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第183話 死ぬのはあなた達

「とりあえず落ち着いて、お茶でも! ささっ、どうぞどうぞぉ」


 ミュルサリーナに勧められるがまま、お茶を啜る二人。

 グレインがクッキーに手を伸ばすが、その手は再びアウロラに叩き落とされる。


「ねぇグレイン、ちょっと落ち着いたら、クッキーよりも話を進めようよー」


「少しぐらいいいだろ!? まったく……。……それで、闇ギルドに情報を流してたのはお前ってことでいいんだな?」


 グレインは苛立ち混じりにミュルサリーナに問い掛ける。


「……あなた達がそう言うのならそうなんじゃないかしらぁ。私はなんでも屋として、お客様の要望にお応えしているだけよぉ?」


 ミュルサリーナは笑顔でそう答えた。


「それは一体誰に頼まれたんだ?」


「言えなぁい。守秘義務ってやつねぇ」


 ミュルサリーナは両手の人差し指を口の前で交差させる。


「ふざけるなよ! こっちは危うく命を落とすところだったんだぞ!」


 あくまで飄々とした態度を変えないミュルサリーナに、思わずグレインは声を荒げる。

 しかし、ミュルサリーナは火に油を注ぐような言葉を掛ける。


「しょうがないじゃないの。私も仕事なのよぉ? 私の仕事の結果あなたが死んだとしても、それも運命だったってことよぉ」


「決めたぞ! アウロラ、こいつを殺す──」


「まぁまぁまぁ落ち着いて落ち着いて落ち着いてぇ! そうは言っても私、あなた達に協力しないとは言ってないわよぉ? ……お茶飲んでクッキー食べて、一旦落ち着きましょう! ね!?」


 テーブルに手をついて勢いよく立ち上がったグレインであったが、『協力』というミュルサリーナの言葉に何とか心を落ち着けて着席する。

 そしてクッキーに伸ばした手を、またもアウロラに叩き落される。


「おい! お前一体……もぐ」


 アウロラに文句を言おうと思ったグレインは、その口にアウロラの手で運ばれたクッキーを突っ込まれて沈黙する。


「そんなにクッキー食べたいなら、ウチが食べさせてあげるよー?」


「なんで……もぐ……お前が……俺に……むぐ……」


「うふふ……キミとウチの仲じゃないのー」


 これを見ていたミュルサリーナが、きゃいきゃいと二人を囃し立てる。


「っきゃぁー! お熱いことで! いいもん見させてもらいましたわ! これは子宝もそう遠くない感じですなぁ」


「おい! ……何勝手なこと……むぐ……」


 反論しようとするグレインであったが、開いた口に次々とクッキーを突っ込まれて何も言えなくなる。

 皿に盛られたクッキーはみるみるうちに枚数を減らしていき、最後の一枚になったところで、アウロラがそれを自らの口に運び、ティーカップの中身も飲み干してから軽い調子で口を開く。


「さて、落ち着いたことだし、話を続けようかー。依頼主の情報を教えてくれる? もし吐かなければ……今すぐ死んでもらおうかな」


 アウロラは、以前闇ギルド総裁としてグレイン達と相対した時と同じ、氷のように冷たい目をしていた。

 グレインは口の中にクッキーが詰まったままの状態だったが、久しぶりにその目を見て、全身に鳥肌が立つのを感じる。

 しかしミュルサリーナはその態度を変えることは無かった。


「私が死ぬ……? それは間違いよぉ。死ぬのはあなた達の方でしょう? ……この仕事してるとね、こういう目に遭うのも日常茶飯事で、私もこれまでたくさんの修羅場をくぐって生きてきたのよぉ?」


 そう言うとミュルサリーナは立ち上がり、バックステップでテーブルから数歩離れる。

 グレインも立ち上がり、剣を抜こうとしたところで、テーブルを中心にして床に魔法陣が浮かび上がる。


「あなた達が食べたクッキー、ただのクッキーだと思ったぁ? 私はお茶には毒を入れていないと言ったけど、クッキーにも何も入れてないとは言ってないわよぉ! キャハハハッ!」


 グレインはミュルサリーナが歓喜に震える様子を睨みつけながら、口の中のクッキーを吐き出す。


「もう魔法陣が発動してるから、今更吐き出したって遅いわよぉ! 呪いのクッキーを食べたあなた達は、身体を自由に動かせなくなって私の操り人形になるのよぉ! 心配しなくていいわぁ……すぐに壊さないよう、大事に使ってあげるからぁ」


 グレインは、その身体に異常をきたす前にと急ぎ剣を抜き、ミュルサリーナに斬りかかる。

 ミュルサリーナは慌てて飛び退り、既のところでグレインの斬撃を躱す。


「ひゃぁっ! 危ないじゃなぁい! あなた、呪いが効きにくい体質なのかしらぁ? さっさと人形になりなさいよぉ!」


「くっ……呪いの効き目が現れないうちに! お前を……仕留めれば!」


 そう言ってグレインはミュルサリーナに飛び掛かり、馬乗りになってその首に手を掛ける。


「さぁ、魔法を解除するんだ! そして依頼主の情報を吐け!」


「い……嫌よ! 私だってこの仕事に誇りを持っているの! 死んでも依頼人の情報は喋らないわ! クッキーの呪いさえ効けば……あなたなんてぇっ……」


「あっははははははっ! 残念でしたー」


 その時、グレインの背後で、テーブルについたままのアウロラが大声を上げて笑う。


「クッキーに掛かってた呪いの術式、ぜーんぶウチが解呪したよー?」


「なっ……。解呪なんてクッキー一枚ごとにしないといけないのよぉ? そんな事が出来る訳ぇ……あっ!」


 ここでようやくグレインも、アウロラの行動に合点がいった。


「お前……まさか俺が直接クッキーに触らないように手を叩いて、そして一枚ずつ解呪しながら……俺の口にクッキーを突っ込んだんだな?」


 ミュルサリーナに覆い被さっていたグレインは立ち上がり、アウロラの方を見る。


「えへっ。美味しかった? ウチが食べさせてあげたの、ナーちゃんには内緒だよー」


 爽やかな笑顔で、左手の人差し指を唇に当てるアウロラ。

 それと同時に、彼女は右手に氷の刃を作り出す。


「そんな……そんなことってぇ……」


 アウロラは徐ろに立ち上がり、右手の氷の刃をミュルサリーナに向けて掲げる。


「そんなそんなそんなぁ!!」


 既に涙声のミュルサリーナに向けて、アウロラの氷の刃が放たれたのであった。


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