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第160話 どこかで酔い潰れてしもうたかの?

 明くる朝、グレイン達は宿の食堂で朝食に舌鼓を打っていた。


「それにしてもサブリナのやつは遅いのう。どこかで酔い潰れてしもうたかの?」


「……グレイン、それってサブリナの真似? 全然似てないわよ」


「それにしてもサブリナさん、本当にどうしたんでしょう? 聞いた話だと、冒険者ギルドでは歓迎されていたんですよね?」


 ハルナも心配しているとおり、サブリナは昨夜グレイン達と別れて酒場に向かって以来、宿に戻って来なかったのである。


「あたし、だんだん不安になってきたわ……。確かにギルドでは歓迎されていた……ように見えたけど……。この街の漁師たちは魔界に連れて行かれたとか言ってたし、冒険者達も心の底では魔族を目の敵に……」


 ナタリアが曇った顔で言うと、セシルが続く。


「なるほど……。実は歓迎した振りで魔族を誘い出し、お酒に酔ったところを縛り上げて、あーんなことやこーんなことを……。最終的には指先から少しずつ身体を切り刻み……あぁぁ、想像しただけでぞくぞくしますわ……」


「そんな事しないで、僕ならストレートに全員で取り囲んで袋叩きにするかなぁ。勿論手足は砕いて身動きできないようにした上でね」


「私なら……小細工しないで毒酒……。のたうち回って絶命する……最凶レシピを振る舞ってあげる」


「セシルもトーラス兄妹も、時と場合を考えて! 爽やかな朝食の席で、そんな話で盛り上がらないでよ。指先から身体を切り刻むとか袋叩きとか、食欲が削がれるじゃないのよ! あとリリー、毒酒って時点でそれは充分に小細工よ!」


「ナタリア、とりあえず座れって! お前の声が一番でかいぞ」


 興奮して立ち上がるナタリアをグレインが諌める。

 グレインの注意を受けてナタリアが周囲を見ると、食堂にいた他の宿泊客から自身が冷ややかな視線を浴びていることに気付く。


「……サブリナの事は心配だけど、今はこの朝食を楽しみましょ!」


 萎れるように席についたナタリアは、顔を真っ赤にしながらそう言うと、黙々と山盛りの刺身が乗った丼を食べる。


「ん〜、美味しい! 魚を生で食べられるなんて、港町ならではよね!」


「お前、切り替え早えぇな……」


 ナタリアを見て呆れるグレイン。


「魔法で鮮度を維持したまま運べば、内陸でも同じ物が食べられそうだけどね」


「……トーラス、あんたって時々そういう風情をぶち壊す発言するわよね」


「いや、僕はただ魔法の素晴らしさを……」


 ナタリアがトーラスを軽く睨みつける。


「ま、まぁまぁ、せっかくの美味しい朝ごはんなんですから、和やかに食べましょうよっ。そして、サブリナさんを探しに行きましょう!」


 こうしてハルナが一旦この場を収めたかに見えたが、ナタリアとトーラスの間では戦いの火蓋が切って落とされたのであった。



********************


 グレイン達は朝食を終え、昨夜サブリナが向かった酒場へと足を運ぶ。

 しかしサブリナの姿はない。


「あぁ、魔族のねえちゃんか。ゆうべ大勢の冒険者を引き連れて飲んで大騒ぎしてったよ。でも、閉店時間までは居なかったなぁ」


 酒場の店主がグレインの質問にそう答えた。


「もしかして……本当に誘拐……」


 ナタリアはそこまで言うと、黙りこくったまま、俯いて酒場から出る。


「とりあえず、冒険者ギルドへ向かおう。サブリナと一緒に飲んでた冒険者達からも情報がもらえるかも知れない」


 グレイン達は駆け足で冒険者ギルドに駆け込み、カウンターで受付嬢……ならぬ受付マッチョに話を聞く。


「今日はまだ誰も見てないねェ! サブリナさんだけじゃなく、一緒に飲んでた冒険者の奴等もだ! これは何か事件の香りがするぞ! どれ、ここはギルド受付ボーイ随一の筋肉量を誇る、この『鋼鉄の大胸筋』サムスが調査に協力──」


「なるほどありがとうございました」


 異様な空気を察したグレインは短くそう告げて早々にカウンターを去ろうとするが、出口へと振り返った先に、別のギルド職員が立ちはだかっていた。


「兄ちゃん、待ちな! ここは一つ、『輝きの大臀筋』ブラムに任せてくれよ」


「いいや、『唸る上腕二頭筋』ボルトが相談に乗るぜ!」


「「「「うわぁ……」」」」


 グレインが隣を見ると、トーラスやナタリアでさえも真っ青な顔をしていた。


「こ、このギルド、昨日はこんな暑苦しい化け物たち居なかったわよ!?」


「……いや、よく考えると……昨日カウンターに一人だけ立っていたような気がしなくもないこともないかも知れない気がする」


「結局どっちなのよ」


「忘れた」


 グレインはナタリアに小突かれる。


「でも、昨日のギルマスの周りにいた秘書官の人達も、ここまで筋肉人間って感じじゃなかったわよ」


「タタールさんとバルバロスさんの印象が強すぎて、僕は全く思い出せないね……。と言うか、今このギルドには幼女成分が微塵も無くて辛過ぎるよ……。この際幼女なんて贅沢は言わない……。どこかに可愛い女の子は落ちてないかな……」


 もはや限界を超えたのか、自らの願望を全く隠そうとしないトーラス。


「皆さん……凄いですねっ! どなたも負けず劣らず立派な筋肉をお持ちで! 是非ともトレーニング方法を教えていただけますかっ!?」


 そんな中、水を得た魚のように、一人元気にギルド職員を質問攻めにするハルナなのであった。


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