格だろ……。要するに、俺達にティアの警護をさせて自分は職務放棄するって話だよな? お前、よくそれで協力する気になったな……」


「師匠、師匠って呼ばれて、少しいい気になってたんだ」


「……ちなみに、なんでビルから師匠って呼ばれることになったんだ?」


「ちょっと……ね。色々あってさ」


「色々じゃない! ちゃんとそこまで説明してもらおうか。俺達はみんな、命が危険に晒されたんだ。お前には説明責任がある」


「ビルとは、…………でね」


「声が小さい! 聞こえないぞ!」


「ビルとは、女風呂の、覗き仲間でね! 僕が楽しみ方を色々と彼に伝授してから、そう呼ばれるようになったんだ!」


「よし、そろそろいいか。それじゃあ立て、トーラス。お前に裁きを下す……お前有罪な。っておいリリー、早い早い」


 グレインの言葉を待たずに、少女は両手のナイフで立ち上がったばかりのトーラスの腹部を切り開いていた。


「理想の暗殺者は……殺意と同時に動き出す……」


「みんな、とりあえずさっき俺が伝えた情報と同じだったろ? ……こいつはただ頼まれて、何も知らずビルに情報を流していただけだし、ビルにも悪意があった訳じゃない。悪いのは盗聴した魔女と、その魔女に依頼した黒幕だ。だからナタリアもティアも、セシルまでそんな怖い顔するなって」


「怒ってるのは情報を流した事じゃないわよ! 覗きの話は初耳だわ!」


 顔を真っ赤にして怒るナタリア。


「仮にも私は国王なのに、その湯浴みを覗くなんて無礼を……。 しかも本来なら近衛騎士が覗き魔に正義の鉄槌を下すところですが、その騎士もまた覗き魔という最低最悪の状況」


 ナタリアとは対照的に、額に手を当てて青い顔で項垂れるティア。


「トーラス様……これはれっきとした浮気ですわ」


 溜息をつくセシル。


「まぁ、覗きって言っても音だけなんだぞ? だから覗きというより、聞き耳を立ててたと言った方が近いんだ。見られてないんだし、勘弁してやったらどうだ?」


「「「許しません!! きっちり死んでもらいます!」」」


「何よ!? あんたはこいつを責めてんの? それとも弁護してんの? ハッキリしなさいよ!」


 怒りの女性陣の中から、更に一歩前に出たナタリアに詰め寄られ、何も言えなくなるグレイン。

 そしてトーラスは、女性陣の視線の中、最愛の妹に内臓を掻き回される激痛を感じながら、薄れゆく意識の中ではっきりとその言葉を聞いたのであった。


「リリー、扱き使ってるようで済まないが、そいつを捌き終わったらアウロラの蘇生を頼むぞ」



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